2003年04月11日

●BS/CSはなぜ経度だけを表示するのか(EJ第1084号)

 「スカイパーフェクTV」(スカパー)の誕生のいきさつにつ
いては、昨日のEJでお話ししました。この時点でスカパーの競
合相手は、1997年から放送を開始している「ディレクTV」
だけです。そこで、激しい加入者獲得競争が展開されたのです。
 しかし、ディレクTVはスカパーに大きく差をつけられるばか
りで、負けがはっきりしてきたのです。そして2000年をもっ
て、ディレクTVは日本での事業展開を断念し、スカパーに吸収
されるかたちで、撤退してしまったのです。
 ところで、スカパーは次の2つの通信衛星を使って、200前
後の多チャンネル放送を行っています。
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          東経124度のCS
          東経128度のCS
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 2つの衛星を使っていますので、アンテナはスカパー用の2衛
星共用アンテナを使うようになっているのです。それでは、BS
の軌道位置は東経何度なのでしょうか。答えは次の通りです。
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          東経110度のBS
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 このように、CSにせよ、BSにせよ、1つの衛星を他の衛星
と区別するさいに「東経○○度」と経度だけが表示され、緯度が
表示されないのは、なぜだか分かりますか。
 それは、放送や通信に使う衛星は、「静止衛星」である必要が
あるからです。静止衛星といっても、「動かない」という意味で
はなく、地球の自転に合わせて動く――つまり、つねに日本の上
空にあるようにするのです。
 つねに日本の上空にあるように衛星を打ち上げるには、赤道上
空に打ち上げる必要があります。つまり、どの衛星も緯度は0度
なのです。だから、緯度については表示しないのです。
 ここまでの話は一応理解できると思います。しかし、ここから
がいささか話は複雑になります。というのは、2000年末に突
如として、「東経110度CS」なるものが話題になったからで
す。そうすると、東経110度には、次の2つの衛星が、存在す
ることになるのです。いつCSは打ち上げられたのでしょうか。
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          東経110度のBS
          東経110度のCS
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 この東経110度のCSは、BSと同じ位置に上がっています
ので、BSとCSの両方が受信できる共用受像機があれば、1本
のアンテナで、BS/CSのどちらも視聴できることになるわけ
です。そして、BS/CSのどちらも受信できる受像機の提供も
アナウンスされたのです。
 その経緯をもう少し詳しく述べることにします。
 2000年12月1日からのBSデジタル放送の開始に当たっ
て、日本としては、2000年内にBSデジタル放送用のBS−
4後発機と東経110度CSの2機を打ち上げる予定になってい
たのです。しかし、順番待ちの厳しい状況に追い込まれてしまい
2機打ち上げは無理ということになったのです。
 というのは、赤道上空に静止衛星を打ち上げられるのは、次の
2社しかなく、どちらかに依頼することになります。
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       1.米国のプロトン・ロケット
       2.欧州アリアン・ ロケット
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 ところが、当時プロトン・ロケットは、打ち上げ失敗が続発し
ており、世界中の衛星打ち上げ依頼がアリアン・ロケットに集中
することになり、厳しい順番待ちに追い込まれたのです。
 そこで、2000年10月に、東経110度CSを先に打ち上
げてもらい、BSデジタルについては、昔打ち上げた予備機を使
用して、2000年12月1日のBSデジタル本放送をクリアし
たというわけです。そして実際に、BS−4後発機が打ち上げら
れたのは、2001年の春のことなのです。
 それにしても、2000年10月に打ち上げられた東経110
度CSの狙いは一体何なのでしょうか。
 この狙いは、しばらく置くとして、ここでもうひとつ認識して
いただきたいことがあります。これらのCSやBSは、地上何キ
ロメートルぐらいのところに打ち上げられているか――という質
問です。ちなみに、スペースシャトルの場合は、地上300キロ
メートルから400キロメートルの高さなのです。
 スペースシャトルよりも下じゃないかと考える人が多いかも知
れませんが、正解は赤道上空3万6000キロメートルの位置に
打ち上げられているのです。スペースシャトルの実に100倍以
上も上なのです。
 地上からはこの衛星に向けて番組を送信し、衛星に積まれた中
継機を介して日本全国に送り返しているわけです。その中継機の
大きさは、人間の頭程度の大きさであるといいますから、驚くべ
き技術といわざるを得ません。
 これらのCSやBSの寿命は、約10年といわれます。そこで
10年経過すると、BS−4でやったように、衛星の入れ替えを
やるのですが、使われなくなった衛星はしばらく予備機として残
しておくのです。2000年12月のBSデジタル本放送を前に
して、衛星打ち上げが間に合わない事態になったとき、それを可
能にしたのは、この予備機があったからなのです。衛星はガスの
力で浮いているので、本当に不必要になったときは、ガスを抜い
てしまうと、宇宙の彼方に飛んでいってしまうのです。
 ところで、スケジュールを先行させてまでして2000年10
月に打ち上げた東経110度CSの狙いは、どこにあるのでしょ
うか。これについて知っておくと、デジタル放送の全体像が見え
てきます。          −−− [デジタルTV/05]
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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