2012年06月18日

●「国際金融のトリレンマとは何か」(EJ第3324号)

 ユーロという同一通貨制度を理解するには、「国際金融のトリ
レンマ」について理解しておく必要があります。
 国際金融のトリレンマとは、次の3つの政策を同時に実現でき
ないという法則です。同時に実現できるのは2つまでです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.固定相場制もしくは管理フロート制
      2.独立した金融政策=金利政策の自由
      3.国境を越えた資本移動の完全な自由
―――――――――――――――――――――――――――――
 「固定相場制」とは、各国政府間で為替レートを固定・維持す
る制度です。かつて日本がドルとの間で「1ドル=360円」を
固定・維持していましたが、これが「固定相場制」です。
 管理フロートとは、スネークやEMSのように上下一定の幅以
内に為替レートをコントロールすることで、これも固定相場制の
なかに入ります。この場合、資本の移動を規制し、固定相場にな
るようにする必要があります。
 「独立した金融政策」(monetary policy) とは、中央銀行が
行う金融面からの経済政策のことで、財政政策と並ぶ経済政策の
柱です。金融政策の最終的な目的は経済を持続的に拡大させるこ
とにありますが、インフレーションと失業とを天秤にかけて、失
業者が増えても物価の安定に重きを置いてインフレを抑制すべき
と考えるか、インフレーションが起きても雇用確保を優先すべき
とするかは、中央銀行の政策に対する考え方で決まります。
 「資本移動の完全な自由」とは、資本移動に制約のないことを
いいます。資本移動に制限がなければ、国際的な貯蓄の過不足は
調整され、その結果、資本不足の国は経済開発が促進され、資本
余剰国には投資収益をもたらすことになります。国際金融の時代
には、不可欠な政策です。
 多くの国では、2と3を守るため、やむなく1を捨てているの
です。しかし、ユーロ圏の国と中国はそうではないのです。ユー
ロ圏のことは後で述べるとして、中国について述べます。
 中国は、政府が資本収支を完全に管理し、かつ為替も完全に管
理したいと考えているので、現在のところ1のみを選択し、2と
3を放棄したかたちになっています。これでは、中国は国際商取
引の枠組みのなかに完全に入り込むことはできず、国際社会での
取引に支障が出てきてしまうのです。そうすると、3を確保せざ
るを得なくなります。
 すなわち、1と3を確保して2を捨てる戦略です、しかし、2
を放棄していると、インフレなどに対処できなくなり、結局は1
を捨てて、2と3を確保するようになるはずです。これで中国は
他の先進国と同じになるはずです。
 もう少し詳しく考えましょう。
 話をわかりやすくするために、1の「固定相場制」と3の「資
本移動の完全な自由」が成立しているA、B2つの国について考
えることにします。
 このときA国はインフレを抑制するために金利を6%に上げた
のです。これに対してB国は景気を浮揚するために3%の低金利
政策をとったのです。この場合、何が起きるでしょうか。
 まず、はっきりしていることはA国の金利が6%であれば、B
国の銀行は自国の企業に融資はしないということです。自国では
金利は3%であるのに対してA国の金利は倍の6%であるからで
す。資本をA国に移動させれば6%の収益を得られるのです。ま
してA国とB国は「固定相場制」であり、為替リスクを心配する
必要がないのです。
 このような「固定相場制」と「資本移動の完全な自由」が成立
している環境下では、金利は経済規模の大きな方の金融政策に収
斂してしまいます。
 ここで考え方を変えて「固定相場制」と「独立した金融政策」
の両方が成立するためにはどうすればよいか考えてみます。
 結論からいうと、「資本移動の完全な自由」を規制すればよい
のです。なぜなら、金利の収斂が起きるのは、資本移動があるた
めだからです。したがって、これを規制すれば、自国内のみに資
金は還流することになります。
 結局、最後には「固定相場制」を捨てて変動相場制を採用し、
金利裁定行動にリスクを負わせることで調整します。そして「独
立した金融政策」と「資本移動の完全な自由」を確保することに
なります。
 外資を規制し、他国との資本移動を制限している国であれば、
「固定相場制」を維持しながら、「独立した金融政策」も確保で
きるのです。戦後の日本がそうです。日本はニクソンショックと
その後の混乱で変動相場制に移行し、資本移動を自由化していま
す。これが高度成長を支え、経済的な発展を続けたのです。
 ユーロのケースを考えてみましょう。ユーロは「固定相場制」
(管理フロート制)を維持しながら、「資本移動の完全な自由」
は確保しています。しかし、「独立した金融政策」はなく、EC
Bに委譲し、事実上放棄しているのです。国際金融のトリレンマ
が働いているからです。
 国際金融のトリレンマの状態をユーロ圏、日本/米国、中国に
ついてまとめると次のようになります。国際金融のトリレンマは
不連続な経済の三角形と呼ばれることもあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
       固定相場制 資本移動の自由 独立した金融政策
  ユーロ圏     ○       ○        ×
 日本・米国     ×       ○        ○
    中国     ○       ×        ○
             ──坂田豊光著/NHKブックス刊
     『ドル・円・ユーロの正体/市場心理と通貨の興亡』
―――――――――――――――――――――――――――――
              ―── [欧州危機と日本/53]


≪画像および関連情報≫
 ●国際金融のトリレンマ論の陥穽/細居俊明氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  問題を指摘する前に確認しておきたいことは、トリレンマを
  構成する3つの政策目標の同時成立が不可能であることと、
  3つのうち2つまでは両立可能であるということとは別問題
  だということ、ところがトリレンマ論は、3項の同時成立の
  不可能と同時に、2項の両立可能性を主張している、つまり
  政策課題の1つを排除すれば残る2つは成立可能ということ
  を主張しているのである。トリレンマ論の問題はここにかか
  わる。問題は3項の同時成立が不可能だという主張にではな
  く、3項のうち1つを排除すれば残る2項が両立可能だとい
  う認識にある。ところが1つを排除しても両立しがたい2項
  がある。資本移動の自由と金融政策の独立性である。自由な
  資本移動を排除すれば、固定相場と独自な金融政策の両立が
  可能であること、独自な金融政策を放棄したとえば通貨同盟
  を選択すれば固定相場と自由な資本移動も両立可能である。
  こうした関係に問題はない、問題は、固定相場を放棄すれば
  自由な資本移動と金融政策の独立性が両立可能だという点に
  ある。
  http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/kokusai/pdf/hosoifull.pdf
  ●添付ファイル出典
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/~iwamoto/lecture2010/kokukin20106.pdf
  ―――――――――――――――――――――――――――

国際金融のトリレンマ.jpg
国際金融のトリレンマ
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州危機 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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