2012年05月23日

●「強引なギリシャの再建スキーム」(EJ第3306号)

 ギリシャをめぐる情勢が非常に複雑になっているので、少し整
理して先に進めることにします。
 2012年3月8日──ギリシャにとって重要な局面が訪れた
日です。債権者が約75%のカットに応じるか否かによって、無
秩序なデフォルトか、選択的デフォルトかが決まるという局面な
のです。債権額の4分の3をカットせよというのですから、無茶
苦茶な条件といえます。
 この75%のカットというのは、ギリシャ国債債務について元
本の53.5 %の削減と低クーポンの新ギリシャ国債に交換する
ことにより、結果として75%のカットができるのです。
 ギリシャ国債の総発行残高は3500億ユーロ、その約60%
の2060億ユーロ(20兆円)が海外の投資家が保有している
のですが、そのうち1770億ユーロ(18兆円)分について、
75%以上の投資家の自発的な合意による参加が必要であるとい
うのです。
 この合意に応じない場合は、ギリシャ政府は集団行動条項──
CACを発動するというのです。このCACが発動されると、強
制的に債権カットが行われるので、ギリシャは無秩序なデフォル
トに陥ることになります。
 無秩序なデフォルトになると、ギリシャのデフォルトに対して
かけられている巨額のCDSの支払い義務が生じますが、これに
よって一番困るのは、ギリシャ債のCDSを大量に売っていた米
国の金融機関なのです。つまり、2007年〜2008年のリー
マンショックのさいの、あのAIG破綻の再現が起きてしまう恐
れがあったのです。
 ギリシャ国債にからむCDSをたくさん売っていた米国の金融
機関とは、主としてゴールドマン・サックスとモルガンスタンレ
ーであり、日本では野村証券が大量に売っていたのです。これが
災いして野村証券は、ギリシャが選択的デフォルトになったあと
も格付け会社から大幅な格下げを食らっているのです。
 しかし、3月6日になっても債権カットに応ずる参加率は30
%程度に止まっており、8日までの75%以上の参加は絶望的と
思われたのです。しかし、3月8日には参加率は84%に達し、
CACは発動されず、ギリシャは無秩序のデフォルトにはならな
かったのです。
 そのウラには何があったのでしょうか。カギを握っていたのは
米系のヘッジファンド(シテイ系)だったのです。彼らはぎりぎ
りまで待って、3月6日にギリシャ政府との秘密交渉を行ったの
です。これは、副島隆彦氏の情報によるものですが、副島氏は次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (米系ヘッジファンドは)「自発的に債権カットに応じるから
 その見返りに」と、次の条件を受け入れさせた。ひとつは26
 %の国債保有分のうち、表の帳簿″に記載している4%分だ
 けはCDS契約の権利執行を認めること。これで自分たちだけ
 はCDSのバクチ保険金まで満額で手に入る。それ以外のギリ
 シャ国債22%の分は本籍地がケイマン島やバミューダ諸島の
 ようなタックスヘイブン(租税回避地)にあるものだ。まさし
 く裏帳簿″(ヒドン・ブック)での投資資金の運用である。
 どこの大銀行もこれをやっている。そして今や、米欧日の先進
 各国の政府(財務省)の会計もこの裏帳簿会計である。しこた
 ま赤字財政を抱え込んでいる。(中略)このオフシォアでの保
 有分については、EU当局が保有している米国債と「額面」で
 の評価でボロクズのギリシャ国債を交換することで交渉はまと
 まった。                 ──副島隆彦著
          『欧米日やらせの景気回復』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ひどい話です。もう後がない2日前に交渉して、非情な取引を
行っているのです。完全に弱みにつけこんだ交渉といえます。結
局CDSの支払いは、米系ヘッジファンドの4%については実施
され、他の96%のCDSの請求権利は、「75%の自主的な債
権カット」によって消滅させられたのです。
 ギリシャの再建計画にはまだ不可解なことがあるのです。それ
は、「ギリシャの負債を50%カットするとGDP比120%に
なるので、再建の道が開ける」というものだったのです。
 この再建計画のスキームのまとまったときのギリシャの負債は
対GDP比160%であったのです。それなら計算が合わなくな
ります。160%の負債を50%カットするのであれば、単純計
算では80%になるはずなのに、なぜ120%なのでしょうか。
 これは、ECBが保有するギリシャ国債については債権カット
をしないので、そういう計算になるのです。なぜかというと、E
CBはユーロ圏の資産を担保にユーロという紙幣を発行している
ので、ECBは損失を出せないという理屈です。
 しかし、今やECBはギリシャ国債を一番多く持っていること
になります。自ら購入しただけでも5兆円は完全に超えているの
です。さらに各国から担保で預かったものを含めると、おそらく
30%以上を保有していることになるはずです。
 そのギリシャ国債の最大の保有機関であるECBがいっさい債
権カットに応じていないのですから、ギリシャの負債は大きくは
減らないのです。「ECBには全額返済せよ。他の投資家は75
%カットだ」というのでは、あまりにも不公平というか、理不尽
な再建スキームであるといわれても仕方がないでしょう。
 ギリシャ国債保有者に対する75%カットの事実上の強制とC
DS契約の強制放棄──このようなことをしていると、ギリシャ
以外のユーロ国家に危機が起きたとき、投資家はギリシャのとき
のように債権カットを受け入れないと思います。それに支援の代
りに求められる過激な緊縮財政の強制には問題があります。今や
これらのすべてのことが、一直線にユーロ崩壊に向かって突き進
んでいるのです。       ── [欧州危機と日本/35]


≪画像および関連情報≫
 ●2012年2月3日時点のMSN産経ニュース
  ―――――――――――――――――――――――――――
  欧州債務危機の元凶であるギリシャの債務削減をめぐり、ギ
  リシャ政府と民間債権者の合意期限が週内に迫る中、民間債
  権者が保有するギリシャ国債を強制的にカットする案が浮上
  している。ヘッジファンドなどの債権者が削減の枠組みに参
  加せず、十分な遡源効果を得られない恐れが高まっているた
  めだ。強制カットに踏み切れば、欧州連合(EU)などから
  の第2次金融支援を受けられる。だが、実質的なデフォルト
  と認定され、イタリアやスペインなど他の重債務国でも同様
  の事態になるとの不安から国債が暴落し危機が深刻化する懸
  念もある。銀行などの民間債権者が保有するギリシャ国債は
  元本で計2000億ユーロ(約20兆円)に上る。EUは昨
  年10月、ギリシャへの1300億ユーロの2次支援の条件
  として、国債の元本を50%削減することで合意した。削減
  は価値の低い新たな国債と交換する方式で行うが、利率をめ
  ぐり交渉が難航している。ギリシャ政府が要請している4%
  以下の場合、削減率が70%超に達することに債権者が猛反
  発いているためだ。先月30日のEU首脳会議では、業を煮
  やしたファンロンパイEU大統領が「今週末までの合意を目
  指しあらゆる手段をとる」と、早期合意を要請した。これに
  対し、民間債権者の一部は「あくまで自主的な取り組みであ
  るべきだ」とし、削減の枠組みに参加しない意向を示してい
  る。このため、合意に達したとしても、財政再建に必要な削
  減規模に達しない可能性がある。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/120203/fnc12020301050001-n1.htm
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欧州情勢に詳しい副島隆彦氏.jpg
欧州情勢に詳しい副島 隆彦氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州危機 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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