と思う人もいるかも知れませんが、この映画はなかなか奥が深い
のです。この映画を製作したウォシャウスキー兄弟が、「知的な
アクション映画」を目指して製作しただけあって、徹底的に考え
抜かれているのです。
現実世界と仮想現実世界――仮想現実世界であるマトリックス
の世界にはどのような人間がいるのでしょうか。マトリックスに
は、次の3種類の人間が存在することができます。
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1.培養人間(実体は培養器の中にいる)
2.培養器から脱出した人間(ネオなど)
3.各種プログラム(エージェントなど)
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マトリックスの中で生活しているほとんどの人間は培養人間で
実際は培養器の中にいます。彼らは、自分がどのような状況にあ
るのかがわかっていません。夢を見るように毎日を20世紀の世
界そっくりに作られたマトリックスの中で暮らしています。
モーフィアスによって培養器から解き放たれた培養人間がゲリ
ラで、彼らはすべて首の後ろにプラグが付いています。これがザ
イオン都市に住む人間と違う点です。モーフィアス、ネオ、トリ
ニティーはいずれも開放された培養人間です。
彼らは、安楽椅子風のマシンに横たわり、首の後ろのプラグに
電極を差し込まれる――これによってオペレータの操作で、意識
のみがマトリックスの内のどのポイントにも瞬間移動できるので
す。現実世界に戻るときは、オペレータの指定した回線から意識
が転送されるのですが、その転送の入り口となるのがマトリック
ス内に存在する電話なのです。つまり、彼らはマトリックスと現
実世界とを自由に行ったり、来たりできるわけです。
しかし、転送時に使われる電話は、エージェントに盗聴される
リスクを伴うため、ダイヤル式のアナログ回線が使われることに
なっています。それでも、オペレータとの連絡には携帯電話を使
わざるを得ないので、彼らはエージェントに容易に見つけられて
しまうことになります。
それでは、プログラムとは何でしょうか。
マトリックス内における培養人間以外のキャラクターはすべて
プログラムです。エージェントのスミスをはじめ、まだ説明して
いませんが、預言者のオラクルやセラフは人の心を読む直感プロ
グラムですし、最古のプログラムといわれるメロビンジアンやそ
の妻のパーセフォニー、手下のザ・ツインズなどなど――すべて
プログラムなのです。プログラムには、現実のプログラムがそう
であるように、必ず目的があり、その目的が何であるかを考えな
がら映画を観ると、よくわかると思います。
そして、本物の人間――首の後ろにプラグのない人間は、当然
ですが、現実世界にしか住めず、もちろん、マトリックスに潜入
することはできないのです。また、いうまでもないことですが、
マトリックスの内のプログラムに人間は、現実世界にはやってこ
れないのです。
映画に一番よく出てくるネブカドネザル号のクルーは、ほとん
ど培養人間ですが、オペレータのタンクとドーザーは人間です。
なお、ドーザーはタンクの兄です。クルーを紹介します。
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船長 ・・・・・・・・・ モーフィアス ――― 培養人間
クルー/将校 ・・・・・ トリニティー ――― 培養人間
クルー ・・・・・・・・ ネオ ――――――― 培養人間
クルー/オペレータ ・・ タンク ―――――― 人間
クルー ・・・・・・・・ ドーザー ――――― 人間
クルー ・・・・・・・・ マウス ―――――― 培養人間
クルー ・・・・・・・・ サイファー ―――― 培養人間
クルー ・・・・・・・・ スイッチ(女性) − 培養人間
クルー ・・・・・・・・ エイポック ―――― 培養人間
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ここで、改めてマトリックスについて考えてみます。人間の感
覚器官は、外からの情報(光や音など)を電気信号に変換し、さ
らに脳による処理を経てイメージ化された現実として、意識的経
験が構成されています。
そこでAIは、同じ電気信号を人間の脳に送り、現実と見分け
がつかない幻想を創り上げているのです。これがマトリックスの
実体なのです。
ネオがマトリックスの訓権プログラムに入ったときのモーフィ
アスとネオの次の会話があります。
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ネオ「これは現実ではない?」
モーフィアス「現実とは何だ?明確な区別などできない。五官
で知覚できるものが現実だというなら、それは脳による電気信
号の解釈にすぎない」
―― モーフィアスはディスプレに映像を写して見せる ――
モーフィアス「これが君の知る世界、20世紀末の世界だ。い
まやこれは、われわれがマトリックスと呼ぶ双方向神経系シミ
ュレーションの一部としてしか存在していない。きみは夢の世
界で暮らしていたんだよ、ネオ」
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モーフィアスやネオやトリニティーなどの培養人間にとっては
意識がマトリックスに行っているときに電極プラグを抜かれると
死ぬことになります。また、マトリックス内で戦って死亡したと
きは、現実の世界でも死ぬことになります。
エージェントやオラクルやメロビンジアンなどのプログラムに
とっての死とは、システム上からプログラムが削除されたときが
それに該当します。このように、マトリックスは、あらゆる可能
性を考慮して設計してあるのです。
