において麻生氏は外相だったので、北方領土交渉は継続して行う
ことは可能だったはずです。しかし、結果としてこの麻生内閣も
2009年の参院選で政権を失い、また1年で終わるのです。
ところで麻生氏は、北方領土問題に対してある考え方を持って
いたのです。2008年12月13日の衆議院外務委員会で、当
時の民主党の前原誠司議員の質問に答えて、麻生外務大臣は次の
ように答弁しています。
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二島だ、三島だ、四島だという話になると、これは、こっちが
勝って、こっちが負けだという話みたいになって、双方ともな
かなか合意が得られない。したがって、半分だった場合という
のを頭に入れておりました。現実問題を踏まえた上で双方どう
するかというところは、十分に腹に含んだ上で交渉に当たらね
ばならぬと思っております。 ──麻生外務大臣
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この麻生答弁がきっかけになって、「北方領土二等分論」が出
てきたのです。実はこれは麻生氏自身のアイデアではなく、公明
党の元参院議員・高野博帥氏が提案したものなのです。高野議員
は2006年4月5日、参議院決算委員会で麻生外務大臣に対し
中国とロシアが戦略的パートナーシップを結ぶため、プーチン大
統領と胡錦濤国家主席との間で国境線問題がどのように解決され
たかについて説明しています。それが面積二等分のやり方なので
す。中国はベトナムとの間でもそのやり方で国境線を画定してい
るのです。
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1999年の世論調査ですが、国民の80%は日ロ平和条約は
不可欠(と考え)、しかし82%の人はその阻害要因は領土問
題だと(考えている)、2000年の場合には二島返還が34
%、四島返還が32%、二島返還の方が少し増えている。一方
で26%の国民は日本は領土問題に固執すべきではないという
意見も強くなりつつある。多くの日本人は日本とロシアのパー
トナーシップ、友好関係、これが領土問題よりも重要だという
こういう現実があります。 ──高野博帥氏
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つまり、高野氏は、日ロ両国が原則論をぶつけあって現状を固
定したままでいるよりも、双方の利益になる解決方法を考えると
き、ロシアのプーチン大統領が中国との間で行った面積二等分は
有効な方法で、日本の国民世論を考えても実現の可能性があると
説いたのです。
麻生首相はこの案を支持し、ロシアに提案しています。200
8年2月、麻生首相が、日本企業も出資する原油・天然ガス資源
開発事業「サハリン2」の稼働式典に、メドベージェフ大統領の
招きに応じ、日本の首相として戦後初めてサハリン(樺太)を訪
問しています。そのときの麻生・メドベージェフ会談で、この案
が話題に上っています。メドベージェフ大統領は領土問題に関し
次のように述べています。
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「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」の下で作業を
加速したい ──メドベージェフ大統領
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この面積二等分論については、2009年5月に来日したプー
チン首相も関心を持ち、次の発言をしています。
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2009年7月のイタリアのラクイラ・サミットにおける日
ロ首脳会談では、面積二等分論も含めて、あらゆるオプショ
ンが議論されるだろう。 ──プーチン首相
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しかし、麻生首相は、その直後に行われた衆院選挙で大敗し、
自民党と民主党の政権交代が起きたのです。ロシアとの領土交渉
を担う政権は、またしても一年で交代してしまったのです。メド
ページェフ大統領にとって、福田、麻生両首相に続いて3人目の
首相である鳩山由紀夫首相が登場してきたのです。
「やっていられない」──ロシア側としてはこう考えても不思
議はないのです。既出の東郷和彦氏は、ロシア側が日本との領土
交渉について2006年頃にある決断をしたのではないかとして
次のように述べています。
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私は、2006年、ロシアが極めて重要な戦略的な決定をした
のではないかと思う。日本との領土問題に決着をつける。その
ために、交渉はする。「あらゆる可能な案」を協議する。同時
に、四島の現状を放置しない。政府として責任をもつべき、四
島の開発と住民の福利厚生は粛々と実現していく。いわば、日
口領土問題という馬車を、「領土交渉」という馬と「四島のロ
シア化」という馬との二頭立てで走らせる。その意味は、もし
も「領土交渉」の馬が動かなくなったら、もはや、その馬は、
日口領土問題の馬車からきりはなすということである。ロシア
側がお願いしてまで領土交渉を日本とやる筋はないし、日本が
そのことによって怒っても、ロシアを怖れさせる手立てを日本
はもっていないという冷徹な判断である。
──保阪正康・東郷和彦共著
『日本の領土問題/北方四島、竹島、尖閣諸島』
角川ONEテーマ21刊
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この東郷和彦氏の指摘のように、2010年に入ると、日ロ関
係には暗雲が立ち込めるのです。いやなことが次々と起こり、遂
に2010年11月にメドページェフ大統領は、国後島をはじめ
て訪れたのです。ロシアは決断したのです。「四島のロシア化を
進める」──そして、2012年に再びプーチン氏が大統領に復
帰したのです。プーチン氏は早速領土交渉を柔道に喩えて「はじ
め!」と呼び掛けています。 ── [日本の領土/26]
≪画像および関連情報≫
●面積等分論に反対の理由/吹浦忠正の新・徒然草
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毎日新聞が2007年2月26日付で、北方領土の「2島+
α」返還論の岩下明裕・北大教授が当面「沈黙」を決断した
理由について次のような解説記事を掲載している。北方領土
問題の議論で昨年来、今までの4島一括返還論や2島先行返
還論とは違う「2島+α」返還論が目立っている。火付け役
とみられるのが岩下明裕北海道大教授(ロシア外交)の『北
方領土問題』(中公新書)だ。だが、当の岩下教授は東京・
日本記者クラブで開いた15日の講演を最後に、北方領土関
連の公での発言を少し控えるという。この講演を前に、岩下
教授は「学者がすべき問題提起は十分にした。あとは実務家
が団結して、ロシアとの交渉にあたるべきだ」と話してくれ
た。岩下教授の考えは「フィフティ・フィフティ」論ともい
われる。たとえば、面積最大の択捉島以外の3島を返還させ
るなど、日露双方の国としてのメンツ、国益、地元や旧島民
の利益などを考量した上で、「島を分け合う」政治決断で問
題を解決するものだ。(最後まで読む)
http://blog.canpan.info/fukiura/archive/1592
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麻生元首相/メドベージェフ元大統領


