2003年12月24日

ネオはなぜ空を飛べるのか(EJ1258号)

 培養人間のうなじ(首のうしろ)についているプラグ――これ
をバイオポートというのですが、このバイオポートの一方の先は
太いケーブルを通してマトリックスを制御するコンピュータにつ
ながっています。
 さて、バイオポートのもう一方の先は、脳全体に広がる電極の
群れに配線を通してつながっています。うなじから、脊柱の上で
頭蓋を支えるしなやかな軟骨から入り、脊髄を頭蓋にはめこんで
いる自然の開口部を通って脳に達している――と考えられます。
 映画で興味深いことは、このバイオポートを利用して、ネオの
脳にカンフーの技能をダウンロードするシーンとトリニティーに
対して、ヘリコプターの操縦技術を脳に植えつけるシーンです。
要するに脳の永久記憶に直接書き込むわけです。
 しかし、マトリックスの中の人間――つまり、培養器に入って
いる人間ですが、そういう人間はこのような方法で知識や技能を
身につけることはせず、本を読んだり、学校に行ったりして、ご
く普通のやり方で物事を学ぶのです。
 このバイオポートを利用して技術プログラムをダウンロードす
る方法は、モーフィアスやトリニティーなどのゲリラが開発した
ノウハウなのです。興味深いのは、そのようにして超高度のカン
フーの戦闘技能をダウンロードされたネオが師匠であるモーフィ
アスに最初は勝てないことです。
 私がこの映画で最も印象に残っているのは、マトリックスそっ
くりに作られた環境でのカンフーの訓練プログラムのシーンなの
です。そこで、モーフィアスとネオは戦うのですが、どうしても
ネオは、モーフィアスのスピードについて行けず、負けてしまい
ます。そのシーンを再現してみましょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 モーフィアス:なぜ、やられた?
 ネオ    :速すぎる。
 モーフィアス:考えてみろ。仮想現実の世界で強さやスピード
        の原因が筋力にあると思うか。
 ネオ    :・・・・・
     ―― 再び、速さについていけないネオ ――
 モーフィアス:何してる。もっと速いはずだぞ。速く動こうと
        考えるな。速いと知れ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 カンフーに必要なすべての技能を脳にダウンロードしていても
実際にそれを演ずるとき、何か考えてしまったり、やろうとする
ことに自身が疑問を持ってしまうと、身体の動きがセーブされて
しまうのです。
 モーフィアスのいう「速く動こうと考えるな。速いと知れ」は
なかなか深遠なことばです。「速く動こう」と考えるのは意思の
力ですが、「速く動けるのだ」と信じて疑わないと、そのように
動けるのです。「速いと知れ」はそのことをいっています。思考
は現実化するのです。
 カンフーの戦いの途中で、モーフィアスは盛んに「心を解き放
て」と叫びますが、マトリックスの中では心を解き放つこと――
すなわち、現実世界での行動概念を捨てて、意識の開放をすれば
するほど、パワーが増すのです。
 もう少し詳しく説明しましょう。
 現実世界では、やれないことがたくさんありますね。空を飛べ
ない、空間で長い間静止できない、高いところから落ちれば死ぬ
近くでは弾丸を避けられないなど――しかし、マトリックスの世
界には、重力や質量は存在しないのです。したがって、現実世界
でできないと考えていることをすべて意識の外に捨ててしまえば
何だってできるようになるのです。ネオが空を飛んだり、近くで
発射された弾丸を止められるようになったのは、十分に心が開放
された結果と考えることができます。
 「速く動こうと考えるな。速いと知れ」――このことは、現実
の世界でも当てはまる教訓ではないでしょうか。「やれないと考
えてはいけない。できると知れ!」――「できる」と考えれば、
たいがいのことは可能になるのです。
 以上のように考えたうえで、この映画には大いなる矛盾という
か、不可解な謎があります。映画『マトリックス』を観た人は、
ぜひ考えていただきたいと思います。
 ひとつは、第2章「リローデッド」の最後の部分で、AIの放
つイカ型ロボット「センチネル」をネオが片手で止めるシーンが
あったと思います。しかし、その場所はマトリックスの中ではな
く、ザイオン――現実の世界なのです。いくらネオでも、現実世
界で超能力は発揮できないはずですが、どうして止められたので
しょうか。この謎についてどのような意見をお持ちですか。
 もうひとつ謎があります。
 ネブカドネザル号のクルーの一人にサイファーという人物がい
ます。サイファーは、ゲリラの生活に嫌気がさして、もう一度マ
トリックスにつながれたいと願っています。そういう心のスキに
エージェントのスミスが入り込んで、サイファーは裏切りを勧め
られます。
 実際にサイファーは仲間を裏切るのです。そのために、モーフ
ィアスは窮地に陥り、それが原因でネブカドネザル号のクルーで
あるマウス、スイッチ、エイポック、ドーザーの4人とその裏切
りの張本人であるサイファー自身も死ぬことになります。
 そのサイファーがマトリックス内のレストランで、スミスと密
会するシーンがあります。裏切りの打ち合わせですから、一人で
こっそりとやったはずですが、現実世界からマトリックスに行く
のは、自分ひとりではできないはずです。
 少なくともオペレータは必要ですが、サイファーがマトリック
ス内で何をしているかは、オペレーターにすべてわかってしまい
ます。どのようにして、サイファーはマトリックスに行ったので
しょうか。一人でプラグに電極を差し込んでマトリックスに行き
自動的に一人で戻ってこれるのでしょうか。

1258号.jpg
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。