2012年05月02日

●「ECBは最後の貸し手になれない?」(EJ第3293号)

 EFSFとEFSM──EUは金融危機に備えてこれら2つの
セーフティーネットを作ったのですが、思うように資金が集まら
ず、十分機能していないのです。そこで、既存のEFSFに加え
てESM(欧州安定メカニズム)を作り、これら2つで1兆ユー
ロ規模のファンドの立ち上げを目指しているのです。
 このESMとは何でしょうか。それにしても同じような名前の
セーフティーネットをいくつも作ったものです。
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        ESM/欧州安定メカニズム
        European Stability Mechanism
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 ESMの対象国はユーロ圏17ヶ国で、基本的にEFSFと同
様に債券を発行して、融資枠5000億ユーロ(約51兆円)を
集めようというのです。保証比率もEFSFと同じです。
 ESMは、2013年6月までのEFSFを引き継ぐものとし
て本来考えられていたのですが、金融危機が拡大したので、急遽
2012年7月に前倒しして発足させ、EFSFとESMの2本
体制で、ファンドを1兆ユーロ規模にすることを目指すことにし
ているのです。
 つまり、EUは、欧州危機に対処するための「最後の貸し手」
の機能を構築しようとしているのですが、資金がうまく集まらな
いので、それがなかなかうまくいっていないわけです。一般的に
「最後の貸し手」とは、他に貸し手がいなくなったときに、最後
に貸す貸し手のことで、破綻に瀕した金融機関に対して、発動さ
れる中央銀行の機能のことを指しています。
 しかし、EUでは、ECB──欧州中央銀行は必ずしも最後の
貸し手ではないという意見が強いのです。そのため、EFSFと
ESMが重視されるのですが、これについては改めて詳しく述べ
ることにします。
 もうひとつの救済システムとしてIMF(国際通貨基金)があ
ります。EUは3月30日のユーロ圏財務相会合で、セーフティ
ーネットの規模は、8000億ユーロ(約88兆円)が必要であ
るしています。これは、ESMの前倒し立ち上げを念頭に置いた
ものですが、IMFもこれに対応して加盟国に対し、5000億
ドル(約40兆円)規模の財源の拡大を画策しているのですが、
これには各国で温度差があるのです。
 肝心の米国は、IMFは途上国の救済機関であり、欧州には馴
染まないことや「IMFには十分な資金がある」として応じよう
しないし、中国も積極的ではないのです。そのようななかで、世
界中で最初に資金の拠出を決めたのは日本だけなのです。日本は
IMFに4兆8000億円の拠出を早々と決めています。
 IMFは日本の財務省の牙城であり、これまでも莫大な資金を
拠出しています。しかし、日本としてIMFに資金拠出すること
は必ずしも日本の国益にプラスではないのです。せいぜい財務省
出身のIMFの篠原副専務理事がIMF内で、大きな顔ができる
ぐらいのことです。まして財務省は、国内には日本は財政危機で
消費税の増税が必要だといいながら、こういうところでは御大尽
ぶりを発揮するのです。矛盾の極みです。
 確かに日本は世界一の対外純資産を有しており、国益のために
その資金を有効に使うことには意義があります。しかし、悲しい
ことに、現在の野田政権には戦略がないのです。IMFなどにカ
ネを注ぎ込んでもメリットは少ないのです。
 それでは、今の日本に何ができるのか──慶応義塾大学教授の
櫻川昌哉氏は、2012年4月4日付/日本経済新聞の「経済教
室」で、そのためには歴史を学ぶべしとして、次のように書いて
います。
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 歴史は「最後の貸し手」の重要性を教えてくれる。1929年
 に米国で生じた大恐慌の影響は世界中に波及し、欧州経済を直
 撃した。第1次世界大戦の後遺症から回復途上にあったドイツ
 オーストリアで銀行取り付けが発生し、金融パニックは瞬く間
 に広がった。弱体化しっつあった基軸通貨国の英国は「最後の
 貸し手」として中欧経済を救済できなかった。一方、当時既に
 経済力で英国をしのぎ最大の債権国であった米国は、救済する
 意思を持たなかった。かくして欧州経済は大不況に陥り、各国
 はブロック経済化と通貨安競争に突き進み、国際貿易と世界経
 済の収縮から第2次世界大戦の悲劇へと歴史はかじを切ったの
 である。          ──櫻川昌哉慶応義塾大学教授
     2012年4月4日付/日本経済新聞/「経済教室」
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 「最後の貸し手」というのは、英語では次のようにいいます。
「Resort」というのは「頼みの綱」という意味です。
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      最後の貸し手/Lender of Last Resort
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 どこの国でも最後の貸し手は中央銀行です。しかし、ユーロ圏
諸国の場合、それぞれの国には中央銀行はありますが、金融政策
はECBに委譲されており、ユーロ圏諸国の場合、事実上の中央
銀行はECBなのです。ところが、ECBのドラギ総裁は、こう
いっているのです。
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      ECBは「最後の貸し手」にはなれない
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 ドラギ総裁は、昨年11月に就任するや危機に瀕している国の
国債を買い取るなど、中央銀行として適切な手を打ってきている
のですが、これはあくまで「非常手段」だというのです。つまり
建前はやってはいけないが、そのまま放置すると金融危機が拡大
するので、非常手段としてそういう手を打ったというのです。E
CBとは何なのでしょうか。  ── [欧州危機と日本/22]


≪画像および関連情報≫
 ●ECB最後の貸し手の危機強化論に反発/ロイター電
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  ユーロ圏債務危機の深刻化を背景に、欧州中央銀行/ECB
  に対し「最後の貸し手」として踏み込んだ対応を求める圧力
  が高まる中、ECB当局者などからは反論が相次いだ。ドラ
  ギECB総裁は2011年11月18日、政府の対応の遅れ
  に不満をあらわにし、欧州金融安定化ファシリティー(EF
  SF)の運用をできるだけ早急に始めるべきとの考えを示し
  た。総裁は欧州銀行関連の会議で、欧州連合(EU)首脳は
  EFSF創設を1年半以上前に決定し、EFSFの拡充を4
  週間前に決定したと指摘。「長期にわたる決定の実行はいつ
  行われるのか」と訴え、ECBの関与拡大要求を退けた。バ
  イトマン独連銀総裁も、政府が危機対応の前線に立つべきと
  主張。「危機の収束が成功していないからといって、ECB
  の責務を過度に拡大したり、ECBに問題解決の責任を負わ
  せることは正当化されない」とし、ECBの責務に対する明
  確なコミットメントは、ユーロの未来にとって欠くことので
  きない要素の1つと述べた。   2011年11月19日
http://jp.reuters.com/article/JPbusinessmarket/idJPJAPAN-24253320111118
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ECB/ドラギ総裁.jpg
ECB/ドラギ総裁
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州危機 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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