2012年07月31日

●「大阪維新の会設立の要因を探る」(EJ第3354号)

 2008年1月27日投開票の大阪府知事選で橋下徹氏は、自
民党大阪府連の「推薦」と公明党大阪府本部の「支持」を受けて
183万2857票を獲得して当選しています。民主・社民・国
民新党の「推薦」を受けた熊谷貞俊氏には、80万票以上の大差
を付けての勝利です。
 しかし、府議会は橋下知事(当時)に対して協力的ではなかっ
たのです。2009年2月24日の府議会の施政方針演説で、橋
下知事はWTCへの府庁舎移転を訴えたのです。この移転を可能
にするためには、次の2つを可決させる必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.府庁舎を他の場所に移設するための条例案
    2.        WTCを買い取る予算案
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記「1」に関しては、出席者の3分の2以上、「2」に関し
ては過半数が賛成する必要があるのです。これはかなり高いハー
ドルであるといえます。
 もっとも府議会側の反対意見のなかには、感情的なものばかり
ではなかったのです。WTCは、防災対策や交通アクセス、テク
ノポート計画(WTC周辺の開発計画)の頓挫などの多くの問題
を抱えていたのです。ある府議会議員は、WTCの問題点につい
て、次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 WTCビルは南港の埋立地にある。もし、阪神淡路大震災のよ
 うな巨大地震がふたたび起これば、あの一帯は液状化現象に見
 舞われ、WTCビルだって傾くかもしれない。しかし、大阪府
 警や国の出先機関と連絡を取ろうにも一般道や高速道路をクル
 マは走れないだろうし、電車も不通になる。湾岸からどうやっ
 て、大阪の中心に向かうのか。──吉富有治著『橋下徹改革者
   か壊し屋か大阪都構想のゆくえ』/中公新書ラクレ380
―――――――――――――――――――――――――――――
 この指摘は実は当っていたのです。この発言は、2009年2
月時点のものであり、あの東日本大震災は起きていなかったから
です。実際に、2011年3月11日にWTCビルで、大阪だっ
たにもかかわらず、大きな問題が発生したのですが、これについ
て改めて述べます。
 橋下知事は、水面下でベテラン議員に会って会食したり、酒席
を共にしたりして、移転への賛成を求めたのです。そして、20
09年3月24日、庁舎移転条例案とWTC買い取りの予算案の
採決が行われたのです。
 結果は否決です。庁舎移転条例案は、112名の出席者のうち
賛成46、反対65で否決され、予算案も過半数に届かなかった
のです。橋下知事の完全敗北です。
 この日、橋下知事が発信したツイートは次のようなものだった
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 府民が選んだ府議と、府民が選んだ知事による結論の責任は
 府民にある。                ──橋下徹
          ──『橋下語録』/産経新聞大阪社会部
―――――――――――――――――――――――――――――
 この結果を受けて、平松邦夫大阪市長(当時)は、WTC再建
をあきらめると発表し、WTCは既に述べたように会社更生法の
適用を申請したのです。
 しかし、橋下知事はまったくあきらめていなかったのです。そ
して、2009年9月の府議会で、前回とまったく同じ内容の条
例案と予算案の提案を行ったのです。その採決は同年10月27
日に行われ、次の結果になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  府庁舎を他の場所に移設するための条例案 ・・ 否決
          WTCを買い取る予算案 ・・ 可決
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによって、庁舎の移転は否決されたものの、WTCの買い
取りは実現することになったのです。2010年3月、WTCを
大阪府へ85億円で売却する内容を含む更生計画案に大阪市議会
が同意したことを受け、大阪府議会はWTC購入費や移転費の支
出を認める予算案を可決し、WTCの売買契約が締結されたので
す。そして、同年6月1日付けで、WTCは所有権が大阪府に移
転され、「大阪府咲州庁舎」に改称されたのです。
 確かにWTCは、近代的設備を備えているインテリジェントビ
ルであり、85億円は格安の買物といえます。しかし、その一方
で、府庁舎の移転は認めないのでは、大阪府庁の老朽化問題は何
も解決しないので、矛盾しています。府議会には「橋下には勝手
なことはさせない」という雰囲気があるので、こういう結果が出
たものと思われます。そして府議会は、橋下知事が庁舎移転案の
条例を三度出してくることを警戒し、次のようにいって知事を牽
制したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 知事が3度目の条例案を提案すれば、議会軽視以外のなにも
 のでもない。            ──大阪府議会有志
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対して橋下知事は強気だったのです。「知事室と議会以
外はすべて移転する」と発言し、咲州庁舎を実質的な府庁舎とす
ると宣言しています。しかし、2010年度秋の府議会には、条
例案の提案を見送っています。
 しかし、このように府議会が抵抗するのをみて、橋下知事とし
ては危機感を感じたのです。そこで府議会のなかでも知事の提案
に賛成する議員も多くいることから、そういう賛成勢力をまとめ
る必要があると橋下知事は感じたのです。今考えると、これが大
阪維新の会ができるきっかけになったのです。
                ―── [橋下徹研究/16]


≪画像および関連情報≫
 ●WTC移転問題についての意見/上山信一氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  現在の大阪府庁舎は老朽化が激しく耐震性にも問題がある。
  優秀な若い人は現庁舎で働きたいとは思わないだろう。財政
  状況が厳しい中、庁舎問題の解決にはWTC移転が一番合理
  的だ。安上がりで素晴らしいビルがあるのに、今が良いとい
  うのはアナクロニズム(時代錯誤)に過ぎない。移転条例案
  が否決された3月に比べ、今回は大阪市がWTCのある咲洲
  (さきしま)のエリア開発やアクセス改善により協力的な姿
  勢を示しており、府市連携を象徴するプロジェクトになる可
  能性が出てきた。政治は今やシングル・イシュー・ポリティ
  クス(単一課題の政治)の時代だ。小泉純一郎元首相は郵政
  民営化で、県レベルでは嘉田由紀子・滋賀県知事が東海道新
  幹線の新駅建設中止問題を掲げたように、今の政治は象徴的
  なテーマを示すことで、改革の方向性が決まる。橋下知事も
  大阪が抱えるテーマの象徴である庁舎移転で、リーダーシッ
  プを示せばよい。この政治手法は普段は選挙に無関心な層の
  票を掘り起こす力がある。4年前の郵政選挙がまさにそうだ
  った。大阪府の場合も府民がWTCへの移転を支持すれば、
  11年4月の府議選に何らかの影響を与える可能性があるの
  ではないか。
           http://www.actiblog.com/ueyama/109836
  ―――――――――――――――――――――――――――

吉富有治氏の本.jpg
吉富 有治氏の本
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 橋下徹研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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