2007年01月17日

着うたフル/auの音楽戦略

 ケータイと音楽――もともと何の関係もなかったのですが、最
近では「ケータイ=音楽プレーヤー」の時代になっています。今
年に入って米アップルコンピュータは、携帯音楽プレーヤー「i
Pod」の機能を搭載した携帯電話を6月から米国で発売すると
発表しています。
 ケータイと音楽の最初の結び付きは「着メロ」だったのです。
電話やメールの着信音を自分の好きな音楽のメロディにする試み
です。ケータイ端末にも何曲かは入っていますが、ネットを通し
て自分の好きな曲のサワリの部分をケータイに取り込めるように
する――これが「着メロ」です。
 しかし、これでビジネスになるのは、その楽曲の著作権を持つ
作曲家と楽曲に加工を施すコンテンツプロバイダだけなのです。
とくにプロバイダは、著作権のない楽曲も使えるので、いくらで
も利益を出せる立場にあります。
 しかし、音楽ビジネスというものは、レコード会社、アーティ
スト、作曲家、作詞家、コンテンツプロバイダのすべてに利益が
出るようにしないと本当の意味で普及しないのです。
 そういうことで出てきたのは「着うたフル」なのです。「着う
たフル」――この奇妙な言葉の本当の意味は、実際にやっている
人でないと分からないでしょう。「着うたフル」を知るには「着
うた」を知る必要があります。
 「着うた」は携帯電話の着信音をMP3やAACなどのフォー
マット符号化された30秒程度の長さの楽曲にして提供するサー
ビスのことです。あくまで提供されるのは楽曲の一部ですが、歌
手の歌声が入っているのです。「着うた」は、2002年12月
にサービスを開始しています。
 「着メロ」と比べてもっと大きな違いがあります。「着うた」
は、楽曲の使用料が音源を所有するレコード会社にも支払われま
す。そのため、料金は「着メロ」よりも割高――1曲平均105
円程度になります。パケット数は「着メロ」で50キロバイト程
度ですが、「着うた」は、100キロバイトを超え倍以上になっ
ています。こういう背景を考えてauは「ダブル定額ライト」を
案出したのです。
 「ダブル定額ライト」の効果もあって、「着うた」は、開始以
来の3年間で3億ダウンロードを達成するなど、auとレコード
会社は有力な収益源を確保するまでになっています。
 これに対して「着うたフル」とは、携帯電話で従来の着うたを
1曲全部(だから「フル」)をダウンロードできるようにした音
楽配信サービスのことで、「着うた」の発展形です。
 「着うた」のときからそうなのですが、レコード会社は当初こ
そ「CDが売れなくなる」として反対していましたが、「着うた
フル」は、開始して以来大ヒットになり、2006年5月の時点
において、対応端末の台数は800万台を超え、累計のダウンロ
ード数は6000万回に迫っているのです。
 レコード会社にしても、CDの発売前に「着うた」をプロモー
ション用として無料で配信し、かえってCDの販売枚数を増やす
ケースも多くあり、この方式であれば、レコード会社、アーティ
スト、作曲家、作詞家、コンテンツプロバイダのすべてに利益が
上がる音楽ビジネスとして、本格的音楽配信市場が確立しつつあ
るといえます。ちなみに、「着うた」も「着うたフル」もソニー
・ミュージック・エンタテインメントの登録商標です。
 仲間由紀恵・ウイズ・ダウンローズによるauのCM曲「恋の
ダウンロード」と「恋は無期限」も「着うたフル」で配信され、
結果としてヒットにつながっているのです。
 なお、auは「着うたフル」が大ヒットすると、すぐ次の手を
打っています。それは「LISMO」です。これはケータイに取
り込んだ音楽ファイル――正確には「EZ(イージー)着うたフ
ル」をPCでバックアップできるサービスです。それにPCでも
「着うたフル」の楽曲を購入できるのです。
 しかし、PC単体では音楽を聴くことはできないのです。著作
権の関係からです。PCに収録した楽曲を聴くにはUSBを介し
てPCとケータイ端末を繋げば可能です。なお、他の端末をUS
Bに繋いでも再生はできないようになっています。しかし、アッ
プルが「iPod」機能付き携帯電話端末を出して参入してくる
と「LISMO」は苦しくなるはずです。
 『Web2.0時代のケータイ戦争/番号ポータビリティで激
変する』の著者、石川温氏によると、PC向けの音楽配信サービ
スは採算が合わないとして次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本レコード協会が発表した2006年度第2四半期の有料音
 楽配信売上実績によると、パソコン向けの音楽配信は、全体の
 10%しかない。残りの90%をケータイが占めているのだ。
 ちなみにモバイル配信の222億円のうち、実に7割以上が、
 auによるもの。いかにauが音楽でリードしているかがよく
 わかる。――石川温著、『Web2.0時代のケータイ戦争/
              番号ポータビリティで激変する』
             (角川ONEテーマ/そ−122)
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように見てくると、auがいかに若者に支持されているか
がわかると思います。通話のほかにケータイで音楽を聴こうと考
えるユーザにはauがお勧めであるといえます。それほど、au
は、この面に大きく力を入れており、他の2社との差別化はでき
ていると思います。       ・・・・ [通信戦争/08]


≪画像および関連情報≫
 ・「着うたフル」の認証キー
  ―――――――――――――――――――――――――――
  着うたフルは、電話番号が認証キーとなる。すなわち、ダウ
  ンロードを行った端末か、それと同じ電話番号を持つ端末で
  しか再生ができない。つまり、番号を変えずに機種変更すれ
  ば、機種変更後の端末でも楽しむことができる。ただし、機
  種変更後の端末が着うたフル対応機種の場合に限られる。な
  お、MNPで他社へ乗り換えた場合は、データの形式が異な
  るので着うたフルの引継ぎは出来ない。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:50| Comment(1) | TrackBack(0) | ケータイ通信戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
音楽配信についてですが、まず音楽業界がCDの売上向上を最終目的としている点が前世紀の発想です。20年前に「レコードが売れなくなる」からとCDの発売を反対するようなものじゃないでしょうか。音楽配信の利益が別の業界に取られるならわかりますが、そんなことはありません。
CDを製造する原材料、工場設備、販売店への輸送料、販売店の人件費ととてつもないコストがかかるCD販売が音楽配信より優れている点はごくわずかです。シングルCDを買うだけでもマキシシングルが全盛で、千円以上かかるなんて音楽配信を後押ししているような価格設定といえます。どう考えても業界の利益構造を守りたいからCDに固執するのでしょう。
auが音楽配信を先駆け、実績を挙げていることは間違いありませんが、必ずしも先進的とはいえません。まず音質が48kbpsというレベルでは、アーティストが配信を拒むこともあるほどひどいものです。そんなレベルのものをiPodなどと比べても割高な価格設定に、厳しい利用形態も課して、普及させることは困難なほどじゃないでしょうか。
PCでブロードバンドが普及したことにより音楽配信が現実となったように、パケット料金体系の改変や音楽業界の構造変革などが起こらなければまだまだケータイの音楽配信の普及はないと思います。
Posted by KTYTI at 2007年02月10日 13:02
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