です。中国の首相は日本と違って主に経済政策に責任を持つこと
になっており、その手腕が注目されています。
さらに、胡錦濤政権のときの温家宝首相がそうであったように
外交においても李克強首相が前面に出てくることが多いので、ど
ういう人が首相になるかは、日本にとって大変な関心事であった
のです。
そのため、李克強首相が決まったとき、大メディアは李首相の
プロフィールを詳しく伝えていましたが、意識的に伝えていない
情報があるのです。それは、李首相が若いときに小沢一郎氏の私
邸に書生としてホームステイしていた事実です。
この情報はEJでは数回お伝えしていますので、読者はご存知
ですが、なぜ、その事実を紹介しないのでしょうか。中国のナン
バー2の政治家が、今でも現役の日本の有力政治家の私邸にかつ
て書生として住み込んでいたことがあるのです。大きなニュース
であり、日中関係改善のカギになる可能性があります。そうであ
れば、事実なのですから、伝えるのがメディアの使命なのではな
いでしょうか。
これは伝えないのではなく、伝えたくない、伝える気がないの
です。日本のメディア──とくに記者クラブメディアは、小沢一
郎氏にとってマイナスなことは、たとえそれがうそのことであっ
ても針小棒大に書き立てるくせに、逆に少しでもプラスのことは
絶対に伝えないのです。これはもはやメディアではなく、自民党
の応援メディアと化しているとしかいう言葉がありません。
そういうメディアにあって、『週刊ポスト』3/29はこの事
実を取り上げています。新聞やテレビが一切伝えないのですから
EJが代わってご紹介することにします。
李首相は、学生時代から日本から多くの学ぶべきことがあると
して、何回も来日しています。小沢氏の私邸に書生として住み込
んだ経緯についてはよくわかりませんが、政治の勉強のためにそ
うしたものと思われます。
しかし、これほどの知日派でありながら、李首相の対日観はあ
まり伝わってきていないのです。2010年10月31日のこと
です。日本の尖閣国有化宣言の直後のことですが、日中国交回復
40周年記念パーティーがホテルオークラで開かれたのです。
そのとき、招待客の一人に謝恩敏氏という人がいたのです。謝
氏は北京大学在学中に寮で李克強氏と同室だったのです。その謝
氏が、1982年に神戸大学に留学するさい、李克強氏から手紙
をもらったのです。日本に留学するさいのアドバイスです。
挨拶を求められた謝恩敏氏は、李氏の了解を得て、その30年
前の手紙を読み上げたのです。その時点で、李氏が首相になるこ
とはほとんど決まっていたのです。
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日本人は向上心に富んだ民族です。日本に行ったら、専門分野
ばかり学ぶのではなく、日本の民族精神と文化背景について学
ぶことに更に多くの時間を割くべきです。日本人は常々、東西
の文化を有機的に結び付けたことを誇りにしていますが、日本
人はどのようにしてそれをやったのでしょうか。これについて
は理性的に研究するばかりではなく、感性を持って知ることが
大切です。 ──李克強氏/『週刊ポスト』3/29
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とても素直な対日観であり、日本を高く評価しています。この
会合には、駐日大使館の関係者や福田康夫元首相、海江田万里現
民主党代表らも出席していたのです。
また、謝氏がこの手紙を紹介することについて了解を求めたと
き、李氏は謝氏に対し、「私の気持ちは、この手紙のときと変わ
らない」と断わっているのです。そういう意味で現在でも大変な
知日派であるといえますが、それでも歴史問題に次のように釘を
刺しています。手紙は次のように続くのです。李氏自身が述べて
いるように、彼はこのことも忘れていないのです。
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しかし、民族を絶滅しようとしたあの戦争のことを忘れてはい
けない。歴史の教訓を汲み取ることは決して復讐のためではな
く、歴史が繰り返されることを防ぐためです。
──李克強氏/『週刊ポスト』3/29
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民主党の失敗は、2010年の中国漁船の海保の巡視艇への衝
突事件、石原慎太郎前東京都知事の尖閣諸島買い取り宣言のとき
も、菅首相も野田首相もごく少数の幹部で対応を決めてしまって
いますが、なぜ、中国に強い小沢元代表に相談しなかったのでし
ょうか。尖閣諸島買い取り宣言のときは既に小沢氏は離党してい
ましたが、衝突事件のときは民主党にいたのですから、どんなに
意見が対立していても相談はできたはずです。首相としての能力
に欠けるところがあったといわれても仕方がないでしょう。
ところで、李克強首相は就任の記者会見で次のように注目すべ
きことを述べています。
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これからの中国の改革は既得権益に切り込むという難しい問題
を解決する時期となる。しかし、既得権益に手をつけることは
非常に難しい。しかし、これは国家の命運と民族の将来にかか
わる問題で、ほかの選択肢はない。どんなに困難だとしてもや
り遂げる。 ──李克強首相
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李首相は「既得権益に切り込む」といっています。これはある
意味において、多くの既得権益を持っている上海派に対する牽制
と取ることもできます。
なお、李首相は持続的な経済成長を達成するためには、たとえ
小さな戦争であってもこれを行うべきではないとも発言しており
尖閣諸島との紛争がこれ以上拡大しないようにしたいともとれる
メッセージを出しているのです。いずれにしてもこれ以上トラブ
ルを拡大して欲しくないものです。 ── [新中国論/08]
≪画像および関連情報≫
●共産党人事は「コップの中の嵐」/富坂 聰氏
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そもそも、日本のメディアは、少し前まで、習近平を江沢民
派ではなく太子党(共産党幹部子弟のグループ)と分類し、
薄煕来(元重慶市書記、政治局委員)の同志と位置付けるこ
とで、胡錦濤国家主席派(共青団閥)と江沢民派、そして太
子党の「3派鼎立(ていりつ)」という構図で共産党の政策
決定を描いてきた。しかし、こうした派閥争いの構図と現実
の政治展開(例えば、薄煕来の失脚)との整合性がいつの間
にか失われていることを考えれば、「江沢民派が優勢」など
と報じることは、あまりにも無責任だと言わざるを得ない。
その意味でも、ここからは「派閥がすべて」の中国分析から
距離を置いて、あらためて共産党という組織が現在置かれて
いる状況と向き合ってみたい。もちろん人事が動く以上、そ
こに何らかの利害衝突や摩擦が起きるのはつきものだ。だが
重要なのは、それが中国の未来を語る上でどれほど大きなウ
エートを占めるか、なのだ。5年前ならいざしらず、この国
の主役が共産党から民意へと移ってしまった現状を考えれば
共産党内の人事問題などしょせん「コップの中の嵐」でしか
ないというのが筆者の考えだ。
http://www.nippon.com/ja/currents/d00061/
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李克強中国首相