2012年06月13日

●「3本柱はどのように1本化されたか」(EJ第3321号)

 昨日のEJで、EUの3本柱は現在2本柱になっていると述べ
ましたが、その話から今日のEJは入ります。3本柱を再現して
おきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.      超国家的共同体
       2.  共通外交・安全保障政策
       3.司法・内政分野における協力
―――――――――――――――――――――――――――――
 このなかの第1の柱である「超国家的共同体」は、ECそのも
の(単数/European Community)なのです。3本柱全体を統合す
るのは、1993年11月まではEC(複数)であり、それ以降
はマーストリヒト条約に基づき、EU(欧州連合)と呼ばれるよ
うになったのですが、そうかといって、単数のECがなくなった
わけではないのです。
 3本の柱のメカニズムを理解するために、国際テロに対抗する
ため、EUとして経済制裁措置を出すケースを考えてみます。こ
れは安全保障の問題ですから、経済制裁は第2の柱で基本方針が
決定され、それに基づき、具体的な措置を発動する権限が第1の
柱であるECに与えられるのです。これを少し厳密にいうと、次
のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 第2の柱の分野において「共通の立場」ないし「共通の行動」
 が採択され(EU条約第14条、第15条)、それに基づき、
 第1の柱の分野において具体策が講じられる(EC条約第60
 条及び第301条参照)
           http://eu-info.jp/law/tr-san-un4.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 1997年になると、マーストリヒト条約やローマ条約などの
EUの基本条約に大幅な変更を加えたアムステルダム条約が調印
されます。発効は1999年5月です。ローマ条約というのは、
1957年3月に調印されたEUの2つの条約──欧州経済共同
体設立条約と欧州原子力共同体設立条約のことです。これらは、
ベルギー、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、西
ドイツによって調印されたものです。
 アムステルダム条約は、域内における人の移動の自由や移民政
策をECの管轄領域に取り込んでおり、また、国境規制撤廃に関
するシェンゲン協定(後述)とその制度をEUの枠組の中に取り
入れる旨を定めているのです。
 このアムステルダム条約によって、第3の柱である「司法・内
政分野における協力」の管轄の一部が第1の柱に移され、その結
果として、第3の柱は、「刑事分野における警察・司法協力」に
限定されることになったのです。
 1985年6月に「シェンゲン協定」がEC加盟5ヶ国──西
ドイツ、フランス、ベネルクス3国で、締結されたのです。これ
は、国境検査の撤廃について定めた国際条約であり、これが第1
の柱に組み入れられたのです。
 シェンゲンというのは、ルクセンブルグの地名であり、モーゼ
ル川をわたる船上で協定がまとめられたので、シェンゲン協定の
名前があるのです。ちなみにモーゼル川は、フランス、ルクセン
ブルグ、ドイツを流れる全長544キロの国際河川です。
 2007年12月にEUの基本条約を修正するリスボン条約が
締結されたのです。リスボンのジェロニモス修道院において、加
盟国の代表らによって署名されたので、その名前があります。発
効は、2009年12月からです。
 このリスボン条約によって、EUの3本柱は廃止され、一本化
されています。これによってECははじめて廃止されたのです。
しかし、一本化というのは、第2と第3の柱を第1の柱に組み入
れることを意味するのですが、実際的には、次の2本柱になった
といえるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   第1の柱/超国家的組織/  域内政策・域外政策
   第2の柱/政府間の協力/共通外交・安全保障政策
     http://eu-info.jp/law/lisbon-treaty-eu.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 このようなECからEUまでの動きのなかで、英国はどのよう
な位置を占めようとしているのでしょうか。
 英国といえば、世界の金融センターであるシテイを擁している
国です。したがって、英国がEMUに加盟すれば、ユーロが国際
通貨としてのドルに近づくことになるのですが、英国は積極的で
はないのです。それだけではなく、ユーロへの参加のハードルを
上げているのです。
 そのハードルのひとつとして、「5つの経済テスト」がありま
す。内容は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪英国の「加盟の可否を判断する5つテスト」≫
 1.英国民やほかの人々が恒久的に、ユーロの単一金利体系の
   下、問題なく暮らせるとみなせるだけ、景気循環、経済行
   動の両面で英国経済は欧州のそれと同一化しているか
 2.何か問題が起きた場合、英国自身で対処するため十分な柔
   軟性は存在するか
 3.英国国内へ投資することを考えている企業にとって、良好
   な条件がもたらされるか。
 4.EMU加盟は英国金融業、なかんずくシテイのホールセー
   ル市場の競争力にとってどんなインパクトをもたらすか
 5.要するに、加盟によって成長が促され、経済は安定し、ま
   た雇用は永続的に増えて行くといえるかどうか
             ──谷口智彦著/日本経済新聞社刊
       『通貨燃ゆ/円・元・ドル・ユーロの同時代史』
―――――――――――――――── [欧州危機と日本/50]


≪画像および関連情報≫
 ●「小林恭子の英国・メディア・ウオッチ」より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  イギリスがユーロを導入するには、5つの経済テストに合格
  すること、という条件を政府はつけたが、どう見るか。これ
  を単純に「経済テスト」と見れば、議論の肝心な部分を見落
  とすと思う。ユーロ圏への参加は、純粋な経済問題ではない
  からだ。5つの経済テスト自体もおかしい。テスト全体は、
  「ユーロ導入が、イギリスの経済に恩恵をもたらすかどうか
  ?」を聞いていることになるが、例えば、テストのうちの一
  つが、金融界への影響だ。何故製造業では駄目なのか?外国
  企業の投資もテストの1つだが、ユーロに入っていようがい
  まいが、投資には関係ないという説もある。全ては政治的決
  断にかかっている。経済ではない。政治的に環境が整えば、
  ユーロ参加もありうると思う。政治的統合に対する国民の反
  感が強いイギリスでは、ユーロ導入は経済でなく政治的決断
  だという真実を言わない方が政治家にとっては都合が良いか
  ら、誰も何も言わない。メディアも、こうした文脈からはあ
  まり報道しない。   http://ukmedia.exblog.jp/427062/
  ―――――――――――――――――――――――――――

シェンゲン・モニュメント.jpg
シェンゲン・モニュメント
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州危機 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。