2012年10月02日

●「現在の日本領土はいつ決まったか」(EJ第3398号)

 「領土」というのは何でしょうか。日本人は領土について、き
わめて抽象的な概念しか持っていないように思います。どちらか
というと、領土についてあまり敏感ではないのです。
 領土とは、一国の統治権(主権)の及ぶ空間的領域のことであ
り、領水、領海、領空を含むもの──一般的に、領土はこのよう
に定義されています。「領水」というのは、海以外の水域のこと
で、「領海」と区別しています。全体を含めたものを領域──国
家と称しているのです。
 現実的に考えた場合、現在の日本の領土は、1951年(昭和
26年)に締結されたサンフランシスコ平和条約によって、国際
的に決められているのです。
 第2次世界大戦終戦時点で、日本が明治維新以降に何回かの戦
争で獲得した支配地域があったのですが、サンフランシスコ平和
条約では、それらの支配地域の領有権の放棄が求められ、日本は
それにしたがっているのです。
 したがって、現在の日本の領土とは、サンフランシスコ平和条
約で放棄を求められた以外の領域ということになります。そのと
き、放棄を求められた地域のなかに、竹島も北方領土も尖閣諸島
も入っていないのです。したがって、これらを含めてすべて日本
の領土ということになります。
 とくに尖閣諸島は、サンフランシスコ平和条約第二章第三条に
より、日本国の領土として米国に信託統治されていたのです。そ
の第三条を次に示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【第三条】日本国は、北緯二九度以南の南西諸島(琉球諸島及
 び大乗諸島を含む)、嬬婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西
 之島及び火山列島を含む)並びに沖ノ鳥島及び南島島を合衆国
 を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国
 際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。このよう
 な提案が行われ且つ可決されるまで、合衆国は、領水を含むこ
 れらの諸島の領域及び住民に対して、行政、立法及び司法上の
 権力の全部及び一部を行使する権利を有するものとする。
      ──山田吉彦著/『日本の国境』/新潮新書107
―――――――――――――――――――――――――――――
 それなら、文句なしに北方領土も竹島も尖閣も日本の領土じゃ
ないかと考えるかもしれないが、そうなっていないところが複雑
なのです。サンフランシスコ平和条約は、48ヵ国の代表が条約
に調印しているのですが、ソ連も韓国も中国もサンフランシスコ
平和条約の締結国ではないからです。
 もっと正確にいうと、ソ連は会議には出席しましたが、調印を
拒み、中国(中華民国)は招待されていないのです。インドは参
加を拒否しているのです。
 占領からサンフランシスコ平和条約締結までは6年間あるので
すが、その6年間は日本にとって、もっとも苦難の時代であった
のです。日本は1945年に敗戦を受け入れ、マッカーサー元帥
指揮による米軍の占領時代に入ったのです。そのときのことをN
HKの土曜ドラマで吉田茂首相を中心に描いています。10月6
日が最終回(全5回)です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    『負けて、勝つ〜戦後を創った男・吉田茂〜』
    土曜日/21時〜/NHK土曜ドラマ──5回
―――――――――――――――――――――――――――――
 マッカーサー元帥が解任された5ヵ月後の1951年9月8日
──この日、サンフランシスコ平和条約と日米安保条約が締結さ
れています。元防衛大学教授・孫崎亨氏は、この2つの条約──
サンフランシスコ平和条約と日米安保条約の調印に関しての秘話
を自著『戦後史の正体』/創元社刊で書いています。非常に興味
深いので、ぜひご一読をお勧めします。日米関係を考えるとき、
知っておくべきことであると思います。
 さて、現在日本にとって問題になっている北方領土、竹島、尖
閣諸島の領有権が日本のものであることが決まったサンフランシ
スコ平和条約に、ソ連(ロシア)、韓国、中国が参加していない
という事実──これが紛争の原因のひとつとしてあるということ
を日本人は十分認識しておくべきです。
 そういう事情もあって、日本政府は国民にすらこれらの島の領
有権について詳しい情報を提供していないのです。そのため、日
本人にとって、自国の領土に関する認識がきわめて希薄になって
いることは由々しき問題です。明らかに、当の相手国であるロシ
ア、韓国、中国に比べて、日本人は領土や主権に関する考え方が
甘いのです。領土で紛争を繰り返していくと、戦争になるという
ことがピンときていないのです。最近の出来事でいうと、橋下大
阪市長の竹島に関する次の発言があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (韓国の)実効支配を武力でひっくり返すのは無理です。どう
 やって(韓日)共同管理に持ち込むかという路線にかじを切ら
 なければいけない。           ──橋下大阪市長
―――――――――――――――――――――――――――――
 これについて、京都大学大学院教授の藤井聡氏は、怒りをもっ
て次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそも領土問題の本質は管理や資源といった「損得の問題」
 では断じてない。それは、日本国民としての「誇りや倫理の問
 題」だ。例えて言うなら「山賊にさらわれた妻を取り戻すか否
 か」という問題が、究極的には「損得の問題」ではなく「誇り
 や倫理の問題」であることと全く同じだ。妻を山賊と共に「共
 同管理」するやからは人ではなく、畜生といっていい。まっと
 うな大局観・倫理観を主軸としながら、あらゆる戦略を取り続
 ける不屈の精神力が「政治家」に求められる資質だ。
     ──藤井聡氏/2012.9.29付、日刊ゲンダイ
―――――――――――――――――――――――――――――
                 ── [日本の領土/02]

≪画像および関連情報≫
 ●竹島に関する橋下大阪市長発言/「越えてはならぬ一線」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  橋下大阪市長がいくら現実主義者であると称えられようが、
  言っていいことと悪いことの道理くらいは弁える分別があっ
  てしかるべきである。今回の橋下大阪市長の発言は日本人の
  一線を越えたのである。おそらく、「日本維新の会」が政権
  の一翼を担えば、国会で「無理が通れば道理が引っ込む」と
  いう悪しき風土が出来上がるだろう。ここ最近、外交では一
  線を越える出来事が数々起こっている。イスラム諸国では、
  米国で製作された映像が、イスラム教を冒涜する内容だった
  ことが明らかになり、越えてはいけない一線を越えたのであ
  る。日本では、韓国の李大統領が日本国民統合の象徴である
  天皇陛下を侮辱する発言をしたことにより、越えてはいけな
  い一線を越えたのである。中国では、日本の野田総理が胡主
  席の発言を無視して国有化したことでメンツを潰したことに
  より、越えてはいけない一線を越えたのである。これら全て
  がそれぞれの国民の尊厳を守る戦いとなっている。特に、外
  交交渉においてその国における尊厳を土足で踏みにじる行為
  を行えば、その国の国民から大変なしっぺ返しをくらうので
  ある。しかし今回、同じ日本人であるはずの橋下大阪市長が
  日本人の尊厳を踏みにじりこれまでの日本の歴史を否定する
  発言をしたのである。
     http://ameblo.jp/shimarny/entry-11362943555.html
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「負けて勝つ/吉田茂を演ずる渡辺謙」.jpg
「負けて勝つ/吉田 茂を演ずる渡辺 謙」
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の領土 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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