2003年12月26日

ネオはアノマリーである(EJ1260号)

 本日お届けするEJ1260号が、2003年最後のEJとな
ります。2004年は5日からお届けします。今年一年EJをお
愛読いただきありがとうございます。
 現在、私が直接お届けしているEJは567人――昨年12月
27日現在の配付数が503人でしたから、64人増えたことに
なります。もっともEJは真に読んでいただいている人に絞って
お送りしており、送信側で読んでいただいていないと思われる分
を相当数カットしていますので、純増分としてはまずまずのとこ
ろではないかと思います。今後ともご愛読のほど、よろしくお願
い申し上げます。
 なお、EJが2部届くことがあります。それは、配信直後にミ
スが発見されたときに再送するからです。したがって、その場合
は後送の方を保存していただきたいと思います。
 さて、今朝は映画『マトリックス』のテーマを一応しめくくる
ことにします。第2章でネオは、預言者のオラクルにザイオンを
救うためにはソース(マトリックスの中核部分)にたどり着き、
マトリックスの設計者であるアーキテクトに会う必要があるとア
ドバイスされます。
 そのためには、キー・メーカーの持つ鍵が必要なのですが、そ
のキー・メーカーは、メロビンジアンというマトリックス内の古
いプログラムに幽閉されているのです。そこで、ネオたちは、メ
ロビンジアンのところに行き、キー・メーカーを奪還して、大変
な苦労をして、アーキテクトにたどり着くのです。
 そのアーキテクトとネオの対話――ここにこの映画のすべての
謎が隠されているのです。ここで、2つの重要なことがアーキテ
クトによって語られるのです。
 1つ目は、「なぜ、私はここにいる?」というネオの問いに対
する次のアーキテクトの答えです。話の内容は非常に難解ですが
意味がわかるでしょうか。字幕をそのまま掲載します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 アーキテクト:
 君はアンバランスな均衡の余剰だ。プログラム固有の問題だ。
 つまり、君は変則的なアノマリーの産物だ。いまだ、排除でき
 ずにいるが、本来求めたのは数学的な正確さだ。解決すべき問
 題だが、予想範囲内でコントロールも可能だ。それで君は容赦
 なくここに導かれた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 要するにアーキテクトは、ネオは「アノマリー」だというので
す。「アノマリー」とは例外とか変則とか異例という意味です。
システム全体の設計思想に問題があると、このようなアノマリー
が生じてしまうのです。アノマリーは、システムの中に本来あっ
てはならないものです。
 つまり、ネオやエージェントのスミスはアノマリーであり、本
来排除すべきものなのだが、いまだに排除できないでいる――と
アーキテクトはいうのです。しかし、もともとアノマリーはその
出現が予想されていたものであり、大きな意味ではシステムのコ
ントロール下にある――だからこそ、いや応なく君はここに導か
れてきたのだといっているのです。
 重要なことの2つ目は、現在のマトリックスのバージョンが6
であるという事実です。バージョンが変わるたびに人類は危機に
瀕し、そのつど選ばれし者である救世主があらわれて、次に述べ
ることを行ってザイオンを再建してきたというのです。

 アーキテクト:
 ここでの「選ばれし者」の役割は、起動源(ソース)に戻って
 自分が保持するコードの臨時配布を実行、基幹プログラムを再
 挿入することだ。その上で、君はマトリックスから女性16名
 および男性7名から成る23名の人間を選抜し、ザイオンを再
 建する。この処理過程での不履行の発生は大規模なシステムク
 ラッシュを招き、マトリックスに接続された全ての人間の生命
 を奪う結果となる。それはザイオンの崩壊と併せて、最終的に
 は人類の滅亡を意味するのだ。

 アーキテクトによると、最初のマトリックスは、AIである自
分が制作したので、システム上完璧であって、いっさいのアノマ
リーが発生しないものだったが、人間がそれを受け入れなかった
というのです。そこで、システムのレベルを下げて、もっと乏し
い心、完璧のパラメータに束縛されない貧しい精神に基づくシス
テムを目指して6回も作り直した結果、ほとんどの人間がそれを
受け入れるようになっている――とアーキテクトはいうのです。
 そういう人間にフィットするマトリックスのバージョン6がで
きたのは、本来は人間の精神を調査するために作られた直感プロ
グラム/オラクルが役に立ったとアーキテクトはいいます。そし
て、私がマトリックスの父であれば、オラクルは間違いなくマト
リックスの母であると。
 そして、アーキテクトは、ネオに究極の選択を迫るのです。右
のドアを開ければ、人類の救済にいたる道が開ける。左のドアを
開ければトリニティーのところに行けるが、人類は全滅する――
ネオは何のためらいも見せず左のドアを開けて、トリニティーの
救出に向かうのです。
 その後のことは、現在上映中の第3章「レボリューション」を
観るしかないのですが、それ以上踏み込むとネタバレになるので
今回の分析はここまでのことにします。いずれ、「レボリューシ
ョン」のDVDが発売された時点で、再びEJで取り上げてみた
いと思います。
 映画『マトリックス』については、9回にわたってお送りしま
した。全原稿量は400字詰め原稿用紙63枚――それだけ書い
てもまだ書くことはたくさんあります。それほど奥が深い映画と
いうことがいえます。2003年は、新しいテーマで5日から配
信します。愛読者の皆様、どうか良いお年をお迎えください。

1260号.jpg
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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