イタリアのマリオ・モンティ首相、それにギリシャのパパデモス
前首相が一緒になって、ヨーロッパの大銀行70行──とくにフ
ランスの3大銀行に大量のユーロ通貨を無制限に投入して、銀行
の救済を行っています。
金額としては公称1兆ユーロ(約100兆円)を投入していま
すが、副島隆彦氏の情報によると、本当はその10倍投入してい
るというのです。そしてこの「ドラギ・マジック」と呼ばれる膨
大な資金の投入によって、少なくともヨーロッパの銀行20行が
潰れずに救済されたのです。
どうしてそんなことをしたのでしょうか。それになぜ米国の財
務省がかかわっているのでしょうか。
それは、2012年3月8日を何とかクリアするためだったの
です。3月8日は、ギリシャが145億ユーロ(約1.5 兆円)
の国債の償還日であり、それによってギリシャがデフォルトする
かどうかの瀬戸際であったのです。
しかし、ヨーロッパの銀行は膨大なギリシャ国債を保有してお
り、もし、ギリシャ向けの第2次支援が行われないと、ギリシャ
は「無秩序のデフォルト」に陥ることが確実であり、相当の数の
ヨーロッパの銀行が潰れる恐れがあったのです。
問題は、ギリシャに対する第2次支援の条件なのです。この条
件は2月20日のユーロ圏財務相会合で決定されているのです。
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1.EUはIMFの協力の下に、1300億ユーロ(約13兆
円)を融資するが、ギリシャ政府は厳しい緊縮財政策の実
施を受け入れること
2.民間投資家向けのギリシャ国債務(2060億ユーロ)に
については、元本の53.5 %削減と低クーポンの新ギリ
シャ国債に交換する
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ギリシャ国債の総発行数は3500億ユーロであり、海外の民
間投資家(ヘッジファンドも含む)がその60%──2100億
ユーロ(約21兆円)を保有しているのです。
問題は上記2の条件です。「元本の53.5 %削減と低クーポ
ンの新ギリシャ国債に交換する」──これにより債権を75%カ
ットすることになるのですが、それに応じるかどうかです。これ
については、民間投資家とギリシャ財務省が債務削減交渉を続け
てきたのですが、その期限が2012年3月8日だったのです。
2012年3月5日、ギリシャのベニゼロス財務相は次のよう
に述べています。
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ギリシャは、約1000億ユーロ(約10兆円)規模の債務減
免につながる債券交換の提案に保有者が応じると考えているが
もし、必要ならば集団行動条項(CAC)を発動して参加を強
要する用意がある。 ──ギリシャベニゼロス財務相
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集団行動条項(CAC)とは何でしょうか。CAC──コレク
ティブ・アクション・クロウズについて、副島隆彦氏は次のよう
に述べています。
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この「集団行動条項」というのは、「集団訴訟(クラス・アク
ション」と同じ考えの制度である。たとえば、「たばこの健康
被害で、日本たばこを訴えるときに、何十万人もの被害者(告
訴人)をひとまとめにする」という考え方だ。福島原発事故で
東電を訴える住民たちの行動も、この集団訴訟となる。ところ
がこの制度には欠点もあって、「無理やり集団交渉に押し込め
られる」という悪い側面が出てくる。 ──副島隆彦著
『欧米日やらせの景気回復』/徳間書店刊
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この5日の時点でも、ギリシャ・ナショナル銀行、BNPパリ
バ、コメルツ銀行、ドイツ銀行は賛成していましたが、バーデン
・ブュルテンベルク州立銀行などは反対していたのです。そうい
う反対派に対し、ベニゼロス財務相は「CACを発動するぞ」と
脅しをかけたのです。そして8日が限度であるといったのです。
この発言の後の6日の時点でも債務再編交渉の参加率は、20
〜30%だったのです。もし、参加率が75%に達しないとCA
Cが発動され、ギリシャはクレジットイベント(信用事由)にな
るのです。この場合、倒産保険というべきCDSの決済が行われ
ることになります。
このベニゼロス財務相の強気の発言のバックには、ドラギEC
B総裁と米国がいるのです。6日の参加率を見て、世界中の金融
関係者の間で緊張が走ったのです。多くの銀行が潰れ、欧州発の
世界金融恐慌が現実味を帯びたからです。
これに関してISDA──国際スワップ・デリバティブ協会も
次のように危機感をあらわにしたのです。
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そうした事態になると、イタリアやスペインにも外部の支援が
必要な状況に追い込まれてしまう。ユーロ圏は崩壊しかねない
──ISDA/国際スワップ・デリバティブ協会
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2日間に何が行われたかはわかりませんが、EU当局が猛烈な
説得を行い、集団交渉への参加率は83.5 %に達して、CAC
は発動されなかったのです。3月8日、世界中の市場関係者は胸
をなでおろしたのです。債権の75%カットが行われ、ギリシャ
は無秩序のデフォルトにはならなかったのです。
しかし、ギリシャは事実上デフォルトに陥っていますが、CA
Cは発動されていないのです。この状態のことを「選択的デフォ
ルト」と呼んでいるのです。これによって、欧州危機はひとまず
遠のいたのです。 ── [欧州危機と日本/28]
≪画像および関連情報≫
●ギリシャ債務交換のCAC発動、信用事由に該当と認定
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【ニューヨーク 9日 ロイター】国際スワップデリバティ
ブ協会(ISDA)は9日、ギリシャ債務交換における集団
行動条項(CAC)発動はクレジットイベント(信用事由)
に該当すると認定し、CDS──クレジット・デフォルト・
スワップの支払いが発生するとの判断を示した。決定は全会
一致。清算価格は19日に入札方式で決定される。これに先
立ちギリシャ財務省は債務交換の参加率が85.8%になっ
たと発表。政府はCACを発動する意向を表明していた。C
ACが適用された場合、全体の参加率は95.7%に達する
とみられている。今回の信用事由認定に伴い、純ベースで最
大31億6000万ドル相当が支払い対象となる可能性があ
る。ただ債券保有者が元本を全額毀損(きそん)するわけで
はないことから、実際額は低くなる公算で、今後数週間かか
るとみられる手続きを通じて決定される予定。クレジットイ
ベントの認定は広く予想されていたことから、市場の反応は
限られた。ユーロは対ドルで小幅下落したほか、米債価格は
下げを縮小した。ギリシャのベニゼロス財務相はこの日、C
DSの発動をめぐるISDAの判断を懸念していないとの考
えを示していた。同相は議会で「CDSが発動されたとして
も、われわれは懸念していない。世界的に問題となる額は、
ネットで50億(ユーロ)以内だ」とし、「ギリシャおよび
欧州全体の経済にとり、極めてわずかな額にすぎない」と述
べた。 ──ロイター
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副島 隆彦氏の近著


