2007年02月21日

竹中委員会ではどんなやり取りがあったか(EJ第2024号)

 竹中委員会は、通信・放送関係の利害関係者を委員にしなかっ
といっても、彼らの意見を聞かなかったわけではないのです。全
部で14回にわたる会合の中で、ヒアリングと称して何回も意見
を聞いているのです。
 各会合における委員たちの討議の模様は、非公開になっている
のでわかりませんが、ヒアリングは公開されています。一体どの
ようなやり取りがあったのか――2006年3月22日の第7回
会合の中でのやり取りの一部をご紹介しましょう。
 この日は通信事業者3社のトップ――NTTの和田社長、KD
DIの小野寺社長、ソフトバンクの孫社長が顔を揃えており、激
しいやり取りが行われたのです。
 小野寺、孫両社長が、「NTTの固定電話網は国民のもの」と
しきりにいうことにいらだった和田社長は、次のように反論した
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 電電公社時代の資産はすでに株式にして国に返しているし、光
 ファイバは民営化後しばらくしてから本格的に着手したもので
 す。したがって、電話網を国民のものというのはやめていただ
 きたい。今は株主のものです。        ――和田社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対してソフトバンクの孫社長は、すぐに次のように反論
したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府保証債で構築したネットワークをベースに光ファイバへ張
 り替えている以上、そのネットワークは国民のものではないで
 すか。それを「国民のものというな」というような社長が運営
 している会社に、21世紀のインフラを任せていいものでしょ
 うか。                    ――孫社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 孫社長の鋭い切り込みに和田社長が少しひるんだときに、もう
ひとつの意見が飛んだのです。それは、竹中委員会の松原聡座長
だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 株式会社だ、株主だといわれるけれど、NTTは政府設立の株
 式会社ですからね。             ――松原座長
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTT対競合事業者の対決の構図です。竹中委員会としては、
こういう対立構図を浮かび上がらせる演出をしているのです。
 続いて、光ファイバーの話に移ります。ここでは、KDDIの
小野寺社長が次のように主張します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 光ファイバで電柱が開放されているというが、NTTグループ
 と同じ手続きのスピードでは使えず、競争性がないことは明ら
 かです。ソフトバンクやKDDI、電力系NCC、CATVの
 収益まで合わせてもNTT東日本1社に及ばないほど強大な市
 場支配力をNTTグループは持っているのです。NTTは資本
 分離すべきです。NTTは持ち株会社が司令塔として動き、暴
 挙に出ている。99年のNTT再編の法律趣旨に反しており、
 素人目に見ても脱法行為そのものですよ。  ――小野寺社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTT持ち株会社の和田社長を前にしての発言です。NTTに
とってはまさに針のむしろです。続いて、ソフトバンクの孫社長
も次のようにNTTを追い詰めます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私ども競争したがりのソフトバンクが、これほど意欲を持って
 いながらも光ファイバでは戦えない状況にあるんです。光ファ
 イバは民間が運営するユニバーサル回線会社として独立すべき
 だと思います。現在、NTTは5000円程度で光ファイバ回
 線を開放していますが、我々の計算では、ユニバーサル回線会
 社で光回線を整備すれば、1回線につき月額690円で実現で
 きますよ。                  ――孫社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 まさにNTTへの集中砲火です。さらに孫社長は、2010年
までに3000万回線を引くというNTTグループの計画に関し
ても次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTTが日本中の家庭に光ファイバを提供できるならば、それ
 は1つの選択肢だろうと思います。しかし、独走態勢にありな
 がらも2010年までに3000万回線しか敷設しない。収益
 性のある場所にしか引かない。できれば競争相手にも貸したく
 ないというNTTには任せられないです。    ――孫社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 最後に、松原座長が「NTTグループが資本分離することで、
ユーザーにデメリットが生じるのではないか」と質問したところ
小野寺社長と孫社長は次のように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小野寺社長:短期的にはでデメリットもあるだろうが、長期的
       に見れば、事業者間競争によって国民にも十分メ
       リットはある。
 孫  社長:短期でも長期でもユーザーにメリットはある。競
       争はより安くいい性能のものを提供すること。競
       争が困るというのはNTTだけである。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、NTTグループは一方的な袋叩きです。タフネゴ
シエーターで鳴らす和田社長もほとんど防戦一方で、サンドバッ
ク状態です。このままではいけない、潰される――片山虎之助議
員の力を借りて何とかしなければ、と和田社長は考えたのです。
 この頃から新聞各紙は、「NTT経営形態見直しで一致」(日
本経済新聞)や「完全民営化を視野にNTT組織見直し」(毎日
新聞)の記事を出しはじめたのです。・・・ [通信戦争/32]


≪画像および関連情報≫
 ・中期経営戦略についての和田社長の見解
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中期経営戦略はNTT独占体制への回帰ではないかという意
  見があるが、中期経営戦略は、ユーザーニーズへの対応の緊
  急性を考慮して、現行法の枠組みの中で最も早く次世代ネッ
  トワークを構築するための手段である。構築した次世代ネッ
  トワークに関しては、NTTグループと競争事業者でも同等
  の接続条件を担保し、オープンなビジネスモデルを推進する
  方針である。
  ―――――――――――――――――――――――――――

|ψqAO.jpg
posted by 平野 浩 at 04:46| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がない ブログに表示されております。