国は次の方針を表明しています。
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欧州債務危機を克服するため、欧州統合を加速する
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そしてその第一歩として、6月28日からベルギーのブリュッ
セルで開くEU首脳会議で、金融行政を一元化する「銀行同盟」
の導入案を討議することを明らかにしたのです。
「銀行同盟」とは何でしょうか。
結論からいうならば、銀行同盟とは域内の主要金融機関約30
社の監督機能を域内各国から欧州中央銀行であるECBに移管す
ることです。これは銀行の監督権限という国家主権をEUに渡す
ことを意味しており、もし実現すれば確かに欧州統合が大きく前
進するはずです。
米国第4位の投資銀行リーマンブラザーズの破綻は、世界的な
金融危機を発生させ、世界中の多数の銀行が破綻したのですが、
EUでもリーマンショックに続く2008年9月に銀行4行が破
綻しています。
これは、金融監督機関の常時監視、危機予防、危機管理の機能
が、金融・国際金融の現実から遅れてしまい、適切な対応ができ
なかった結果なのです。
ユーロの制度はこういう金融危機を想定しておらず、ECBは
平時の権限しか与えられていないのです。危険時の権限は、ユー
ロ各国が握る「母国監督主義」に立っているのです。
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≪平 時の権限≫
1.通貨供給権限
2.金融政策権限
≪危機時の権限≫
1. 金融機関の監督権限
2.金融機関への緊急財政支援
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母国監督主義にはいろいろ問題があるのです。ある国、たとえ
ばフランスの銀行が、ユーロ圏各国に銀行支店を展開したとしま
しょう。フランスから見て、これらの国外に所在する多数の支店
はフランスの金融当局が監督することになります。
しかし、銀行の子会社については進出先の国の法人になるので
進出先の国の監督当局が監督します。ところが、銀行の外国支店
であっても、その流動性(通貨量など)については、進出先の国
の当局が監視・監督することになっているのです。どうしてかと
いうと、流動性は、受け入れ国の金融安定に少なからざる影響を
与えるからです。
また、母国監督主義では、外国に展開した支店が損失を出した
場合、その銀行の本社が支援し、それでもカバーできないときは
母国政府が支援することが合意されています。
このように、母国監督主義は、複数の国の当局が絡むので、制
度が複雑であり、調整が困難であって、実のある監視や監督が困
難なのです。とくに複数の国にまたがる多国籍銀行の場合は、支
店展開をしている各国の当局が一緒に監督する方法が採用された
ことがあります。これを「監督カレッジ」と呼んでいます。
2008年9月末に破綻したベルギー・オランダ資本の金融大
手の多国籍銀行フォルティスは、ベルルクス3国にまたがってお
り、その3国の金融当局が組織した監督カレッジでは対応に失敗
しています。タイムリーに機能せず、破綻した後の3国の対応も
バラバラだったのです。
このことを教訓に出てきたのが「銀行同盟」、すなわち、域内
金融機関の監督機能をECBなどに移管して金融行政を一元化す
る案なのです。
しかし、この考え方は、今までにも何回も出てきており、その
つど立ち消えになっているのです。
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金融機関の監督権限をEUに委譲して、「EU金融監督庁」を
創設することも考えられる。だがEU加盟国はそのような構想
をこれまで拒否してきた。「EU金融監督庁」ができると、各
国の監督当局の担当官は職を失うであろう。多国籍となる「金
融監督庁」の監督能力に対して不信をもつ国もあった。ペリフ
ェリ(周辺)諸国はブリュッセル(EUの本部)に権限が集中
すると、大国本位の制度になり、自国の意図が通りにくくなる
のではないかと警戒した。また「金融立国」のイギリスは原則
的に一切の権限委譲に反対であった。ユーロ導入後に「EU金
融監督庁」がEU内で話題になったこともあったが、イギリス
やドイツの反対によっていつも話は立ち消えになった。
──田中素香著、『ユーロ/危機の中の統一通貨』/岩波新書
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ユーロ圏の中心国であるドイツとフランスは、ユーロを最終的
には一つの国のようにしようと考えています。通貨統合はその第
一歩に過ぎないのです。しかし、なかなかうまくいかない。そこ
で、それを補完するため銀行同盟を実現させ、続いて金融行政の
一元化として財政統合を進めようとしています。
ドイツのメルケル首相は、独ARDテレビとのインタビューで
次のように述べています。「二つの異なる速度で進む欧州連合」
とは何を意味しているのでしょうか。
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ドイツは二つの異なる速度で進む欧州連合を支持する。われわ
れには通貨統合だけでなく、いわゆる財政統合、いい換えれば
予算政策の強化が必要だ。そして何より必要なのは政治的統合
である。 ──メルケルドイツ首相
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―── [欧州危機と日本/58]
≪画像および関連情報≫
●銀行同盟/議論本格化/時事ドットコムより
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【ルクセンブルク時事】欧州連合(EU)は6月22日、ル
クセンブルクで財務相理事会を開き、金融監督の一元化など
を目指す「銀行同盟」構想の議論を本格化させた。第1弾と
して、域内銀行の破綻処理にEU共通の枠組みを設ける法案
の審議に着手。6月28、29の両日のEU首脳会議は、構
想実現に向けたロードマップ(行程表)策定で合意する見込
みだ。財務相理事会では、株や債券などの取引に課税する金
融取引税(FTT)導入も議論。英国などが断固反対で、議
長国デンマークは全27加盟国での実現が困難なことを確認
した。EUの共通政策は全加盟国での実施が原則だが、9ヶ
以上が集まれば「先行統合」に踏み切ることも可能。FTT
支持のフランスなどは、この仕組みを使って見切り発車を目
指している。(2012/06/22-22:59)
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田中 素香著「ユーロ」/岩波新書



「危険がいっぱい」「穴だらけの銀行同盟」という章が続きます。その時にご参照いただければ幸いです。