ツ経済は堅調で、経済財政のあらゆる数値は好調そのものです。
そこには、2005年当時の「欧州の病人」といわれたドイツの
面影はどこにもないのです。
しかし、ドイツは欧州危機の解決役として、前面に押し出され
ることに戸惑いを感じているのです。ギリシャでは、ドイツの求
める緊縮政策に反発して、アテネの街頭デモではナチスの制服を
着たメルケル首相の合成写真のプラカードがあらわれたのです。
また、ユーロ圏ではありませんが、英国でも同じようなことが起
きています。ドイツは歴史の重荷を負っているのです。
2005年当時のドイツの経済財政数値をご紹介しましょう。
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2005年当時
失業率 11.3 %
実質GDP成長率 0.7 %
輸出額 7862億ユーロ
財政赤字の対GDP比 3.3 %
ジニ係数 0.261
──2012年5月4日付、朝日新聞
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ジニ係数というのは、不平等さを客観的に分析・比較するさい
の代表的な指標の一つで、係数の範囲は0から1、係数の値が0
に近いほど格差が少ない状態であり、1に近いほど大きい状態を
あらわしています。
当時の首相である社会民主党のシュレーダー氏は、1998年
の総選挙で勝利し、緑の党との連立政権でドイツの首相に就任し
ています。しかし、失業率11%の事態に直面し、ドイツの復活
には企業への規制や負担を減らし、産業競争力の回復に努めると
ともに企業に雇用の確保を求める政策が必要と考えたのです。
それにドイツは財政規律にうるさい国で、他の国から見ると、
きわめて健全な数値である当時の財政赤字の対GDP比3.3 %
を改善させる必要があると考えたのです。そのために決断したの
は、過大な失業給付の削減です。これは、それまでのドイツの福
祉国家路線を大きく転換することを意味したのです。
当時失業者は手取り給与の約60%の「失業扶助」が与えられ
それが終了しても職がない場合は、日本の生活保護に当る「社会
扶助」が支給されていたのです。したがって、失業率が上がると
その支出額は膨大なものになったのです。
そこで、「失業扶助」と「社会扶助」の一部を統合し、定額制
の新たな「失業手当U」を新設し、「失業手当U」の受給者には
職業訓練を施して仕事を紹介し、少しでも早く就業させることに
全力を尽くしたのです。
さらに、シュレーダー氏は、非正規労働の規制を緩和し、月額
400ユーロ以下の「ミニジョブ」という非正規労働を外食、小
売り、介護などの産業に多く作り、それらの仕事をしながらでも
生活の程度に応じて生活保障も受けられるようにしています。ま
た、失業者に対しては、「失業手当U」を受けながら、こうした
ミニジョブに就労できるよう配慮しています。
一方企業に対しては、業績不振でも従業員を解雇せず、賃金の
カットで乗り切れるよう賃金の一部を政府が補填する政策をとっ
たので、ダイムラーやポルシェなどの多くの企業が雇用を守るこ
とができたのです。シュレーダー氏は、この政策を「アジェンダ
2010」として実行に移したのです。
この政策はドイツ政府によって、次の2つのメリットがあった
といえます。
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1.賃金水準が低下し競争力向上
2.数値上の失業者数が激減する
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このシュレーダー改革は、支持母体である労働組合の支持が得
られず、シュレーダー政権は、2005年の総選挙では敗北して
しまったのです。
しかし、このシュレーダー改革はその後着実に実を結び、20
08年のリーマン・ショックも無事に乗り切ることができたので
す。2011年の経済財政数値を2005年と比較すると、次の
ように大幅に改善していることがわかります。
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2011年 2005年
失業率 5.9 % 11.3 %
実質GDP成長率 3.0 % 0.7 %
輸出額 1兆602億E 7862億E
財政赤字の対GDP比 1.0 % 3.3 %
ジニ係数 0.293 0.261
──2012年5月4日付、朝日新聞
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確かに数値は大幅に向上し、シュレーダー改革の成果は明らか
ですが、ドイツ人の生活は向上していないのです。それをあらわ
しているのは、ジニ係数が「0.261 〜0.293 」になって
おり、格差の大幅な拡大がみられるからです。
確かにドイツという国としては、経済は強くなり、失業率は下
がったのですが、その代り賃金の伸びは抑えられ、福祉も削られ
ているのです。ドイツ国民としては痛みを負っているのです。
それだからこそギリシャの支援に対し、ドイツ国民の多くは反
対なのです。痛みに耐えてきたドイツ国民たるわれわれが、今ま
でぬくぬくと暮らしてきたギリシャをなぜ助けなければならない
のかと反発を強めているのです。
そのため、ユーロ圏の他の国に対しても、ドイツは構造改革を
押し付けようとしています。問題はそこにあり、その反発が今高
まっているのです。 ── [欧州危機と日本/24]
≪画像および関連情報≫
●人類は原子力を制御できない/ゲアハルト・シュレッダー
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シュレーダー氏は10年以上も前に脱原発という大胆な決定
を下した。先見性が評価されている。
「3つの理由があった。一つは最も重要な安全面だ。われわ
れは『原子力は人類が制御できない科学技術である』との見
解に達していた。原発はミスに寛容でないのだ。そして人間
はさまざまな判断でミスをする。人類にふさわしくないこの
技術を止めようと全力を挙げた」。「多くの原発事故で、わ
れわれが正しいことは確認されている。1979年の米スリ
ーマイルアイランド原発事故、86年の旧ソ連・チェルノブ
イリ原発事故のさい、西欧では大規模な運動が起こった」。
「また、再生可能エネルギーに投資したかった。エネルギー
政策を転換する必要があった。3番目は、使用済み核燃料の
処分場所の解決策がなかったことだ。放射性物質の半減期は
恐ろしく長い。将来の世代に敬意を払って放射性廃棄物を扱
うべきだ」。
http://www.47news.jp/47topics/bunmei/1.html
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ケアハルト・シュレッダー氏


