政協定」へ参加するかどうかを問う国民投票が行われたのです。
その結果、賛成が60.3 %に達し、新条約を批准する手続きに
入ることになったのです。
この新財政協定は、ユーロ圏17ヶ国中12ヶ国の批准を経て
2013年1月に発効することになっています。これは2012
年3月にEU27ヶ国中25ヶ国が署名していますが、アイルラ
ンドは国民投票で参加を問うことにしたのです。
なぜなら、アイルランドの場合は、新条約の内容が憲法の規定
にかかわることと、参加反対を表明する国民が30%近くに達し
ていたため、ケニー首相は国民投票に踏み切ったのです。
アイルランドは、2008年のリーマンショックで不動産バブ
ルが崩壊し、巨額の不良債権を抱えた銀行を政府が支援したので
国の財政は急速に悪化したのです。そこで、2010年11月に
EUやIMFから総額で850億ユーロ(約8兆5000億円)
の支援を受け、再建に乗り出していたのです。
しかし、その支援は2013年で終了するものの、再建は道半
ばで、国民は厳しい緊縮財政にあえいでいたのです。3回にわた
る賃下げ、増税、福祉手当のカットなど、とても耐えられないと
不満を訴える国民が多数を占めるようになっていたのです。
新財政協定のポイントは、政府予算が均衡または黒字であるよ
う数値基準で義務づける「黄金律」をクリアすることです。毎年
の財政赤字のGDP比を次の一定範囲に内に収めることです。
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●政府債務のGDP比が60%以上
・毎年の財政赤字のGDP比0.5 %を超えない
●政府債務のGDP比が60%未満
・毎年の財政赤字のGDP比1.0 %を超えない
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2010年当時アイルランドは、財政赤字の対GDP比が30
%を超えていたのです。この数字がいかに大変かということを日
本を例にとって示すと、1年の財政赤字が150兆円に達するの
と同じだといったら、わかると思います。アイルランドはこれを
2011年には9.4 %にまで圧縮しているのです。
今回の新財政協定は、その内容がかなり厳しくなっています。
条約締結国に上記の黄金律数値に基づく中期財政目標を立てるこ
とを求め、それから大きく逸脱する場合、所定の期間内にそれを
是正する措置の実施を国内法、可能であれば憲法により施行する
義務を負うと定めているのです。もし、その対応を怠ったとEU
司法裁判所がみなせば、制裁金を課することも可能なのです。
これまで、新財政協定の批准には次の3つの不安要素があると
いわれてきたのです。
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1.フランス大統領選挙で、社会党のオランド候補が大統領
に就任する
2.新財政協定参加を問うアイルランドの国民投票で、反対
多数になる
3.オランダやフィンランドで反EU政党の勢力のため批准
が難航する
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1については、オランド氏がサルコジ氏を破って大統領に就任
しており、新財政協定の内容変更を求めています。これは今後の
波乱要素になります。
2については、上記で述べたように、かなりの大差で国民投票
は新財政協定順守ということで民意は示されており、批准はスム
ーズに行われると思われます。
3については、今後の波乱要素になると思われます。それにド
イツでも連邦議会と参議院のそれぞれで3分の2以上の多数決を
要するので、野党の支持が必要であり、これも波乱要素です。
これについて、慶応義塾大学教授/庄司克宏氏は、4月5日付
の日本経済新聞で次のように述べています。
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EUは基本条約の改正や政府間協定・国内法の組み合わせでは
なく、各国批准を要しないEU立法の改正で財政規律の強化を
打ち出すべきであった。経済・財政統合を進める手段である金
融取引税、法人税の調和、EU共同債などもEU立法で対応可
能である。今後、ユーロ圏の財政条約締約国が経済・財政統合
を進める中核となり、いずれは財政同盟や政治同盟に向かうこ
とが考えられる。そうした面ではユーロの安定に寄与する一方
で、締約国が経済・財政統合を先行して進めることは他の国々
にとってユーロ参加のハードルが上がることを意味する。
──慶応義塾大学教授/庄司克宏氏
「財政条約で加盟国二分も」/2012年4月5日/経済教室
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アイルランド国民にとって今回の新財政協定受け入れは、苦渋
の決断であったと思われます。なぜなら、もし受け入れなければ
EUがこの7月に作るESM(欧州安定メカニズム)の支援が受
けられなくなると警告されていたからです。
アイルランドの国民の本音は、次の主婦の発言に込められてい
ると思います。
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アイルランドは何百年も英国に支配された。やっと独立したの
に、ドイツに経済を乗っ取られてたまるか。
──主婦エトーン・ワトソン/2012年6月2日付朝日新聞
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アイルランドは、2001年と2008年にEUの基本条約を
いったん否決し、再投票で可決した経緯があるのです。不透明な
EUの政策決定に強い反発を内に秘めているのです。
── [欧州危機と日本/43]
≪画像および関連情報≫
●EU新財政協定、批准決定/アイルランド大差で承認
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【ダブリン共同】欧州連合(EU)加盟国に財政赤字の大幅
削減を義務付ける「新財政協定」批准の是非を問うアイルラ
ンドの国民投票は1日、開票の結果、賛成票が6割を超え大
差で承認し批准が決まった。債務危機の震源地ギリシャの政
局混乱やスペインの銀行救済をめぐる不安が高まる中、否決
されればさらに市場心理を悪化させる恐れがあっただけに、
ひとまずマーケットに安心感を与えた。ただ危機の深刻さは
増しており、市場への好影響は限定的とみられる。アイルラ
ンドのケニー首相は投票結果を受けて演説し「国民が経済的
な苦境の克服に真剣であることを示すものだ」と歓迎した。
──2012年6月2日付、東京新聞ウェブ
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アイルランド国民投票開票作業


