2012年04月25日

●「ユーロのシステムには無理がある」(EJ第3289号)

 欧州債務危機への対応が最大の焦点になったフランス大統領選
挙は、4月22日に行われ、社会党候補のオランド氏が再選を目
指すサルコジ氏に勝利しています。しかし、ともに過半数に達し
ていないので、5月6日に決選投票が行われます。
 選挙はやってみないとわかりませんが、この勝負は社会党のオ
ランド氏が絶対有利です。なぜなら、再選を目指す現職大統領が
第1回投票で首位を逃した例はないからです。
 問題はオランド氏がフランスの大統領になった場合、ドイツと
の関係がどうなるかです。それは、PIIGSの財政危機をどう
乗り越えるかに重大な影響があります。
 ギリシャ問題は何も解決していないのです。しかし、はっきり
していることがひとつあります。ドイツとフランスはギリシャの
ユーロ脱退は望んでいないし、ギリシャもユーロ脱退はしたくな
いというのが本音です。もし、ギリシャがユーロから脱退すると
それは即ユーロの崩壊の引き金を引いてしまうからです。ユーロ
の崩壊は欧州の崩壊も意味するのです。
 そのためドイツとしては、ショイブレ財務相がいろいろな理屈
をつけて「ギリシャはデフォルトしていない」と強弁しているの
です。そして本日、4月25日時点でも、ギリシャはまだデフォ
ルトしていませんが、実態は限りなくデフォルトそのものです。
 2011年6月の話ですが、ドイツのショイブレ財務相はユー
ロ圏諸国の財務相に書簡を送り、「自発的意思によるギリシャ債
の7年間の債務延長」を求め、物議をかもしたのです。
 デフォルトとは、国債の買い手が、その償還を国債を発行した
国の政府に求めたとき、国側が「不可能」と宣言した場合のこと
をいうのです。したがって、もしギリシャ債の買い手が自らの意
思で国債の償還期限を延長すればデフォルトにはならないとして
ユーロ圏の財務相に暗にそれを求めたのです。
 なぜなら、もしギリシャ債がデフォルトすると、ユーロ圏はも
とより世界中の金融機関に、システマティックリスクを発生する
恐れがあるからです。しかし、どう考えてもショイブレ氏の提案
には無理があるのです。
 これに反発したのは、当時のECBのトルシェ総裁です。民間
投資家の償還期限延長は、完全に自発的でなければならないとし
て、ショイブレ財務相の提案に反対するようユーロ各国の財務相
に求めたのです。まさに泥仕合です。
 そもそもこのユーロと共通通貨の仕組みには、いろいろな面で
無理があります。1つは、対ユーロ諸国で為替レートが変わらな
いということがあります。
 ユーロ加盟17ヶ国には、経済・財政状態のよい国とそうでな
い国があります。これらの国が為替レートが変わらず、為替変動
リスクのない環境に置かれると、力の弱い国は必然的にほとんど
対処不能なバブルを引き起こし、経常収支の慢性的赤字化が進行
してしまうのです。そのことについて考えます。
 そのためには、少し基礎的なことを勉強する必要があります。
「経常収支」に対する理解です。経常収支とは何でしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
  経常収支
   = 貿易収支+サービス収支+所得収支+経常移転収支
―――――――――――――――――――――――――――――
 「貿易収支」とはものの輸出入を集計したものです。輸入より
も輸出が多ければ貿易収支は黒字になります。「サービス収支」
とは海外旅行で買い物をしたり食事をすると、それは日本のサー
ビス収支の赤字として計上されます。貿易収支とサービス収支を
合わせて「貿易・サービス収支」といいます。
 「所得収支」とは、企業が海外の工場建設などや海外証券投資
で得た収益から、日本国内で外国企業などが得た利益や報酬など
を引いたものをいいます。
 「経常移転収支」とは、外国との援助に関するやり取りを計上
する収支のことです。開発途上国への経済援助や国際機関への拠
出金などがそれに該当しますが、金額的にはどの国もそれほど大
きくならないのです。
 添付ファイルを見てください。これは、ユーロ主要国の貿易・
サービス収支の推移をあらわしたグラフです。グラフが鮮明でな
く、すべての国が読み取れないかもしれませんが、ドイツ、アイ
ルランド、オランダが黒字であることはわかると思います。
 PIIGSの1国、アイルランドは、貿易・サービス収支は黒
字ですが、経常収支は一貫して赤字なのです。それは所得収支が
赤字であることが原因です。
 アイルランドは法人税を引き下げ、外資を呼び込むことで国民
経済を成り立たせている国であり、それらの外資系企業がアイル
ランドで稼ぎを膨らませれば膨らますほど、所得収支はマイナス
になるのです。アイルランドの対外負債は、GDPの10倍規模
に達しているため、外国に支払われる配当金や金利が膨らんで、
所得収支を赤字化させるのです。
 ユーロがスタートしたのは1999年ですが、ユーロが現金通
貨として利用されるようになったのは2002年のことです。グ
ラフを見ると、その2002年からドイツ、オランダ、アイルラ
ンドは、貿易・サービス収支の黒字を増大させ、それに対応して
スペイン、ポルトガル、ギリシャなどは赤字を膨らませることが
恒常化しています。
 経常収支の黒字というのは、対外純資産の増加であり、経常収
支の赤字は、対外純負債の増加ということになります。経常収支
が黒字化すると、為替レートは中長期的に上昇していき、しだい
に輸出は困難化し、貿易・サービス収支の黒字幅はだんだん縮小
していきます。ちゃんと歯止めがかかるのです。
 しかし、ユーロ圏内の国同士のやり取りの場合、為替レートの
変動はないのです。同一通貨のユーロであるからです。つまり、
歯止めは効かないのです。   ── [欧州危機と日本/18]


≪画像および関連情報≫
 ●貿易収支と所得収支の話/グローバル・マクロ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  少し前までここまで円高が進んだことに対して、「円高にな
  る要因はない」だとか「消去法で円買い」等の意見が主流と
  なっていた。しかし、僕は円買いの要因は「日本がデフレで
  あること」、「日本の経常収支が大幅に黒字であること」の
  2つで円高になる説明としては十分だと考えていた。今でこ
  そこの考えは徐々に浸透してきているように思う。この「日
  本が大幅に経常黒字であること」という事実は、公的債務が
  GDPの約2倍の900兆円以上ある日本が財政破綻しない
  大きな理由にもなっている。日本は過去10年以上にわたっ
  て大幅な経常黒字を計上している大金持ちの国なのである。
  今、欧州で懸念されているギリシャは経常赤字国でありこの
  点で日本とギリシャは大きく違うのである。みんなが思うよ
  うに、たしかに今の日本はダメかもしれない。でも、僕たち
  の先輩が作ってくれた経常黒字構造のおかげで今の日本は支
  えられているのだ。この経常収支について今回は書こうと思
  う。というのも、経常収支は日本の未来を占う上でとても大
  事だし、同じ経常黒字といっても今と10年前ではその中身
  が違うからちゃんと認識しておいた方が良い。
    http://ameblo.jp/new-normal/entry-10903337218.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ユーロ主要国の貿易・サービス収支の推移.jpg
ユーロ主要国の貿易・サービス収支の推移
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州危機 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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