2007年02月27日

東京電力はなぜ光事業に失敗したのか(EJ第2028号)

 電力会社にとって通信事業は長年のやるべき課題だったはずで
す。とくに光ファイバー事業は、今後の電力会社の発展の基礎と
なるべき重要なビジネスであり、20年の歳月を費やしてここま
でやってきたのです。それなのに東京電力はなぜ成功させること
ができなかったのでしょうか。
 2006年10月12日、KDDIと東京電力の緊急記者会見
の席上、東京電力の勝俣社長はそれについて見解を求められ、次
のように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  二点あります。一つは、最初の出だしの部分、オール電力で
 総力を挙げ、全国でサービス提供しようと思っていたが、いろ
 いろな要因で提供エリアが地域に限定された。
  二つめはやはり私どもの力のなさ、力が不足していた。技術
 革新なども含めスピードについていけなかった。
  ただ、最終的には(東京電力の通信事業への投資は)十分ペ
 イしているという認識であります。
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうして東京電力の光ファイバー事業はうまくいかなかったの
でしょうか。
 東京電力の競合相手は、事実上NTT東西とUSENの2社と
いうことになります。KDDIやボーダフォン(ソフトバンク)
をはじめとする他の通信事業者はNTT東西から回線を借りて営
業しているので、NTT東西陣営ということになるからです。
 2006年3月末時点の光ファイバー市場のシェアは次の通り
となっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     NTT東西  ・・・・・ 62.6%
     電力系事業者 ・・・・・ 15.8%
     USEN   ・・・・・  8.7%
     その他    ・・・・・ 12.9%
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかも、NTT東西の62.6%という圧倒的なシェアは、2
005年末から3ヶ月でシェアは約2%も増加しており、さらに
拡大する傾向があるのです。
 どうして、NTT東西が圧倒的に強いのかというと、それは、
NTTの圧倒的な資金力に基づく営業力にあります。それは、次
の3つの点に集約されます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.業務フローや工事体制の大幅なる改善
     2.魅力的インセンティブによる販売施策
     3.豊富な資金をふんだんに使う広報施策
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「業務フローや工事体制の大幅なる改善」です。
 現在、NTT東西は光ファイバーの工事を受けた時点で工事を
その場で決められる「即決システム」を導入しています。その期
間も申し込みから開通までは1ヶ月から1ヶ月半であり、かつて
の数ヶ月待ちはなくなっています。それに工事の初期費用が無料
は当たり前のことになっています。
 第2は「魅力的インセンティブによる販売施策」です。
 NTTは光ファイバーにすべてをかけており、量販店に支払う
光ファイバーのインセンティブは一契約10万円が相場という話
まであります。光ファイバーはいったん敷設してしまうと、他に
乗り換えにくいことから、とにかく潤沢な資金を使って契約獲得
に全力を上げているのです。
 第3は「豊富な資金をふんだんに使う広報施策」です。
 とにかくテレビCMが凄いです。NTT東日本はSMAP、N
TT西日本はイチローを使うなど大物を起用してのCM攻勢――
電力系通信事業者は手も足も出ないでしょう。テレビCMを見て
いる限り、光ファイバー事業をやっているのはNTT東西だけと
いうイメージさえできてしまいます。
 これら3つのことに加えて、これもテレビCMの効果と思われ
るものが、IP電話サービスの「光電話」のセット率が80%で
あることです。これによって、固定電話の収益は低下するのです
が、NTT東西が一番恐れているのは他社にとられることであり
それを防ぐためには仕方がないという考え方です。
 NTT東西は「トリプルプレイ」に力を入れており、それをテ
レビCMでSMAPにいわせているのですが、この「トリプルプ
レイ」は業界用語なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ≪トリプルプレイ≫
     1.インターネット接続
     2.IP電話サービス ―― ひかり電話
     3.映像サービス   
―――――――――――――――――――――――――――――
 この強力なるNTT東西に対抗するには、電力系通信事業者と
しては、最初からオール電力でやるしかなかったのです。東京電
力の勝俣社長はそれをいっていたのです。
 しかし、ここでKDDIが東京電力の光ファイバー事業を手に
入れたことにより、電力系通信事業者としてNTTに対抗する新
たな道が開けてきていると思います。東京電力以外の電力系通信
事業者はKDDIと組む気はあるのでしょうか。
 NTT東西から見れば、KDDIは強敵です。ケータイ事業に
おいても追い込まれており、少なくとも電力系事業者相手よりは
戦いにくいところがあります。したがって、何とかして早く30
00万回線を達成したい――そうしたら、もはやNTTに誰も対
抗できなくなってしまいます。現在のNTT東西の勢いで突っ走
ると光ファイバー3000万回線敷設は、しだいに現実のものと
なりつつあるのです。       ・・・ [通信戦争/36]


≪画像および関連情報≫
 ・NTT東日本のフレッツひかりのCM
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ひかり中学校、ある日の放課後。野球部が校庭で練習をして
  います。その様子を見守る野球部顧問中居先生と古田監督。
  中居先生は、フレッツ光について話す機会をうかがっていま
  す。「やっぱりパソコン買ったらすぐ光に申し込むのが便利
  ですよね」と言おうとしますが、タイミング悪く監督の熱血
  指導が入ってしまいます。結局、監督は益々指導に力が入り
  中居先生はその姿に終始圧倒され続け、フレッツ光について
  話せませんでした。その後、パソコンを買ってすぐフレッツ
  光に申し込む中居先生の姿が・・・。
  http://www.ntt-east.co.jp/gallery/tv/cm_flets.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:55| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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