2012年11月07日

●「ロシアは一島も返還する気はない」(EJ第3423号)

 麻生氏から政権を引き継いだ鳩山由紀夫首相は、北方領土交渉
としては、何をしたのでしょうか。
 2009年11月15日に、シンガポールで鳩山元首相はメド
べージェフ大統領と会談しています。この会談で次のようなやり
取りが行われたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山首相:2島返還では、どうしても国民も我々も理解できな
      い。それを超えた独創的なアプローチがあると期待
      している。
 メ大統領:ロシア国内には厳しい見方や世論がある。冷静な議
      論が必要である。戦後の結果については、地政学的
      に見直すことはできないが、日本との関係では、別
      問題と考えている。
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山首相の真意は、「2島返還プラスアルファ」での解決案を
示唆したもので、これから北方領土での会談を通じて、アルファ
部分を詰める交渉をする意図があったと思われます。
 しかし、それにしてもメドベージェフ大統領の「地政学的に見
直すことはできないが、日本との関係では別問題」という発言は
ロシアとしては驚くべき柔軟発言です。ロシアは何に期待したの
でしょうか。
 それは、会談直後のラブロフ外相の次の発言によくあらわれて
いるといえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 平和条約締結問題について「両首脳は何ら前提条件をつけるこ
 となく解決することで合意した。日本の政権はこの数年、平和
 条約締結問題を、経済協力進展などの問題の前提条件としてき
 たが、鳩山政権にはそれがない」と述べた。さらに、会談では
 日本側から「対ロ関係を戦略的パートナーとして発展させたい
 との姿勢が感じ取れた」とも強調した。  ──ラブロフ外相
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、日本側はラブロフ外相の「合意」を確認していないの
です。どうしてラブロフ外相はこれまで踏み込んだ発言をしたの
かというと、それは、鈴木宗男衆議院議員(当時)が代表を務め
る新党大地が民主党会派に加わって与党になっていることが非常
に大きいといえるのです。
 鈴木宗男氏は、二島先行返還主義者であり、ロシア側としては
民主党が政権を取った今こそ、領土問題をロシア側有利に解決で
きるとの読みがあったものと思われます。ロシア側は鈴木宗男氏
の存在を強く意識しているのです。
 2010年4月13日、鳩山首相はワシントン市内でメドベー
ジェフ大統領と会談し、われわれ首脳同士でこの問題を解決した
いと発言し、大統領も賛意を与えているのです。したがって、こ
の時点で鳩山首相は、首相を辞任するつもりはまったくなかった
と考えられます。
 しかし、その2ヵ月後に鳩山首相は辞任していますが、それで
も同年9月にはロシアを訪問し、メドベージェフ大統領と北方領
土問題を協議しているのです。もちろんこの会談では、実質的な
進展はなかったのですが、首相を降板しても外交交渉を行ってい
たことになるのです。
 鳩山政権の後の菅政権に対しては、ロシア側としては、東郷和
彦氏のいう二頭立て馬車を走らせるタイミングと考えたものと思
われます。領土交渉の馬と四島のロシア化の馬を走らせる。日本
側から要請があればあれば、いくらでも交渉に応ずる。しかし、
その間でも四島のロシア化はやめない。そのうち、日本はあきら
めるだろう。そのときは四島のロシア化は、きっと完成している
だろう──こういう決断です。
 菅政権登場後の7月2日、ハバロフスクで開催された「極東社
会経済開発とアジア太平洋地域との経済力会議」において、メド
ベージェフ大統領出席の下に、ラブロフ外相が演説を行ったので
すが、今後この地域での協力国として、韓国、中国、インド、モ
ンゴル、ASEAN、豪州、ニュージーランド、アメリカを上げ
ながら、日本を無視したのです。そして、同年の11月に、メド
ベージェフ大統領は国後島を訪問しています。それは、菅政権と
は領土交渉はしないというメッセージだったのです。
 1955年の日ソ共同宣言から57年が経過しても、まったく
進展しない北方領土交渉。ここまで見てきたように、日本側に多
くの外交上のミスはありましたが、ソ連もロシアも当初は解決す
る意思はあったと思われます。少なくとも冷戦が終わり、プーチ
ン氏が大統領になったときまでは、何らかのかたちで解決しなけ
ればならないと考えていたことは間違いないと思います。
 しかし、現在はその意思はないと考えます。もちろん交渉は続
けるべきですが、プーチン氏もメドベージェフ氏も現在では、交
渉には応じる姿勢は見せるものの、二島はおろか一島も返す意思
はないと思います。
 それは、メドベージェフ氏による大統領時代の2010年11
月の国後島訪問と首相に戻った2012年7月の国後島訪問がそ
のメッセージなのです。プーチン大統領はメドベージェフ首相と
は違うという人は多いですが、プーチン氏とメドベージェフ氏の
意思は通じています。まして7月の訪問は、プーチン氏が大統領
に復帰した後の訪問であるだけに、ロシアとしての意思を示した
ものと考えられます。
 なぜそうなるのかというと、たとえ日本に1島も返さなくても
日本側からロシア側が困るような反撃材料は何もないと考えてい
るからです。完全に足元を見られているのです。
 この12月に野田首相がロシアを訪問しますが、実質的な成果
は何もないでしょう。期待するだけムダです。次の選挙で首相に
なれないことが確実の野田首相と交渉しても時間のムダと考えて
いるからです。しかし、領土交渉という馬が動いている限りは、
ロシアは交渉に応ずると思います。その間に北方領土のロシア化
はどんどん進められます。     ── [日本の領土/27]

≪画像および関連情報≫
 ●凪論/鳩山内閣の北方領土交渉が進展しない理由
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  (日本の主張である「四島一括返還」)それが大きく歪めら
  れたのは、鈴木宗男元衆議院議員と佐藤優元外務省職員によ
  る対露外交が原因であった。鈴木宗男元衆議院議員と佐藤優
  元外務省職員は、歯舞、色丹の二島を先行して返還させ、し
  かる後に国後、択捉の二島を返還させる段階的な返還論を唱
  え、北方領土問題において四島一括返還を唱える末次一郎氏
  らと対立した。そして、ロシア大使などが同席する場で鈴木
  宗男元衆議院議員が末次一郎氏を面罵したことについては拙
  稿においても述べてきた。ロシアは日本側の足並みの乱れを
  認識するとともに、段階的返還論においてソ連の武力侵略へ
  の批判という日本側の最大のカードを失っていく様をほくそ
  えんでいたに違いない。そして鈴木宗男元衆議院議員と佐藤
  優元外務省職員が対露外交を仕切るようになって日本側の理
  は説得力を失い、ロシアが二島を返還する見通しすら見えな
  くなっていった。その結果、北方領土周辺海域で漁民がロシ
  アに銃撃されるという事件が繰り返され、ロシア大統領が北
  方領土を訪問を計画するというような危惧すべき事態へと至
  ったのである。鈴木宗男元衆議院議員、佐藤優元外務省職員
  の対露外交の失敗はこのように日本に取り返しのつかない損
  失を与えたのである。
  http://blog.livedoor.jp/patriotism_japan/archives/51588510.html
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首相降板後の鳩山元首相/メドベージェフ大統領.jpg
首相降板後の鳩山元首相/メドベージェフ大統領
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
Posted by 履歴書 at 2012年11月17日 17:58
返すわけがない何せあそこはロシアにとって来るべき北海道侵攻の前線基地だからね
Posted by 大井鉄也 at 2013年04月26日 23:09
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