2012年10月03日

●「パネッタ米国防長官の無言の威嚇」(EJ第3399号)

 尖閣問題について、クリントン米国務長官も、パネッタ米国防
長官も「日米安保条約」の対象になると明言しています。それで
いて「領土紛争には米国は介入しない」ともいっているのです。
 これはちょっと考えると、矛盾しているようですが、これには
いくつかの理由があって、そういわざるを得ないのです。まず、
世界には40以上の領土問題があって、なかには米国の同盟国が
関わっているのも少なくないのです。
 したがって、世界の警察を自負する米国がいちいち首を突っ込
めないという事情があります。しかし、そうはいうものの、米国
にとって尖閣諸島が中国に占領されるようなことがあると、東シ
ナ海の覇権に関わる重大事であり、日本はもちろんのこと、米国
にとっても絶対に看過できる問題ではないのです。
 口とは裏腹の行動をしたのはパネッタ米国防長官です。パネッ
タ長官は、2012年9月17日に来日して玄葉外相と会談し、
すぐ北京を訪問、習近平国家副主席と会談を行っています。
 そのとき、習近平氏は、尖閣問題について次のように発言し、
米国の介入を暗に牽制したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本国内の一部勢力は誤りを繰り返し、(尖閣諸島の)島購
 入という茶番を演出した。     ──習近平国家副主席
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対し、パネッタ長官は「尖閣諸島にも日米安保条約が適
用される」と米国の立場を表明しています。しかし、21日のA
SEAN博覧会の席で、習副主席は尖閣とはいっていないものの
領有権の問題について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 隣国との領土、領海、海洋権益の争いは、友好的な交渉を通
 じて平和的に解決する。      ──習近平国家副主席
―――――――――――――――――――――――――――――
 習副主席の発言は、明らかにトーンダウンしています。一体何
があったのでしょうか。
 実はパネッタ米国防長官は「尖閣問題は日米安保条約の対象で
ある」と発言しただけでなく、米軍に対し、ある特殊訓練を行わ
せていたのです。
 会談後の9月20日午後、沖縄県の米軍嘉手納基地に配備中の
F─22戦闘機5機が、1000ポンド(450キロ)の大型爆
弾を2発ずつ搭載して飛び立っているのです。F─22が実弾を
搭載して離陸するのは、F─22が嘉手納に到着した2007年
以降初めてのことです。
 この爆弾には「MK83ジェイダム」というGPSを使用する
精密誘導装置が後部に付けられており、目標をピンポイントで爆
撃できるのです。ステルス性に秀でたF─22に搭載すれば、1
万数千キロメートルもの超高々度すら敵部隊を隠密裏に攻撃でき
るので、尖閣有事でも威力を発揮できます。
 パネッタ長官の中国に対する強烈なサインが効いたのか、会談
後暴徒化していた北京市内の数千人のデモ参加者は、ピタリと鳴
りをひそめ、習副主席のあの発言になったのです。圧倒的な戦力
を持つ国の外交は、このようにして行われるのです。
 尖閣諸島は米国にとっても重要地域にあり、ここを本気で狙う
国に対しては、米軍として厳しく対処するというのが米国の本音
なのです。軍事評論家の岡部いさく氏は、これに関して次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 9月にグアム近海で行われた(島嶼防衛のための)日米太平洋
 軍の統合演習に関する海兵隊のウェブサイトには、「われわれ
 はこの地域におけるいかなる紛争にも対処する」とある。この
 地域とは「尖閣海域を含む西太平洋」のこと。米軍の備えは確
 実に進められている。尖閣を巡る動きは、新たな「ステージ」
 に進みつつある。      ──「週刊新潮」10月4日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 昨今の竹島、尖閣をめぐるトラブルは、元来「国境」という観
念が希薄な日本人にとって非常に「良いクスリ」になったと思わ
れます。なぜ、国境という観念が希薄なのかというと、それは日
本が島国であるからです。国境には次の2つがあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.自然国境
           2.人工国境
―――――――――――――――――――――――――――――
 「自然国境」というのは、海や山などの自然環境の中でごく自
然に国境が確立されるケースをいうのです。日本は四方が海に囲
まれており、自然に国境が出来上がっているので、自然国境とい
うことになります。このような自然国境の場合は、国境というも
のをどうしても意識しなくなるのです。
 これに対して人工国境は、政治的、軍事的、経済的、歴史的に
区分けされている国境のことです。人工国境の場合は、戦争など
によって、特定の地域の国の帰属が変わることがあるのです。ノ
ンフィクション作家の保阪正康氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 人工国境の悲劇について、私たちは近代日本の道筋ではまった
 く体験していなかった。とにかく戦争そのものが結果的に勝利
 という形で推移することになったために、領土について、とく
 に国境についてはきわめて無頓着なままに過ごすことができた
 のであった。この人工国境と自然国境のもっとも大きな相違点
 は、国境の線引きを視覚で確かめることができるか否かという
 点にあった。視覚で確かめる人工国境の国民がもつ領土の意識
 と、視覚で確かめることのできない国民の領土観との間には、
 当然ながら発想の違いによる理解そのものの違いも生まれてく
 る。    ──保阪正康著/「歴史でたどる領土問題の真実
         /中韓露にどこまで言えるのか」/朝日新書
―――――――――――――――――――――――――――――
                 ── [日本の領土/03]

≪画像および関連情報≫
 ●F─22に実弾装備/県内で初搭載飛行
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【嘉手納】米軍嘉手納飛行場で9月20日午後3時半ごろ、
  6ヵ月の予定で米軍嘉手納基地に配備されているステルス戦
  闘機F22Aラプター5機が千ポンド爆弾10発を搭載し離
  陸するのが確認された。19日にも爆弾を搭載し離陸するの
  が確認されている。F22が嘉手納に暫定配備された200
  7年以降、沖縄で実弾を搭載して飛行するのは初めてとみら
  れる。20日午後に搭載した実弾は1000ポンド(約45
  3キロ)爆弾MK83ジェイダム。戦闘機からの操作なしに
  目標を攻撃できる誘導爆弾の一つ。各機に2発ずつ搭載され
  て離陸し、午後5時半ごろまでに帰還した。F22は爆弾を
  機体内部に格納することから、爆弾を投下したかは、着陸時
  に目視で確認できていない。F22は低酸素症に似た症状を
  訴える操縦士が相次いだため一時運用を停止した。操縦士が
  着用するベストの不具合が主な原因とされ、改善策を施した
  として12年5月に飛行高度などを制限して運用を再開。7
  月末に嘉手納に12機が暫定配備された。
   http://blogs.yahoo.co.jp/aki_setura2003/30113818.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

パネッタ/習近平会談.jpg
パネッタ/習近平会談
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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