2003年12月18日

コンピュータは意識を持てるのか(EJ1255号)

 AI(人工知能)が高度に発達し、人間と普通に会話し、場合
によっては嫉妬し、そのために人間の行動を制約することさえす
る――そんな状況をわれわれは映画『2001年宇宙の旅』で見
ています。木星に向かう宇宙船「ディスカバリー号」のスーパー
コンピュータHALとボーマン船長との対立がそれです。
 この旅の途中、HALが発狂して宇宙船の乗組員たちを殺すの
です。ただひとり生き残ったディヴ・ボーマン船長は、殺される
前にHALの思考力を奪おうとします。そうすると、HALは機
能を停止させられる前に、自分の行動を正当化するために次のよ
うなことをいうのです。
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 このミッションは私にとってきわめて重要なので、あなたに台
 なしにされるわけにはいかない。
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 かつてあのサン・マイクロシステムズ社のビル・ジョイは、マ
シンが意識を持ったら、いずれ人間にとって代わるのではないか
とマジに恐れていたといいます。ビルがいうのは、もし思考マシ
ンが、自分たちがやりたいことに人間が邪魔していることを知っ
たなら、人間を排除する行動に出ることは明らかである――こう
いっているのです。
 「コンピュータやロボットは、きちんと監視しないと手に負え
なくなる」――このアイデアは、SFの世界では今日にいたるま
で、繰り返し使われてきています。
 ウィリアム・ギブスンの1984年の作品、長編小説『ニュー
ロマンサー』の中には「チューリング」という警察組織が登場す
るのです。このチューリングの警官は、コンピュータシステムに
本物の知性や自我が出現する兆候がないかを見張っており、少し
でもその兆候があると、手遅れになる前にシステムを停止するの
が仕事なのです。
 「知性や自我は、ひょいと生まれるものである」ということを
HALの生みの親であるアーサー・C・クラークは、ごく早い時
期にその可能性に言及しています。彼の短編小説『Fはフランケ
ンシュタインの番号』には、世界規模の通信ネットワークが人間
の脳よりも複雑で相互接続の多いものになって、ある日突然、ネ
ットワークの中に意識が出現する可能性を描いています。
 「意識は、複雑なシステムから突発的に生み出される」――映
画『マトリックス』において地球全体に君臨しているAIは、そ
のようにして生まれたのではないでしょうか。
 ここで話題をひとつ。『2001年宇宙の旅』に登場するコン
ピュータHALは、IBMをアルファベットで一文字ずつ前にず
らしたものである――ということはあまねく有名な話です。IB
Mを超えるコンピュータという意味です。しかし、アーサー・ク
ラークは、それを否定しているのだそうです。
 しかし、それはクラークのウソで、彼は確信犯なのです。とい
うのは、彼の1990年の長編小説、『ゴールデン・フリース』
(早川書房)に登場するAIの名前はJASON――彼はそれを
JCNと略して呼んでいるのです。JCNはIBMをアルファベ
ットで、一字ずつ後ろにずらしたものです。HALの話を人にい
うとき、これを話すとHALのいわれを知っている人もきっと驚
くはずです。
 余談が長くなりましたが、話を『マトリックス』に戻します。
映画の主役の3人は既に述べましたが、彼らが戦っている相手は
誰なのでしょうか。
 この映画を見たある知人は、「誰と戦争しているのか今ひとつ
相手がはっきりしないが、とにかく変化が激しくて面白かった」
といっていましたが、予備知識なしで見ると、確かにそういうこ
とはいえるかもしれません。
 正解は、人類とAI(意識を持つコンピュータ)との戦いとい
うことなのです。ややこしくてわかりにくいのは、人類が人間と
培養人間の両方を含んでいること、それにAIはつねに背後にい
て、実際に人類が戦うのは、AIが創り出した数々のプログラム
や攻撃用の兵器(センチネル)であることです。
 ちなみに、プログラムは、マトリックスにおいて、すべて人間
のかたちをして出てきます。一番よく出てきて、ネオやモーフィ
アスやトリニティーと戦うのは、エージェントの頭目のスミスで
す。ところで、この黒いスーツにサングラスというシークレット
・サービスのいでたちのエージェントの正体は何でしょうか。
 エージェントの正体は、マトリックスの機能が正常に機能して
いるかどうかを監視する「システム監視プログラム」なのです。
そのため、マトリックスの中に侵入を繰り返すゲリラやプログラ
ム自体が持っているバグを排除しようとして動くのです。エージ
ェントの頭目のスミスは、ヒューゴ・ウィービングというオース
トラリアの俳優が演じています。
 映画を観るとき注目していただきたいのは、第1章におけるエ
ージェントは全員耳にイヤホンのプラグを付けているのに対し、
第2章の「リローデッド」と第3章の「レボリューション」では
イヤホンプラグを付けていないことです。これは、第1章の段階
では、いちいち中央コンピュータ(AI)の指示を受けて動いて
いたのに、第2章以降はシステムから離脱し、独立していること
を示しているからです。
 要するに、映画『マトリックス』には、次の3種類の「人間」
が登場するのです。これをきちんと見分けないと、頭の中が混乱
します。
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 人間   ・・・・ 自然の繁殖で誕生したザイオンの人間
 培養人間 ・・・・ AIが栽培した人間/首にプラグあり
 プログラム ・・・ AIが創作したマトリックス内の人間
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 なお、現在、第1章と第2章セットのDVDが超特価(300
0円以下)で販売されています。正月観賞用にぴったりです。

1255号.jpg
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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