そろそろしめくくり──今後ユーロはどうなるのか、それが世界
とくに日本にはどういう影響を与えるのかについて今回から書い
ていきます。
6月28日と29日にブリュッセルで行われたEU・ユーロ首
脳会議では、予想していたよりも大きな成果が得られ、金融市場
は株高で反応したのです。どこが大きな成果だったかというと、
重要なポイントは次の3点です。
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1.銀行監督権限をECBに一元化する方針を決定
2.銀行の救済ではESMは直接資本を注入できる
3.ESMは南欧国債の買い入れに柔軟に対応する
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ドイツは、スペインの銀行への資本注入のさい、EFSFから
の直接注入を許さず、スペインへの融資のかたちにこだわったの
です。なぜなら、EFSFから直接注入すると、それが成功しな
かった場合、スペインではなく、EFSFの責任になってしまう
──つまり、共同責任になるからです。
しかし、スペイン政府に融資する方法では、スペインの政府負
債が増加することと、タイミングが遅れる恐れがあるのです。そ
こで、銀行の監督権限をECBに一元化して、タイミング遅れに
ならないようにしようというわけです。これは、ユーロ圏の銀行
を一元的に監督することを意味しており、銀行同盟と呼ばれるこ
とについては既に述べた通りです。
さらに、7月に新しく発足するESMの資金を使って、南欧諸
国の国債を買い入れすることを可能にすることについても話し合
われ、合意に達したのです。
これらのことについて、ドイツのメルケル首相が反対するのは
必至なので、フランスのオランド首相は、イタリアのモンティ首
相と共同戦線を張ったのです。ところが、時間はかかったものの
メルケル首相は意外にも柔軟に対応し、上記の3つのことについ
ては合意が得られたのです。しかし、ユーロ共同債については、
ドイツは絶対反対の姿勢を貫いています。
今回のユーロ圏首脳会議が大きな成果のうちに終わったのは、
ジャン・クロード・ユンケル氏の働きが大きいといわれます。ユ
ンケル氏はルクセンブルク首相兼国庫相で、2005年からユー
ロ圏財務相会合議長を務めています。まだ57歳ですが、通貨統
合の青写真を描いた「ウェルナー報告」の製作者、ウェルナー・
ルクセンブルグ首相の下で社会保障担当の大臣を務めており、ユ
ーロとの関わりでは最古参の政治家です。
ユンケル氏は、ユーロのこれまでの危機対応を「スピード感に
欠ける」と反省しており、今回はそこに一番の重点を置いて会議
を運営しています。ユンケル議長は、G20の会議などの場で、
米国をはじめとする世界各国から、ユーロの債務危機の対応のま
ずさに批判が集中したことを悩んでいたといわれます。
ユンケル議長は、事前にイタリアとスペイン首脳と話し合い、
短期の成果が上がる対策が不可欠であることを会議で主張させた
のです。実際にイタリアのモンティ首相とスペインのラホイ首相
は、次のように述べているのです。
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短期の対策を決めないなら、成長・雇用協定にサインしない
──イタリア・モンティ首相/スペイン・ラホイ首相
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イタリアとスペインを固めたうえで、ユンケル議長はドイツの
メルケル首相と会談し、説得したものと思われます。政治という
ものは、こういう根回しを重ねて政策が実現するものなのです。
日本の野田政権は、そういう根回しを「談合」と称して軽蔑し、
やろうとしないのです。それでいて自民党や公明党とは談合して
消費税を決めています。自民党との段取りをしたのは、官房長官
をはじめ野田側近ではなく、財務省なのです。少しはユンケル議
長を見習ってほしいものです。
このユンケル議長の努力によって、ESMからの直接資本注入
が決まっています。さらにEFSFやESMからの拠出金は「優
先返済」の対象から外すという決定をしています。これは市場の
反応を十分に考えた決定なのです。
今までEFSFやESMからの拠出金は、もしその国がデフォ
ルトした場合、他の民間債権者よりも優先して返済を受けること
ができるようになっており、市場の反感を買っていたのですが、
今回はそれを外しています。
今回のユーロ圏首脳会議は、ファンロンパイEU大統領が提案
した報告書について討議することになっていたのですが、次の2
つのことが注目されたのです。
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1. ユーロ圏財務省構想
2.ユーロ圏共同債の発行構想
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「ユーロ圏財務省構想」は、もともとトリシェ前ECB総裁が
提唱し、ジョージ・ソロス氏もその必要性を訴えていますが、ユ
ンケル議長は「たとえ共同の財務省ができても、機能しないだろ
う」と導入に消極的な発言をしています。
「ユーロ圏共同債の発行構想」についてユンケル議長はこのよ
うに発言しています。
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ユーロ圏共同債が2〜3年で実現するとは誰も思っていない。
財政統合を経た長期の案として提唱したものである。メルケル
首相は敗者でもないし、他の首脳が勝者でもない。
──ユーロ圏財務相会合ユンケル議長
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―── [欧州危機と日本/63]
≪画像および関連情報≫
●共同債発行は財政統合の最終段階に/欧州委員長が見解
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[ブリュッセル 26日 ロイター]ユーロ圏は、財政同盟
に向けた最終段階として、中期的に財務省を創設し、共同債
を発行する可能性がある。今週の欧州連合(EU)首脳会議
のために準備された報告書で明らかになった。ロイターが、
26日入手した報告書は、バローゾ欧州委員長、ファンロン
パイEU大統領、ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁、ユン
ケル・ユーログループ議長によって準備された。報告書では
「中期的な見通しとして、ユーロ圏共同債の発行は、財政同
盟の一要素として模索することが可能。それは、財政統合の
進捗状況次第である」と指摘。「共同債の導入に向けたステ
ップは、モラルハザードの回避、責任とコンプライアンスを
強化するための財政規律と競争力に関する強固な枠組みが実
施される場合に検討が可能」としている。さらに「共同債発
行に向けたプロセスは基準に基づき段階的であるべき」とす
る一方で、すべてのユーロ導入国でなく一部の国が共同で発
行することを想定した複数の選択肢もすでに提案されている
ことを指摘。共同債発行とともに「財政統合のさまざまな形
も検討され得る」としている。
http://www.newsweekjapan.jp/headlines/business/2012/06/76306.php
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ユンケル財務省会合議長


