立は、『魔笛』における「ザラストロ」と「夜の女王」との対立
と同じ構図であると考えることができます。
夜の女王は闇の世界だけを統治しており、彼女の配下の3人の
侍女は夜の女王の結社に入信した者とみなすことができます。し
かし、彼女たちの性では絶対に通過できない永遠に不完全な入信
式を受けたことになるのです。これは女性ロッジに入信した女性
と同じ立場であるといえます。
一方ザラストロは、「太陽の輪」を有し、神の殿堂を守ること
を使命としています。そして、自分たちこそが正規のロッジであ
るとして、闇の世界は認めないのです。闇の世界の存在は神の殿
堂を汚し、呪詛の雷鳴を招く根拠になっている――そう考えてい
るのです。夜の女王や3人の侍女がザラストロの神殿に近づくと
激しい雷鳴が轟くのはそのためです。
しかし、『魔笛』におけるパミーナの扱い方は、女性にとって
ひとつの救いをもたらすものとなっています。なぜなら、闇の世
界の住人であったパミーナは、その世界から拉致されたとはいえ
彼女の功徳により、必要な試練を乗り越えて、最終的には聖職者
の地位を得ているからです。
これは、女性ロッジに入会した女性であっても、男性ロッジに
入会した男性と同じように、ひとつずつ位階を乗り越えて最終的
に聖職者のポジションが得られる可能性を暗示しているものとし
て注目されるのです。
モーツァルトならびに『魔笛』の台本作家は、モプス結社――
代表的な女性ロッジを意識してオペラを作っていると考えられま
す。モプス結社は女性の入信者に対して固有の儀礼を行っていた
のです。この儀礼を象徴するものは、『魔笛』の第1幕の前半に
おいて多く見られるのです。それは次の3つです。
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1.3人の侍女たちの殺す蛇
2.パパゲーノが提供する鳥
3.秘密を厳守させる南京錠
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第1は「3人の侍女たちの殺す蛇」です。
聖書の「創世記」において、蛇は女性を誘惑するための小道具
として使われています。蛇はエヴァに近づき、神が禁じていたに
もかかわらず、善悪の知識の木の実を食べるよう唆したのです。
ジャック・シャイエは、モプス結社の入信式について、次のよ
うに述べています。
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女性の入信式には聖書の「誘惑」への暗示が満ち溢れている。
第1段階、すなわち「徒弟」位階へ加入するためには、未来の
「姉妹」は蛇の絵を手に握っていなければならない。次の位階
すなわち、「職人」位階では、彼女たちは、エデンの園の場面
を追体験し、「叡知」の果実である林檎を食べなければならな
い。この林檎は、真二つに割れていて、種が女性の数である五
角星を表わしている。
――ジャック・シャイエ著/高橋英郎・藤井康生訳
『魔笛/秘教オペラ』より。白水社刊
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第2は「パパゲーノが提供する鳥」です。
この場合、鳥は「軽薄さ」の象徴なのです。パパゲーノは自分
の食用に鳥を捕えているのではなく、夜の女王の命令によって鳥
を捕え、その鳥(軽薄さ)と引き換えに日々の食料と飲料を得て
暮らしているのです。このようなことでは、彼女たちが「完全な
知識」に近づくことはけっしてないのです。
第3は「秘密を厳守させる南京錠」です。
『魔笛』の第1幕の冒頭において、3人の侍女はパパゲーノが
蛇を殺したのは自分だとウソをついた罰として、口に南京錠をか
けて、喋らせないようにするシーンがあります。実は、この南京
錠もモプス結社の入信式に使われる道具なのです。
この南京錠は、モプス結社の職人の位階において、秘密を厳守
させるための小道具なのです。儀礼においては、次のように行わ
れるのです。
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導師は新会員を起き上がらせる。そして、先を聖なる槽の中に
ひたしておいた鏝(こて)をとって、彼女の唇に五度触れさせ
てから次のようにいう。「余が汝の唇にあてたものは、秘密厳
守の封印である。汝はやがてその封印に秘められた教訓を学ぶ
ことになろう」。
――ジャック・シャイエ著/高橋英郎・藤井康生訳
『魔笛/秘教オペラ』より。白水社刊
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夜の女王と3人の侍女をよく見ると、ヴェールで顔を隠してい
ます。これは、女性が完全な「知識」に近づくことがないことを
示しているのです。彼女たちの行動には制約があり、明らかに限
界があるのです。
タミーノとパパゲーノが夜の女王と3人の侍女から説得され、
その気になってザラストロの城に出かけようとする――そうする
と、3人の侍女は別れを告げて去って行こうとするシーンがあり
ます。タミーノはあわてて「道を教えてくれ」というと、侍女た
ちは3人の童子にその役割を譲って姿を消してしまいます。
これは、侍女たちにはその性――女性の制約によって、ザラス
トロの城への案内ができないのです。そこで男性の3人の童子に
その役割をバトンタッチしたのです。3人の童子は女性歌手が歌
うことが多いですが、通過儀礼としては3人の童子はあくまでも
男性であることが必要なのです。
このような観点から考えても、『魔笛』におけるパミーナの扱
いは異例であって、その後の女性ロッジの扱いについて重要なイ
ンパクトを与えたのです。 ・・・・ [モーツァルト35]
≪画像および関連情報≫
・3人の侍女と別れの場面
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タミーノ :おっと、美しいご婦人方、教えてください。
パパゲーノ:その城にはどう行くのですか。
3人の侍女:若く、美しく、やさしく、賢い3人の少年が、
あなた方の旅に見え隠れに付き合います。その
少年たちが案内してくれるでしょう。彼らの助
言に従えば、それで良いのです。
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