2007年02月06日

販売奨励金は廃止される可能性がある(EJ第2014号)

 携帯電話業界で現在慣行となっている販売奨励金制度――これ
はいずれ・・というより、すぐにでもやめなければならない制度
なのです。しかし、この制度についてNTTドコモの中村社長に
聞くと、彼はこれについて多くを語ろうとしないのです。
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 販売奨励金は、需要が急増している時には加入の敷居を下げる
 効果はあるけど、今の環境ではかなり疑問。でもどこかが安い
 値段で出せば、対抗せざるを得ない。
                 ――NTTドコモ中村社長
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 これに対して、auの小野寺社長は中村社長と違ってかなり詳
しく話しています。現状は必要悪であり、制度を廃止することに
は慎重であるべきだという意見のようです。
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 奨励金は下げていくという方向が正しいと思っている。しかし
 下げたからといって現状が変わるだろうか。ある店舗が値下げ
 すれば、他店もそれに追随する。そこで赤字を補填しなければ
 店舗は成り立たない。店舗が潰れていけば、最終的にはエンド
 ユーザーに迷惑をかけることになる。奨励金がなくなれば、キ
 ャリアは楽になる。ただし、本当にそれで良いのか。日本市場
 の先進性は、インセンティブモデルだから新サービスと対応機
 種を同時にリリースできたことにある。新機軸のサービスの普
 及を遅らせることが良いのかどうか、という面からの議論も必
 要ではないか。            ――au小野寺社長
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 しかし、この制度は基本的におかしいと思います。最初にユー
ザの立場から考えてみます。あるキャリアと契約して3万円の端
末を購入したとします。しかし、この端末の卸価格は5万円であ
る――販売奨励金が横行している携帯電話業界ではそういうこと
は十分あり得ることなのです。
 この場合、そのユーザは、本人は知らないまま2万円分の端末
価格を通信料金として払わされていることになります。つまり、
キャリアの通信料金はその分高くなっていることになります。結
局ユーザーは端末を3万円ではなく、5万円で購入させられたこ
とになるわけです。あなたはそれで納得できるでしょうか。
 次に端末メーカーについて考えます。端末メーカーは、キャリ
アからあらかじめ買い取ってもらえる数量を教えてもらってから
生産し、納入しています。これなら在庫リスクはないので、ノー
リスクということになります。
 要するに、日本の携帯電話端末メーカが作る端末は、お客の厳
しいチェックにさらされていないのです。つまり、市場原理が働
いていないわけです。自らリスクをとろうとしないから、国際競
争に巻き込まれたら確実に負けます。日本のメーカーの技術レベ
ルは高いのに、こんなことをやっていると、競争力を失ってしま
うことになります。
 しかし、販売奨励金の廃止はキャリアだけの意思でできるもの
ではないのです。しかし、熱を増しつつある水槽から飛び出して
それに代わる新しい仕組みを作ることは可能です。それを一番先
にやったのはソフトバンクなのです。私はそこにソフトバンクの
先見性を見たので、長年続けてきたNTTドコモに見切りをつけ
たのです。ソフトバンクの対応は明日のEJで解説します。
 販売奨励金はいずれ廃止されることは確実です。問題はそれを
どのようにしてソフトランディングさせるかですが、それは総務
省の裁量にかかっています。
 1月22日のロイター電によると、総務省は「モバイルビジネ
ス協議会」を発足させ、第1回会合を開いています。関連記事を
示しておきます。
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 [東京/22日ロイター]総務省は22日、携帯電話業界の新
 たなビジネスモデルのあり方について協議する「モバイルビジ
 ネス研究会」(座長・斉藤忠夫東大名誉教授)の第一回会合を
 開いた。委員の多くが、携帯キャリアが代理店に支払う販売奨
 励金や、携帯電話番号などが書き込まれたICカード(SIM
 カード)を端末から外して他の端末に装着できない現行のビジ
 ネスモデルについて、端末メーカーの競争力を阻害しているな
 どと問題視。今後はこうした点のほか、既存キャリアのネット
 ワークを借りて携帯電話事業を行う「MVNO」(仮想移動体
 通信事業者)の普及促進策などについて議論する。月1回程度
 の会合を開き9月中旬に報告書をまとめる。出席した菅義偉総
 務相は「少子高齢化が進む日本が発展するために大事な分野。
 基本に立ち返り、(ビジネスモデルのあり方を)役所として考
 える必要がある」と述べた。
 http://www.thinkit.co.jp/free/news/reuters/0701/22/7.html
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 韓国では既に2000年に販売奨励金制度は廃止(法制化は2
003年)されています。携帯電話業界はいったいどうなったで
しょうか。
 端末の販売価格は急上昇し、これによって売り上げは激減して
います。しかし、端末は価格の安いものから高いものまで豊富に
市場に提供され、現在では相当高価な端末でもそれ相応の魅力が
あれば売れています。ユーザのニーズにフィットしたからです。
 このような相当厳しいユーザのチェックに耐えて、サムソンは
大躍進しているのです。これに対して長年キャリアの庇護の下に
安住してきた日本の端末メーカーはどう対処するのでしょうか。
日本のメーカーは、今や規模と利益の両面において、ノキアやサ
ムソンに大きく水をあけられているのです。
 現在の日本の携帯電話市場では、最新・最高の機能を持つ端末
が一番の売れ筋になっています。これは販売奨励金制度が生み出
したいびつな現象です。この制度を廃止し、市場の正常化をはか
る必要があります。       ・・・・ [通信戦争/22]


≪画像および関連情報≫
 ・SIMカードとは何か
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  SIMカードとはGSMやW−CDMA(ケータイの方式)
  などの方式の携帯電話で使われているICカード。SIMカ
  ードは他の一般的なICカードと同じく、クレジットカード
  サイズで提供されるが、ICチップの部分だけを切り離して
  使うようになっている。これは、昔の自動車電話やショルダ
  ーホンなどの大型の端末ではSIMカードソケットがクレジ
  ットカードサイズであったものが、その後小型化されたこと
  の名残りである。          ――ウィキペディア
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posted by 平野 浩 at 17:26| Comment(0) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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