つつある水槽から最初に飛び出した理由は、他のキャリアと一緒
に水槽に入っていたのでは、ソフトバンクとして上位会社を抜く
ことはできないと考えたからです。
それは、ケータイ端末が現在のキャリアの市場シェアに合わせ
て制作されているからです。それだけではない。シェアに合わせ
て売り場面積なども調整されているのです。これでは、下位会社
が上位会社を抜くことは不可能であり、市場シェアは固定化され
ることになってしまうからです。
もうひとつ、シェアの最も小さいソフトバンクとしては、上位
会社であるNTTドコモやau並みに販売奨励金を販売代理店に
支払うのはできず、販売競争で遅れをとることになるという事情
もあったのです。
そこでソフトバンクが考え出したのが「スーパーボーナス」と
いう制度なのです。既に述べたように、この制度の目的は、ユー
ザに携帯端末を安く提供することにあるのです。
この制度の特徴は、携帯端末を「割賦販売」するところにあり
ます。しかし、月々の割賦金額相当分とほぼ同額を毎月ソフトバ
ンクが負担するのです。このソフトバンクが負担する金額はお客
が購入する端末によって異なるのです。
もし、お客が購入する端末の月額分がソフトバンクの負担分よ
り大きいときは、その差額はお客の負担になるのです。MNP開
始までは、差額分の総額は一括して店頭でお客から徴収し、あと
はお客が他社へ転出しない限り、毎月の割賦分はソフトバンクが
負担したのです。したがって、お客は最初に店頭で支払っう差額
分だけで端末を購入できたのです。もちろん、金利・手数料はソ
フトバンク負担です。
この制度をMNP以後は、お客が負担する差額分についても店
頭で支払わず、毎月徴収するという方式に改めています。これが
「新スーパーボーナス」(以下、「スーパーボーナス」)です。
この制度については、EJ第1997号を参照していただきたい
と思います。
この制度の狙いは、端末を24ヶ月間の割賦で販売をすること
にあります。割賦販売であれば、その間お客の他社流出を防ぐこ
とができるからです。さらにソフトバンクでは、新規契約に関し
ては2ヶ月間は基本料金は無料サービスとしているので、26ヶ
月間お客をソフトバンクに囲い込みができることになります。実
に巧妙な方法であると思います。
このように、お客を26ヶ月囲い込めると、端末料金のソフト
バンク負担分を十分回収する時間があることになります。しかし
それを大きめに設定した基本料金から得ている――この批判をか
わすために、基本料金を限度一杯まで下げてしまったのです。そ
れが「ゴールドプラン」の70%割引であり、今年に入って打ち
出した月額基本料金980円の「ホワイトプラン」なのです。
ソフトバンクとしては、投資分を取り返すにはお客に携帯をで
きる限り多く使ってもらう施策を多方面に展開し、それから上が
る利益でそれをクリアする――誠にオーソドックスな経営の考え
方であり、お客としても納得できます。
孫正義社長自身は、「スーパーボーナス」導入の目的は次の2
つにあることを指摘しています。
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1.短期間で端末を買い替えるユーザが得する点を解消
2.ソフトバンク自身のキャッシュ・フローが改善する
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孫社長は、さらに携帯電話業界のこれまでの販売モデルに関連
して、次のように述べています。
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ほんの数ヶ月で事業者や端末を乗り換える人が多くなると、現
在の携帯電話会社のビジネスはすさんでしまう。インセンティ
ブを支払って端末価格を下げているからだ。一方で、これまで
の販売モデルは、すぐに端末を買い替えるユーザも、長期ユー
ザも通信料は同額だ。したがって、長く使ってもらっているユ
ーザの料金は割高になってしまう。つまり、短期買い替えユー
ザの販売インセンティブを長期契約ユーが負担している不公平
感がある。 ――孫正義ソフトバンク社長
―――――――――――――――――――――――――――――
金融関係者の「スーパーボーナス」の見方を2つご紹介してお
きます。こちらは賛否両論があるのです。
USB証券・株式調査部アナリスト、高橋圭氏は「スーパーボ
ーナス」はキャッシュフローの改善策になると述べています。
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販売インセンティブモデルでは、先に一括して割引分をキャリ
アが支払う。だが、スーパーボーナスは、ソフトバンクモバイ
ルがインセンティブを分割後払いしているようなものだ。ユー
ザが端末を購入する時点のソフトバンクの支払額は、後者の方
が圧倒的に少ない。その結果、ユーザ獲得時のキャッシュ・フ
ローは、売り切り販売インセンティブ・モデルよりも改善する
はずである。 ――高橋圭USB証券アナリスト
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この高橋氏とは180度違う考え方をしているのが、同じUS
B証券のマネージング・ディレクターの乾牧夫氏は、「スーパー
ボーナス」について次の見方もできると述べています。
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財務的に行き詰っている会社が必要に迫られ、今までの商習慣
を続けているだけでもつらいのではないか。 ――USB証券
乾牧夫マネージング・ディレクター
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それに販売代理店幹部は、「スーパーボーナス」のお客に対す
る説明には時間がかかり、効率的ではないという問題点を指摘し
ています。 ・・・・ [通信戦争/23]
≪画像および関連情報≫
・日系携帯電話8社合わせてもサムソン電子に及ばす
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クレジットなどの決済機能やワンセグ放送、音楽ダウンロー
ドなど高機能化が進む日本の携帯電話。しかし、日本メーカ
ーの世界における販売シェアは10社合計で8.8%に低迷
欧米や韓国の企業に大きく水をあけられている。この現状を
打開し、世界に通用する産業にしようという議論が政府内で
活発化し始めた。ただ、日本と海外の携帯電話会社のビジネ
スモデルの違いも根底にはあり、一朝一夕に変えることは難
しそうだ。総務省によると、携帯電話端末の05年のシェア
はフィンランドのノキアが33.5%で首位。米モトローラ
がこれに続き、日本メーカーは10社合わせても韓国・サム
スン電子に及ばない。
――MSNニュースより
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