2012年11月08日

●「『引き渡し』と『返還』とは異なる」(EJ第3424号)

 当然のことですが、日本人は北方領土は必ず返って来ると信じ
ています。それは尖閣諸島や竹島の比ではないと思います。実際
にそこに住んでいた人が大勢いるし、墓地もあるからです。明ら
かに北方領土は不法占拠されているのです。
 そのため、ロシアの首脳が少しでも返還に前向きに取れる発言
をすると、それを勝手に良い方向に解釈してしまう傾向がありま
す。メディアからしてそういう傾向があります。そのため、事態
を大きく読み誤ることがあるのです。
 しかし、一度実効支配下に置かれた北方四島と竹島は57年が
経過しても依然としてそのままの状態であり、返還されていない
のです。その点沖縄は、米軍基地こそ残っていますが、きちんと
返還されたのです。返還されて当然なのですが、密約の有無など
が取り沙汰されているとはいえ、返還されたことの重さを改めて
感ずるのは私だけでしょうか。
 それにしてもロシアは実にしぶとい国です。米国とは明らかに
違います。しかし、そのなかでは、プーチン大統領だけは、歴代
のロシアの指導者と比べると、返還に前向きともとれる発言を繰
り返しています。2度目の大統領に就任した今回も、北方領土に
ついてその交渉活性化を匂わせる発言をしています。それに釣ら
れて野田首相は12月に訪ロを計画しています。
 もし、領土交渉を大きく前進させられたら、民主党の支持率回
復につながるからです。これにも鈴木宗男氏が一枚噛んでいると
いわれています。鈴木氏は現在でも野田首相の北方領土問題のア
ドバイザーを務めているのです。
 しかし、ここにきて首脳会談自体に暗雲が立ち込めているので
す。どうやら、日本の国内事情を見透かしたロシア側が日程調整
や成果文書の作成を渋っているというのです。野田内閣は、事実
上「死に体」になっており、首脳会談をしても意味がないとロシ
ア側が判断しているものと思われます。
 それに首脳会談が実現しても、プーチン大統領が本当に領土問
題を前進させようとしているのかどうかを疑わせる事態が起きて
いるのです。それは、2012年7月3日に、メドベージェフ首
相が国後島を訪問していることです。
 メドベージェフ首相は、本当は国後島ではなく、択捉島に行く
予定だったのです。しかし、天候が悪化したので、予定を変更し
2010年に一度行っている国後島を再訪したのです。つまり、
北方領土なら、どこでもよかったということになります。メドベ
ージェフ首相は、明らかに政治的に北方領土を訪問したことにな
ります。それは、自分の国内での支持を高める狙いがあると考え
られます。
 なぜ、この時期に国後島に行ったのでしょうか。それは、メド
ベ―ジェフ首相の支持層である、領土問題の前進に反対するナシ
ョナリストや軍関係者の支持を高めるためとみられます。あるい
は、プーチン大統領と組んで、領土問題前進を期待する日本国内
の期待度を下げることも考えてのことと思われます。
 いずれにしてもメドベージェフ首相がプーチン大統領の意向を
無視して北方領土を訪問するはずがないのです。したがって、そ
れはプーチン大統領の意思でもあると考えるべきです。そこで、
プーチン氏が何をいっているか、冷静に分析してみる価値がある
と思います。プーチン大統領の発言を示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私たちは、柔道家として、勇気ある一歩を踏み出さなくてはな
 りません。しかしそれは、勝つためであって、負けるためでは
 ありません。この状況では、奇妙に思えるかもしれませんが、
 私たちは勝利を得ようとしてはなりません。この状況では、私
 たちは受け入れ可能な妥協が必要です。何か「ヒキワケ」に類
 するものです。ソ連は、日本との長い交渉の末に、1956年
 に共同宣言に調印しました。この宣言には、2島を平和条約締
 結後に引き渡すと書かれています。つまり平和条約が意味する
 ことは、日本とソ連との間には、領土に関する他の諸要求は存
 在しないということです。そこ(56年宣言)には、2島がい
 かなる諸条件の下に引き渡されるのか、またその島がその後ど
 ちらの国の主権下に置かれるかについては書かれていません。
 これ(56年宣言)は日本の国会とソ連の最高会議で批准され
 ました。つまり、基本的にこの宣言は、法的効力を有するよう
 になったのです。           ──プーチン大統領
        ──袴田茂樹氏/「日経ビジネスオンライン」
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120307/229577/?P=1
―――――――――――――――――――――――――――――
 プーチン大統領はこう考えているのです。プーチン発言の真意
は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.歯舞/色丹2島の引き渡しに合意した日ソ共同宣言のみ
   が法的拘束力のある取り決めである
 2.平和条約締結後に歯舞/色丹を引き渡すとしてもそれは
   主権を日本に渡すことを意味しない
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、驚くべきことをいっています。法的拘束力のあるのは
「歯舞/色丹2島の引き渡し」だけであって、択捉・国後両島は
無関係であるというのです。
 しかも、「引き渡し」は「主権の引き渡し」を必ずしも意味し
ないといっているのです。これによると、平和条約の締結によっ
て、日ソ共同宣言にある歯舞/色丹2島が日本に引き渡されても
主権については、ロシアに残ることもあり得るといっているので
す。あくまで「引き渡し」であって、「返還」ではないというの
です。それどころではないのです。最近のロシアでは、2島を引
き渡してまで、日本と平和条約を締結する必要などないという強
硬論が浮上しているのですが、日本のメディアはわかっていても
そういうことを一切伝えようとはしていないのです。それにして
も、日本も甘く見られたものだとつくづく感じます。
                 ── [日本の領土/28]

≪画像および関連情報≫
 ●ニュースの真相/メドベージェフの国後島訪問
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ロシアのメドベージェフ首相が北方領土の国後島を訪問し、
  「一寸たりとも渡さない」と強硬な発言をしました。プーチ
  ン大統領はかつて、「引き分け」という言葉を使って領土問
  題の解決に前向きな姿勢を示し、日本側の期待も高まってい
  ただけに、今回の発言は日本に改めて揺さぶりをかけようと
  いう思惑もうかがえます。ロシア・メドベージェフ首相は、
  「ここはもともとロシアの領土なんだ。一寸たりとも渡さな
  い」メドベージェフ首相は2012年7月3日、複数の閣僚
  を引き連れて国後島を訪問し、水産加工場や病院などを視察
  しました。訪問後にはツイッターに「国後島はロシア最果て
  の地」と写真つきで投稿し、北方領土の実効支配をアピール
  しました。プーチン大統領が柔軟姿勢を見せる傍ら、強硬姿
  勢を保つ「役割分担」ではないかとの見方も出ています。ロ
  シア・ラブロフ外相/「日本の隣人は、ロシアの立場を十分
  知っている。我々は隠してもいない。平和条約問題のなかで
  説明してきたし、これからもしていく」。一方、ラブロフ外
  相は、今月にも検討されている外相会談には影響がないとの
  考えを示しています。
     http://d.hatena.ne.jp/rebel00/20120706/1341535299
  ―――――――――――――――――――――――――――

プーチン大統領/メドベージェフ首相.jpg
プーチン大統領/メドベージェフ首相
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(1) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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ロシア「歯舞・色丹を引き渡す。歯舞・色丹の解決に倣う形で国後、択捉も協議する」→日本「拒否する」
Excerpt: 1 :番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2013/01/09(水) 11:24:42.01 ID:H6B/bLnaO ?2BP(2000)http://headlines.yahoo.c..
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