2007年02月15日

NTTコミュニケーションズの事業再編の謎(EJ第2020号)

 NTTコミュニケーションズの創業は1999年7月のことで
す。もともとは長距離通信事業者として発足したのです。そのた
め、県間や国際通信の電話設備やデータ通信網を有して、地域通
信事業者であるNTT東西会社を中継したのです。つまり、当初
は通信インフラを所有していたのです。
 しかし、NTTコミュニケーションズは、2006年8月の事
業再編でこのインフラから切り離され、インフラを持たない通信
事業者として発足することになったのです。いわゆる水平分業型
の事業体への変身です。
 通信業界におけるNTTグループをのぞく他の2強ともいうべ
きKDDIもソフトバンクも固定通信と移動通信の両方のインフ
ラを持つ垂直統合型の事業体であり、海外でもそういう事業体は
増えています。そういう意味で、「インフラを持たない通信事業
者」としてのNTTコミュニケーションズは特異な存在であると
いえます。果たしてこのような戦略でKDDIやソフトバンクに
対抗するのでしょうか。
 しかし、NTTコミュニケーションズの社長の和才博美氏はき
わめて意欲的であり、次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 インフラがなければ借りればいい。NTTコミュニケーション
 ズには規制がなく常に先進的なビジネスにチャレンジできる。
 法人事業と上位レイヤーを融合させた新しいサービスの提供な
 どに挑戦していく。           ――和才博美社長
               ――日経コミュニケーション編
     『風雲児たちが巻き起こす携帯電話崩壊の序曲』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで「上位レイヤー」とは、「goo」などのポータル事業
などを指しています。しかし、今までこの面においては、同社は
あまり成功しているとはいえないのです。
 そのため、どのように考えてもNTTコミュニケーションズは
NTTグループの中でかなり割を食っている感じであることは確
かなのです。ある証券アナリストは次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 NTTコミュニケーションズを水平分業型にするのは戦略的な
 施策というより、グループ間闘争の結果のように見える。次世
 代ネットワークからNTTコミュニケーションズを外したため
 その見返りに法人営業などを集約したのだろう。長距離電話の
 売り上げと利益に頼れる間に、法人事業と上位レイヤーでしっ
 かり稼げるようにならなれければ、固定電話収入が減るにつれ
 てNTTコミュニケーションズはジリ貧になる。
          ――日経コミュニケーション編前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに法人営業を一元化させるというのは、効率の面から考え
るとプラスの効果がありますが、一元化したのはNTTコミュニ
ケーションズとNTT東西会社の営業だけであって、NTTドコ
モは入っていないのです。したがって、今度は、NTTコミュニ
ケーションズとNTTドコモの営業のバッティングが起こり、中
途半端な施策であるといわざるを得ないのです。
 現実に次のようなことが法人営業の世界で起きているのです。
2006年11月のことですが、NTTドコモは一つの携帯電話
端末で、社内では固定電話として使い、社外では携帯電話として
利用できるサービスをはじめています。FMCの法人版そのもの
です。ところが、これはNTT東西会社の提供するIP電話サー
ビスと完全にバッティングするのです。
 このサービスに関して、NTTドコモのある幹部にコメントを
求めると、次の答えが返って来たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 競争ですからね。KDDIと競争するように、東西NTTやN
 TTコミュニケーションズとも競争する。NTT持株会社以外
 にNTTドコモの株主がいるわけですから、仕方がないです。
          ――日経コミュニケーション編前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このコメントでもわかるように、NTTドコモは次世代ネット
ワークに関して、持株会社がリードしようとする方向に抵抗を示
しているように感じられます。つまり、ドコモはグループ主導の
融合を嫌がっているようです。
 逆にNTT持株会社としてもドコモに関しては相当気を使って
いるところがあります。持株会社は、最近になってNGNのスケ
ジュールに関する報道資料に一部修正を加えています。
 当初の報道では「移動系との一体化を実現」と記述されていた
のですが、NTTドコモの要請により、「移動系とのシームレス
化を実現」という表現に変更されたのです。
 「一体化」という表現は、バックボーン・ネットワークを固定
系と移動系を融合して一つにするという意味になります。しかし
「シームレス化」では、それが曖昧になってしまいます。それに
実施時期も「2008年以降に」となっており、これでは事実上
時期を明らかにしないことと変わりがないことになります。
 おそらく来年以降に、KDDIとソフトバンクはFMCを展開
することが予想されるので、その対応を考えて、時期についても
こういう表現になっているものと思われます。
 このようにNTTグループにとって、今後の通信戦争の環境は
一層厳しさを増すことは確かであるといえます。組織体が巨大で
あるために素早く変化に対応できない恐れがあるからです。
 しかし、NTTグループにとって明るい話題もあります。それ
は光ファイバーの売れ行きが好調であることです。2006年に
入ってからは4月から9月までの6ヵ月で、NTT東西合わせて
130万契約と、月に20万契約を超える勢いです。
 何しろ光ファイバーは、次世代ネットワークのアクセス回線と
なるだけに、今後の通信戦争の帰趨を左右します。光については
今のところNTTが圧勝なのです。・・・・ [通信戦争/28]


≪画像および関連情報≫
 ・「上位レイヤー」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プロトコルの話をするとき使う言葉に、上位レイヤ、下位レ
  イヤという言い方があります。その説明は、例えば、人間が
  コンピュータを使って何かするとき、人間がやりたいことを
  直接取り扱う部分が上位レイヤで、もうちょっとコンピュー
  タ寄りのことをするのが下位レイヤです――のようになりま
  す。でも、これだとなかなかイメージしづらいかもしれませ
  んね。
  http://www.atmarkit.co.jp/fnetwork/rensai/tcp08/01.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:44| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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