2012年06月05日

●「ユーロの本質はMADである」(EJ第3315号)

 ギリシャのユーロ離脱が現実のものとなりつつあります。しか
し、ユーロに関する法体系の中に「出口」は用意されていないの
です。これは、法体系の不備というよりも別の意図があるという
人がいます。元外務省外務副報道官の谷口智彦氏です。谷口氏は
ユーロの本質について次のように述べています。
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   ユーロの本質は「MAD」(相互確証破壊)である
       MAD=(Mutual Assured Destruction)
          ──谷口智彦著/日本経済新聞社刊
    『通貨燃ゆ/円・元・ドル・ユーロの同時代史』
―――――――――――――――――――――――――――――
 MADというのは、冷戦下の核抑止理論を意味します。米ソの
冷戦時代、仮に米国がソ連によって核ミサイルの第一撃で、首都
機能を破壊されたとします。しかし、北極海深く潜航する原子力
潜水艦からの第二撃でモスクワを同様に破壊することができるの
です。このように相互の破壊が確証的であることから、核は使え
ない兵器になったのです。これがMADです。
 ユーロに関する法体系においては、ユーロを採用した国──と
くに中心の大国がどうすれば脱退できるのかについて何も定めて
いないのです。さらに追放条項もないので、不良会員を追い出す
こともままならないのです。
 現在、ユーロの中心国はドイツとフランスです。もし、このど
ちらかの国がユーロから離脱するとしたら、一体どのようなこと
が起きるでしょうか。
 もし、そんな噂が少しでも出たら、ユーロは国際通貨市場で投
げ売りされ、価値が暴落し、収拾がつかなくなります。そうする
と、ドルと円は超暴騰し、国際通貨システムのメルトダウンをき
たしかねないのです。したがって、ドイツとフランス相互の完全
な破壊が間違いなく起きるので、実際には実現できないのです。
谷口智彦氏は、だから「ユーロは冷戦下のMAD」のようなもの
であるというのです。
 谷口氏は、平和条約にも「出口」はないといいます、そして、
「ユーロとはドイツとフランスを永遠に縛り付ける制度である」
とも述べています。足抜けできない制度なのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 平和条約にも、「出口」はない。当たり前だが、かくかくしか
 じかの場合において両当事国は再び交戦状態に入るということ
 を規定した条項は、平和条約において準備されない。平和条約
 が破られる場合とは、平時が終わる時であり、システムが道連
 れにされるときである。実はこの隠喩に、ユーロの登場した事
 情が語り尽くされている。結論を言うならばユーロとは、ドイ
 ツとフランスを永遠に縛り付ける制度である。独仏恒久和平条
 約体制──。それこそがユーロが体制としてもつ最も顕著な特
 徴だということは、何度強調してもしすぎることはない。
             ──谷口智彦著/日本経済新聞社刊
       『通貨燃ゆ/円・元・ドル・ユーロの同時代史』
―――――――――――――――――――――――――――――
 このことは、ユーロに規模と範囲のメリットを持たせるため欠
かせない存在とされた英国が現在においてもユーロに加盟しない
ことにも関係があるのです。
 国際エコノミストの長谷川慶太郎氏は、ヨーロッパというのは
英国の立場で見る場合とドイツの立場で見るのでは大きく違って
くるというのです。長谷川慶太郎氏と経済評論家の三橋貴明氏の
対話を読んでいただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 長谷川:イギリス人にとって最も尊敬すべき人物は、第二次世
     界大戦でイギリスがナチス・ドイツを相手にして闘っ
     た時の首相、ウィンストン・チャーチルです。現在の
     イギリスのキャメロン首相もあるインタビューでこう
     言っていました。「70年前を思い起こしていただき
     たい。そのときチャーチルは『ヒットラーには絶対に
     英仏海峡を渡らせない。私が許さない』と言った。私
     も同じことをメルケル首相に言いたい」。
 三 橋:ユーロには、絶対に英仏海峡を渡らせないということ
     ですか。
 長谷川:そうです。キャメロンはユーロがドイツのヘゲモニー
     の下に置かれていることも、またドイツを抜きにして
     ユーロを論じられないこともよく知っています。だか
     から、ドイツがイギリスに影響力を及ぼすことを許さ
     ない。これはイギリスにいると、きわめて常識的な普
     通の話なのです。  ──長谷川慶太郎/三橋貴明著
  『大恐慌終息へ!?日本と世界はこう激変する』/李白社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ドイツを中心にユーロを見ると、それはドイツのサク
セスストーリーそのものなのです。ヒットラーもドイツ帝国の宰
相ビスマルクもできなかったことをドイツはメルケル首相の下で
実現しているからです。したがって、ドイツの覇権下に入りたい
国はたくさんあるのです。
 ユーロに加盟することによって、主権が多少侵害されても、入
りたいと思っている国はたくさんあるのです。ところが、英国か
ら見ると、ユーロがドイツのヘゲモニーの下に置かれていること
に対して、拒否反応しか感じないのです。
 日本人は「あなたはアジア人か」といわれると、正しいのであ
るが少し違和感を感じます。同様に「イギリスはヨーロッパか」
と問われると、英国人には違和感があるそうです。英国人から見
ると、ヨーロッパとは、あくまで大欧州を指すもので、自分たち
を含むものではないと感じているようです。英国がユーロに入ろ
うとしないのはそういうところに原因があると考えられます。
               ── [欧州危機と日本/44]


≪画像および関連情報≫
 ●英国とヨーロッパの関係について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  英国保守党の論客でユーロ導入反対を年来掲げてきた下院議
  員のジョン・レッドウッドによれば、離婚と結婚を繰り返す
  ため自ら国教会を建てローマ教皇と断絶したヘンリー八世こ
  そは、初代「ユーロスケプティック」だったと言う。英国型
  民主主義において、政治の行政に対する優位には圧倒的なも
  のがある。これに対し欧州では、選挙民の統制が十分及ばな
  い密室の中、「ビューロクラット(官僚)」ならぬ「ユーロ
  クラット」が細かい規則をつくりつづけていると英国民の多
  くはとらえている。その結果として、英国の代議制民主主義
  が空洞化しかねないとする不信が英国にはある。いわゆる狂
  牛病を生んだ英国産牛肉を、欧州が買うかどうか。刑事犯に
  対する扱いは英国において他の欧州諸国より概して厳しいが
  この差をどうするのか。政治的・感情的に欧州と英国を分か
  つ溝は、いまだに深くて広い。
             ──谷口智彦著/日本経済新聞社刊
       『通貨燃ゆ/円・元・ドル・ユーロの同時代史』
  ―――――――――――――――――――――――――――

谷口智彦氏.jpg
谷口 智彦氏
posted by 平野 浩 at 02:55| Comment(0) | TrackBack(1) | 欧州危機 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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