2012年06月06日

●「ユーロ主軸国の財政規律順守の状況」(EJ第3316号)

 ユーロ圏の中心国ドイツは、2つの世界大戦の敗戦国であり、
とくに第1次世界大戦後にハイパーインフレを経験しているので
す。その影響を受けてドイツの中央銀行であるブンデスバンクは
引き締め的金融政策を堅持する金融政策に強いこだわりを持って
います。つまり、インフレファイターというか、インフレ・タカ
派の中央銀行なのです。
 このドイツの独善的ともいえる経済財政に関する考え方は、次
のEUの財政規律に明確に反映されています。これは「安定成長
協定」の財政規律です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.   財政赤字を対GDP比3%以下に収める
   2.公的債務残高を対GDP比60%以下に収める
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、中心国であるドイツとフランスがこの財政規律をきち
んと守っているかどうかです。
 実は2002年から、ドイツとフランスの財政赤字は急速に悪
化していったのです。数字を上げておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
              ドイツ   フランス
     2002年   3.7 %   3.8 %
     2003年   4.0 %   4.1 %
     2004年   3.3 %   3.6 %
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドイツは、2002年11月19日、閣僚委員会から財政赤字
を削減するよう勧告を受けて削減努力を行っています。しかし、
2003年には財政赤字はさらに悪化し、2004年には多少
改善したものの、3.0 %をクリアできなかったのです。
 安定成長協定によれば、勧告しても状況が改善しないときは制
裁が発動されることになっていたのですが、ドイツはその対象に
ならなかったのです。
 制裁は一定の金額を「無利子積立」をさせられ、さらに2年経
過後もクリアできない場合は、その積立金を全額没収されるとい
う内容です。しかし、ドイツは制裁対象にならないばかりか、当
時のドイツのアイヒェル蔵相は次のように述べて、何ら恥じるこ
とがなかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドイツは赤字削減に努力を払ってきた国であり、そうした国
 に対して協定に基づいて自動的に制裁を発動すべきではない
                     ──坂田豊光著
        『ドル・円・ユーロの正体』/NHK出版刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 一方数値としてはドイツ以上に悪いフランスは、シラク大統領
が、安定成長協定の制裁発動については柔軟な対応が必要といい
制裁を拒否したのです。ドイツとともにユーロの主軸国でありな
がら、フランスのこの対応には大きな問題があります。
 なぜなら、ドイツにしてもフランスにしても、制裁を受け入れ
ることよりも「欧州委員会に自国の経済政策について指図された
くない」というプライドが見えるからです。
 こういう状況があったにもかかわらず、今回の新財政条約にお
いて、財政赤字をGDP比3%以内に収めるとする財政規律違反
の制裁の「準自動化」をドイツとフランスが主導して決めている
のです。要するに3%以下に収められないときは、自動的に制裁
が発動されるという内容です。
 自らが制裁の対象になるときは「制裁の適用には柔軟な対応」
を求めながら、優位に立っているときは、有無をいわせず、制裁
の自動化を求めるというドイツやフランスの姿勢はあまりにも身
勝手過ぎると思います。
 なお、ここでいう制裁の「準自動化」について、庄司克宏慶応
義塾大学教授は次のように解説しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 通常、欧州委員会がユーロ圏加盟国を対象に制裁へ至る勧告を
 する場合、ユーロ圏加盟国の持ち票総数の約75%の賛成票を
 必要とする「特定多数決」で決定される。そのため、制裁は自
 動的ではない。そこで、ユーロ圏加盟国である締約国は欧州委
 員会の勧告に賛成することを確約している。このようにして勧
 告は常に採択されることになるので、制裁の自動化は一応確保
 される。ただし、ユーロ圏の財政条約締約国が持ち票総数の約
 75%を逆に反対票として投じて「逆特定多数決」により否決
 するときは、制裁対象から除外されるという例外措置があり、
 「全自動化」ではない点には注意を要する。
             ──慶応義塾大学教授/庄司克宏氏
 「財政条約で加盟国二分も」/2012年4月5日/経済教室
―――――――――――――――――――――――――――――
 「安定成長協定」の「安定」はドイツが目指す「物価安定」を
意味しています。ドイツは経済成長よりも物価安定を目指す国な
のです。一方「成長」はフランスの目指す「経済成長」を意味し
ており、その両方を取り入れて「安定成長」としたのです。
 今回のギリシャの総選挙やフランス大統領選挙、それにアイル
ランドの国民投票において、ドイツが主導するの独善的な緊縮政
策の強要は、きわめて評判がよくないのです。
 それはドイツ国内においても同様なのです。5月13日に行わ
れたドイツ最大の人口を持つ西部ノルトライン・ウェストファー
レン州の議会選ではメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(C
DU)が同州で過去最悪の大敗を喫したのです。この選挙は来年
秋の連邦議会(下院)総選挙の行方を占う前哨戦と位置付けられ
欧州債務危機対応を主導するメルケル首相にとって大きな打撃に
なりそうです。
 それに加えて「ドイツはユーロにおいて第2次世界大戦の復讐
をしている」という声もあるのです。 [欧州危機と日本/45]


≪画像および関連情報≫
 ●メルケル与党、過去最悪の大敗 独最大州議選/産経新聞
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  【ベルリン=宮下日出男】ドイツ最大の人口を持つ西部ノル
  トライン・ウェストファーレン州の議会選が5月13日行わ
  れ、即日開票の結果、メルケル首相率いるキリスト教民主同
  盟(CDU)が同州で過去最悪の大敗を喫した。州議会選は
  来年秋の連邦議会(下院)総選挙の行方を占う前哨戦と位置
  付けられ、欧州債務危機対応を主導するメルケル首相にとり
  大きな打撃となりそうだ。独メディアが報じた中間集計によ
  ると、国政で最大野党の社会民主党(SPD)が39・1%
  で第1党となる見通し。CDUは26・3%で、2010年
  の前回選挙を8ポイント超下回り、同州では過去最悪の得票
  率。同州ではSPDと90年連合・緑の党が少数連立政権を
  組んでいたが、3月、予算関連法案の否決を受け議会が解散
  された。選挙の結果、両党が議会多数派を形成し、連立政権
  を維持する見通し。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/europe/561890/
  ―――――――――――――――――――――――――――

アンゲラ・メルケル独首相.jpg
アンゲラ・メルケル独首相
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州危機 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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