る「健全財政」の内容を再現します。
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1.財政赤字がGDP比3%以下である
2.政府債務残高60%以下であること
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問題はこの基準がどのぐらい守られているかということです。
そういうことはあまりニュースにならないので、ドイツやフラン
スなどは、ゆうゆうクリアしていると思ってしまいます。
1997年当時EUの加盟国は15ヶ国だったのです。欧州問
題を考えるとき、必要なので国名を出しておきます。
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ドイツ オランダ オーストリア
フランス アイルランド ギリシャ
ベルギー スペイン イギリス
イタリア ポルトガル デンマーク
ルクセンブルグ フィンランド スウェーデン
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なぜ、1997年なのかというと、この時点の「健全財政」の
達成度によってEUとしては、ユーロ導入国を決める予定だった
からです。EU15ヶ国にとって、ユーロ圏に入れるかどうかは
「絶対に沈まない超大型船」に乗れるかどうかであり、中心国の
ドイツやフランスにとっては、その船の「操舵室」に入れるかど
うかを決める重要な年であったのです。
しかし、イギリスとデンマークとスウェーデンの3国は、通貨
統合に参加する義務を負わない「オプトアウト」を選択しており
不参加の意思を表明していたのです。
ところで、1997年の段階で「健全財政」の1を達成してい
たのは、EU15ヶ国中14ヶ国、ギリシャだけが未達だったの
です。しかし2に関しては、ほとんどの国が基準をクリアできて
いなかったのです。
1に関しては単年度の赤字であるので、何とか調整することは
可能なのですが、2に関しては累計残高であり、そう簡単には解
消できなかったのです。ユーロ導入国で1997年の段階で2を
クリアしていたのはわずか3国──フィンランド、ルクセンブル
グ、フランスであり、ドイツ、イタリア、ベルギーはクリアして
いなかったのです。しかし、EUとしては、これら3国をユーロ
圏に入れない選択肢はなく、基準未達を無視したのです。
しかし、それぞれの国は、「健全財政」の基準を達成するため
に相当の無理をしているのです。この各国の基準クリアの内幕を
国際金融アナリストの坂田豊光氏は次のように述べています。
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財政赤字削減に当たって、公共事業の凍結、社会保障費の削減
公務員給与の削減には大きな違和感を覚えないし、むしろ当然
のことであろう。しかしながら、次のような手段は度を越して
いる。フランスは、フランス・テレコム社の年金支払債務を一
部引き受ける代わりに、同社の民営化収入の一部を国家に組み
込んだ。ベルギーは中央銀行が外貨準備として保有していた金
の売却収入を政府収入とした。そしてイタリアは、1年限りの
「ヨーロッパ税」という増税を実施した。当然のことながら、
一時凌ぎのやり繰りは続かない。小国のベルギーは財政収支の
改善を続けたが、ユーロ圏第2位と第3位の経済規模を誇る仏
伊にとって財政を根本的に変えることは容易くなかった。
──坂田豊光著/NHKブックス刊
『ドル・円・ユーロの正体/市場心理と通貨の興亡』
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実際問題として「健全財政」の2(政府債務残高が60%以下
であること)をクリアすることは経済規模の大きい国ほど困難な
のです。
添付ファイルをご覧ください。これはユーロ導入後の2000
年から2010年までのドイツとフランスとユーロ圏の政府債務
残高を棒グラフであらわしたものです。それを見ると、ユーロ導
入13年を経過した現在でもGDP比で60%以下に収まった年
はないのです。
そこでEUでは基準2については甘く扱い、基準1に絞って改
善を求めることにしたのです。EUでは、ユーロ導入国に対し、
過度の財政赤字国──対GDP比3%以上の財政赤字国に対して
は是正措置を求めることができます。もし、是正勧告に従わない
場合、制裁措置も設けられていますが、過去に制裁措置がとられ
たことはなく、制裁は形骸化しているのです。
EUのこういう雰囲気のなかで、ギリシャの経済収斂基準数値
の改竄が行われたのです。EUは何としてもユーロを1999年
に発足させるためにかなり無理をしています。それが現在の欧州
危機につながっているのです。坂田豊光氏は、そんなEUについ
て次のように述べています。
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EUはユーロ導入を焦り過ぎた。ユーロ導入のための経済収斂
条件の重要項目である財政収支に関して、フランス、イタリア
ベルギーは策を弄し、EUは公的債務残高について、多くの国
に寛大であり過ぎた。通貨統合(ユーロ誕生)までの過程では
経済政策で独善的であり過ぎたドイツは、ユーロ圏の重要な時
期に「安定成長協定」の運用においても独善的であった。(中
略)歴史的かつ壮大な試みである通貨統合を真の成功に導く以
前に、EUはユーロ圏財政危機に直面し喘いでいる。その要因
は、深化よりも拡大を優先させたEU自らの姿勢と、それに煽
られた加盟各国の焦りにある。国際通貨制度創出の範になると
も日されたユーロだが、その価値は大きく失われた。
──坂田豊光著の前掲書より
――――――――――――― ―── [欧州危機と日本/56]
≪画像および関連情報≫
●EUの安定・成長協定について
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安定・成長協定とは、欧州連合の加盟国にとってまとめられ
た、欧州連合の経済通貨同盟を促進、維持していくための財
政政策の運営に関する合意。安定・成長協定は欧州連合の機
能に関する条約の第121条および第126条ならびに関連
する決定に根拠を有するものである。安定・成長協定では欧
州委員会および欧州連合理事会によって加盟国の財政を監視
することが定められており、違反国に対しては警告を発し、
改善が見られない場合には制裁措置を実行することもうたわ
れている。安定・成長協定は柔軟性に欠けており、毎年度で
一律に適用するのではなく景気循環に適応させる必要がある
という批判がある。このような批判を展開する立場では、景
気低迷時に政府の財政支出を制限することで経済成長が阻害
されるのではないかという懸念を持っている。ただこの立場
とはまったく反対の批判もあり、安定・成長協定が柔軟すぎ
るという考え方もある。 ──ウィキペディア
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ドイツ・フランス・ユーロ圏の公的債務残高対GDP比


