ソンという青年です。ハリウッドのドル箱スターであるキアヌ・
リーブスが演じています。
最初にお断りしておきたいのですが、映画の内容を話してしま
うと、いわゆる「ネタバレ」といって、映画を観るとき面白くな
くなるといって嫌がる人がいます。
しかし、この映画は、ちょっとした「ネタバレ」をしても内容
がつまらなくなるほど、薄っぺらな映画ではなく、最初にある程
度事情を知っていた方がはるかに面白いし、楽しめると思うので
あえて必要最小限のことをお話ししておきます。
トーマス・アンダーソンは、昼はメタコーテックス社というコ
ンピュータ・ソフトの大会社に勤めるプログラマーですが、夜は
「ネオ」という名のハッカーとして知られているのです。そのた
め、どうしても夜が遅くなるので、遅刻ばかりして上司から叱ら
れています。
そのアンダーソンは、最近起きているのに夢を見ているような
感覚にとらわれています。夢と現実の境がつかなくなっているの
です。それに彼のPCのディスプレイには、モーフィアスという
人物から奇妙なメッセージが届くようになっています。
ある夜、居眠りをしていたネオは、ふと目を覚ますと、次のよ
うなメッセージがPCの画面上に表示されたのです。
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「起きろ、ネオ」
「マトリックスが見ている」
「白うさぎの後について行け」
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そして続いて「トントン」というメッセージが画面上にあらわ
れたとたんに、ネオの部屋の扉がノックされます。恐る恐る扉を
開けると、チョイという男が女友達と一緒に立っていたのです。
チョイからは、ハッキングを依頼されており、そのデータを受け
取りにきたのです。
チョイは、約束の2000ドルを渡してデータを受け取ったと
き、次のようにいうのです。
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「やったぜ。助かるぜ。あんたは救世主だ」
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この「救世主」ということばには実に深い意味があるのです。
「救世主」といえば、イエス・キリスト――まさしくネオは、こ
の映画では、キリストの役回りをすることになるのです。彼こそ
は人類を救う「救世主」と目されるのです。
もうひとつ、ネオをキリストになぞらえると、この映画の登場
人物が聖書の人物と重なってくるのです。これは、この作品にキ
リスト教的テーマがあることの証拠といえます。これについては
後から詳しく述べることになると思います。
話を映画に戻します。データを受け取ったチョイは、ネオに飲
みに行かないかと誘います。ネオは「明日仕事があるから・・」
といったんは断りますが、そのときチョイの女友達の左の腕に白
うさぎのタットウを見つけてチョイと一緒に行くことを承知する
のです。PCの画面のメッセージ「白うさぎの後について行け」
を思い出したからです。
そして、チョイと一緒に行ったバーで、ネオはトリニティーと
いう女性に会うのです。トリニティーは、国税庁のコンピュータ
に侵入してデータを盗み出したという伝説のハッカーとしてその
世界では有名な人物とされています。このトリニティーは、この
映画のもう一人の主役であり、キャリー=アン・モスという女優
が演じています。
ネオは、このトリニティーから「身に危険が迫っている」と忠
告を受けます。何のことかわからず、不安になるネオ。その危険
は、次の日、やはり遅刻をして上司に退職を勧告されたその日に
現実のものとなるのです。
さて、「白うさぎの後について行け」で思い出すのは、ルイス
・キャロルの『不思議な国のアリス』です。私は、学生時代にこ
の作品にかなり凝ったことがあるのです。これは、現実と非現実
という2つの世界に基づいて物語が展開されているのですが、こ
れは『マトリックス』と酷似しています。
『不思議な国のアリス』において、主人公のアリスは、白うさ
ぎが時計を見ながらある穴に入るのを見て、それを追っかけて行
くところから始まるのですが、『マトリックス』でもネオは、白
うさぎのタットウの女性と一緒にあるバーに行き、そこでトリニ
ティーと会っています。明らかに『マトリックス』の原作者は、
『不思議の国のアリス』に影響されていることは明らかであると
思います。また、『オズの魔法使い』にも非常に似ているところ
があります。
さて、勤務先でネオは、黒ずくめのスーツ姿のエージェントに
襲われ、捕まってしまうのですが、トリニティーに救出され、モ
ーフィアスと会うことになります。このモーフィアス――預言者
のことばを信じ、救世主を救うことに人生を捧げている男であり
この映画の三人目の主役なのです。個性豊かな俳優ローレンス・
フィッシュバーンが演じています。
このネオとトリニティーとモーフィアス――その関係は、トリ
ニティーの名前に由来しています。この「トリニティー」という
名前はキリスト教の「父なる神・子なる神・聖霊は『三位一体』
の精神」――3つのものがひとつに心を合わせることに由来して
いるのです。そういえば、小泉政権も『三位一体改革』を唱えて
いますが、その『三位一体』もここから出ています。
一応、中心的な登場人物が3人揃ったようです。ネオとトリニ
ティーとモーフィアス――この3人を中心として、この映画は展
開されていくのです。この映画は、ネオ――すなわち、アンダー
ソンがプログラマーなので、この3人以外の登場人物には、コン
ピュータ関係用語が多く使われています。
