2007年02月22日

竹中が執念でとった政府与党合意(EJ第2025号)

 参議院自民党の片山虎之助議員は、初代の総務相ということも
あって、通信・放送分野で隠然たる力を持っていたのです。彼は
自民党の「電気通信調査会/通信・放送高度化委員会(片山委員
会」の委員長を務めており、この委員会で通信・放送分野の改革
を議論していたのです。
 竹中委員会は、総務相の私的諮問機関に過ぎず、そこでいくら
革新的な内容がまとまっても片山委員会の合意が得られないと、
単なる絵に描いた餅に終わる恐れがあったのです。
 竹中委員会ではさんざんな目に遭っているNTT持ち株会社の
和田社長も、片山議員に頼めば何とかなるという思いがあり、足
繁く片山議員のところに通っていたのです。その水面下の根回し
があったからこそ、和田社長もあれほど竹中委員会で叩かれなが
らも、次のような強気の発言ができたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTTの資本分離なんてするつもりはありません。竹中さんの
 懇談会で議論していただくのは結構ですが、われわれが受入れ
 られないものには、断固として反対意見を申し上げていく。規
 制緩和をお願いしてきたのに、こんな展開になり、戸惑ってい
 るわけです。                ――和田社長
 ――日経コミュニケーション編『2010年NTT解体』より
                       日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 竹中平蔵総務相(当時)はこう考えていたのです。私的諮問機
関でまとめた結論に実効性を持たせるには、その内容を「骨太方
針」に反映させることである――これは閣議決定と同様の実効性
を持たせることになるからです。そのためには、同じ問題を検討
している片山委員会の合意が必要なのです。つまり、政府与党合
意という「伝家の宝刀」が必要であると考えたのです。
 竹中委員会と片山委員会では、NTTの組織問題をどうしよう
としているのか、その違いはどこにあるのでしょうか。このこと
を明らかにする必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪竹中委員会≫
  2010年には通信関連法制を抜本的に見直して、NTT持
  ち株会社の廃止などを含む検討を速やかに始めるべき
 ≪片山委員会≫
  拙速に結論を出すべきではなく、2010年ごろにNTT法
  などの関連法令の改正を検討すべき
――――――――――――――――――――――――――――−
 2つを比べてはっきりしていることは、片山委員会の方針は、
NTT組織問題は先送りしようとしていることです。時期を「2
010年ごろ」としていますが、「ごろ」が曲者なのです。この
表現なら2010年に検討をはじめなくてもよいからです。
 これに対し、竹中委員会は、通信関連法制は2010年と明確
に期限を切り、NTTの組織問題については「速やかに」行うべ
きとしています。したがって、その差は大きいのです。
 この差を埋めるために竹中総務相は信じられないパワーを発揮
したのです。それは、毎日のように片山議員のところに赴き、調
整を試みたのです。官僚から見ると、大臣は偉い存在であって、
軽々しく出向くことなどとんでもない。事前に官僚が下話をして
話を煮詰め、最後に大臣が出向くというスタイルをとるべきだか
らです。だから、決定が遅くなるのです。
 しかし、竹中総務相はそもそも大臣を偉いなどと考えておらず
問題を解決するために毎日片山議員のところに出向いたのです。
これに対して片山議員は、政治経験が豊富であり、自分が総務相
という地位にあったこともあり、大臣という地位はそれなりの重
みがあると思っていたのです。その自分よりも地位が上の総務相
が毎日のようにやってくるのですから、それによって、相当のプ
レッシャーを感じていたのです。しかし、片山議員は次のように
いっていたんです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は2つの案で合わないところは合わないままでいいと思って
 いるけどね。政策を決めるのは政府と与党で、最終的に法律を
 変えるには国会の承認が必要。大臣の私的な懇談会に過ぎない
 竹中懇談会と中身を同じものにする必要なんてないんだから。
        ――日経コミュニケーションズ編の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 「竹中大臣のいっていることにも正論の部分がある」――最終
局面において、片山議員はこのような言葉をいうようになってき
たのです。そして、遂に6月20日、何回もの折衝のすえにNT
Tの組織問題について次の合意にこぎつけたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2010年の時点で検討を行い、その後速やかに結論を得る
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府与党合意には片山だけでなく、当時の内閣官房長官の安倍
晋三、政務調査会長の中川秀直、そして自民党電気通信調査会長
の佐田玄一郎の直筆の署名と印鑑が押してあったのです。
 これによって、NTTの組織問題を含めた検討が2010年に
開始することが政治的に約束されたことになるのです。単なる総
務省の私的諮問機関で出した結論が政治的な意味を持ったといえ
ます。竹中の執念ともいえる合意の取りまとめといえます。
 このような合意がとれるとは思っていなかった松原座長は次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 正論を押し通すのか、それとも与党の主張に妥協するのか、す
 ごく悩んだけど、どうせ自民党と合意できないなら正論を通そ
 うと思ったんだよ。            ――松原聡座長
―――――――――――――――――――――――――――――
 結果として、正論で押しまくった竹中総務相の勝利というべき
結果だったのです。        ・・・ [通信戦争/33]


≪画像および関連情報≫
 ・竹中委員会の政府与党合意の全文
  ―――――――――――――――――――――――――――
  高度で低廉な情報通信サービスを実現する観点から、ネット
  ワークノオープン化など必要な公正競争ルールの整備等を図
  るとともに、NTTの組織問題については、ブロードバンド
  の普及状況やNTTの中期経営戦略の動向などを見極めた上
  で2010年の時点で検討を行い、その後すみやかに結論を
  得る。
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:39| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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