から、NTTドコモ、au、ソフトバンク3社による壮絶な戦い
がはじまります。どこが勝利を収めるでしょうか。
番号ポータビリティー制度――MNPのスタート前の予想では
auは独り勝ちをするが、それはNTTドコモよりもソフトバン
クから多くの加入者を奪うことによって勝利がもたらされるとい
うものだったのです。つまり、MNPではソフトバンクが草刈り
場になると考えられていたのです。
というのは、auはこれまでNTTドコモの解約率低下によっ
て奪いにくくなった加入者を主としてソフトバンクから奪って成
長してきたからです。
しかし、この予想はかなり外れたのです。予想通りauは伸び
たのですが、ソフトバンクは必ずしも草刈り場にならず、ドコモ
が大幅に加入者を減らしているからです。
現在、携帯電話市場は、ほとんど90%近い人がケータイを使
う完全な成熟市場になっています。こういう成熟市場における市
場競争では、シェアの小さいキャリアの方が有利になる可能性が
あるのです。次のような単純なモデルで考えてみましょう。
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NTTドコモ ・・・・・ 5000万人
au ・・・・・・・・・ 3000万人
ソフトバンク ・・・・・ 1500万人
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仮にドコモの解約率を1%とすると50万人が解約することに
なります。同じように1%の解約率で計算すると、auは30万
人であり、ソフトバンクは15万人になるのです。
このケースでは、ドコモは、auとソフトバンクの解約者を全
部吸収したとしても45万人にしかならず、加入者数が純減して
しまう可能性が高いといえます。
これに対して、ソフトバンクはドコモとauの解約者の20%
を獲得するだけで16万人となり、純増を達成できます。ソフト
バンクは料金プランで勝負に出ているので、20%のシェア獲得
は十分に可能であるといえます。
auも32%で30万人を超えるので純増は十分可能ですが、
今後ソフトバンクが躍進して競争力が上がり、ドコモが守りを固
めるとauも苦しくなってきます。
かつて「auの優勢、NTTドコモの守り、ボーダフォンの劣
勢」といわれた構図は、ボーダフォンに代わったソフトバンクが
新料金プランの開発や新しい端末の提供ならびにサービスの拡充
などによる攻勢をかけると、成熟市場では一番大きな成長を遂げ
る可能性は高いのです。
もうひとつ日本のケータイについて語るとき、頭に置いておく
べきことがあります。それは、現在の携帯電話事業のビジネスモ
デルがキャリアだけが儲かる仕組みになっていることです。キャ
リアの儲けは、次の式によって決まってきます。
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契約者数 × 加入者月間売上高(ARPU)
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現在、日本のARPUは平均6500円であり、欧米諸国に比
べると、1.5〜2倍高いのです。要するにキャリアはボロ儲け
しているのです。
しかし、ケータイの端末を提供しているメーカーは深刻な経営
難に陥っているといわれます。
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NECの携帯事業を担うモバイル・パーソナルソリューション
部門が06年9月中間決算で410億円の営業赤字を計上。同
様に松下電器産業のパナソニックモバイルコミュニケーション
ズは、06年7〜9月期に3億円の赤字を出している。国内携
帯端末「2強」がこの有り様なのだ。
――塚本潔著、「ドコモ/垂直統合モデルの限界」より
『週刊/エコノミスト』2006年12月12日号
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ジャーナリストの塚本潔氏によると、日本の携帯電話事業にお
いては、端末の仕様にいたるまで、キャリア主導で決められると
いいます。それでもauとソフトバンクについては、独自規格で
あっても自由裁量の余地が多いのに対して、NTTドコモは細か
い仕様にいたるまですべて指示を出してくるといわれます。
それに日本のケータイ端末――とくに第3世代端末は高すぎて
海外ではほとんど売れないのです。そのため、国内市場オンリー
であり、端末で利益を出すのは困難な状況にあるのです。
それにもかかわらず、なぜ、日本では比較的安い価格で端末が
提供されおり、「O円端末」まであるのはなぜでしょうか。これ
についてはあるからくりがあるのですが、来週のEJで明らかに
する予定です。
本来、キャリアと端末メーカーは共存共栄であるべきです。し
かし、現在儲かっているのはキャリアだけであり、加入者はかな
り高い利用代金を支払わされているのです。
2006年中間決算においてNTTドコモは減益であるといっ
ても、5169億円、auは1852億円、ソフトバンクでさえ
568億円も稼いでいるのです。潤っているのはキャリアだけと
いわれても仕方がないでしょう。
それにしても、なぜケータイ端末はキャリア別に存在するので
しょうか。PCのように、どこのキャリアでも使える端末はなぜ
ないのでしょうか。基地局にしても、なぜ全部のキャリアで共有
できないのでしょうか。もし、それが可能になれば、ケータイの
利用代金は劇的に下がるはずです。
どうやら、ソフトバンクの孫社長はそれを狙っているフシがあ
るのです。彼は旧来の携帯電話業界のしきたりそのものを壊わす
ことによって、ケータイの料金を下げようとしているのです。今
後のソフトバンクから目は離せないです。・ [通信戦争/20]
≪画像および関連情報≫
・NTTドコモ/auについて/松本徹三氏
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圧倒的に強いドコモであれ、KDDIであれ、基本的に通信
会社から出発した会社。よく言えば安定性や信頼性が高いが
悪く言えば決定や行動が遅い。我々も信頼性や安定性を軽視
しているわけではないが,それを満たすのは100点を取る
ことだけではない。90点で合格できるのであれば,勉強時
間は100点の時の10分の1で済む。発想を転換すれば信
頼性や安定性を損なわずに迅速に行動できるはずだ。孫さん
はいつも言っている。「発想を変えろ、既成観念を捨てろ」
と。私もまったく同じ考えだ。
――ソフトバンクモバイル副社長
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