2012年04月19日

●「ユーロシステムに問題がある」(EJ第3285号)

 住宅バブルが崩壊したアイルランドは、その後どうなったので
しょうか。
 昨日のEJで述べたように、アイルランドのGDPは約23兆
2千億円。これに対して対外負債は約191兆3千億円もあるの
です。GDPの8.2 倍ということになります。2011年の時
点では、それがGDPの11.7 倍の規模に達していたのです。
日本に置き直すと、5000兆円の対外負債がある計算になりま
す。ちなみに日本は、2011年6月現在で、海外の国に対し、
260兆3780億円の巨大な対外資産を有する世界最大の債権
国なのです。
 2008年10月にアイスランドが破綻しましたが、そのとき
もGDPの10倍規模の対外負債を抱えていたのです。したがっ
て、アイルランドの11.7 倍の対外負債は、破綻といってもよ
いほどの規模になります。しかし、アイルランド人はギリシャ人
と違い、この巨額な負債に真摯に向き合う勤勉さを持つ国民であ
り、着実に成果を上げています。ユーロに残りたいからです。
 不動産バブルが崩壊すると、銀行の不良債権が増加します。バ
ランスシートの借方の資産が毀損しているのに、貸方の負債は消
えないで残っているからです。この結果、銀行は機能不全状態に
陥り、そのままに放置すると、資本主義の根本である信用創造の
プロセスが崩壊してしまいます。
 したがって、金融システムの崩壊を防ぐために、アイルランド
政府は銀行に巨額の資金を注入し、信用創造のプロセスを守ろう
としたのです。このアイルランド政府の措置は、バブル崩壊後の
日本でも同じことをやっており、正しい対応です。
 2010年10月の時点でアイルランド政府は、330億ユー
ロ(約4兆円)の公的資金を銀行に投入していますが、その時点
のアイルランドのGDPは2278億ユーロ(約20兆円)しか
なかったので、その20%に該当する巨額の資金を銀行や住宅貯
蓄組合に投入したのです。
 しかし、これだけの金額では済まなかったのです。アイルラン
ド政府は、2009年1月に国有化したアングロ・アイリッシュ
銀行の追加資本の注入で、最大で500億ユーロ(約5兆660
0億円)が必要になっていたからです。
 アイルランド政府は、国有化したアングロ・アイリッシュ銀行
を預金業務を引き継ぐ「グッドバンク」と、不良債権を引き受け
る「バッドバンク」に分割する方針で臨んでいます。
 アイルランド政府は、これらの銀行の処理コストを、IMF、
EU、ECBから資金援助を受けて実施したのです。その結果、
アイルランド政府の支出額は、1000億ユーロ近くにまで跳ね
上がったのです。そのため、2010年度における財政赤字が対
GDP比で実に32%という想像を絶する数字になってしまった
というわけです。
 ちなみに、アイルランドでは、2011年2月25日の総選挙
で、それまでの与党フィアナ・フォイルが敗北し、フィナ・ゲー
ル代表のエンダ・ケニー氏が首相を務めています。しかし、現政
権の着実な政策によって、現在も続いている銀行処理によって、
アイルランドは少しずつ落ち着きを取り戻しつつあるようです。
 しかし、金額が巨額であるため、現在も綱渡りの状態が続いて
いるようです。ごく最近の状況を伝える2012年3月23日付
の「朝日新聞デジタル」の記事を以下にまとめます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「アイルランド、長期債発行案をECB」
        2012年3月23日付「朝日新聞デジタル」
 http://www.asahi.com/business/news/reuters/RTR201203230005.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 アイルランド政府は、銀行処理の資金をIMF、EU、ECB
から約束手形を発行して300億ユーロの資金を調達したのです
が、その返済をめぐって、同国のケニー首相が、現金による返済
ではなく、長期債を発行して返済する提案を欧州中央銀行(EC
B)に提出することを明らかにしたのです。
 具体的には、2025年償還債を発行する案をECBと交渉し
ているということです。長期債を発行するにあたっては、ECB
の支持を得ることが不可欠であるからです。それにしても「20
25年債」とは!?これは永久債です。
 しかし、ECBはこの提案に難色を示しており、ECBとして
は、より金利の低い欧州金融安定ファシリティー(EFSF)融
資への乗り替えなどが好ましいと考えているようです。なぜなら
約束手形の現在の金利は8.2 %であり、EFSFの融資プログ
ラムの金利は平均で4%未満と低いからです。いずれにしても、
その返済が相当の重荷になっていることは確かです。
 2010年度における財政赤字が対GDP比で32%──マー
ストリヒト条約が定めた枠の10倍にもなると、普通の独自通貨
国であれば、対外負債返済リスクが高まるので、通貨は暴落しま
す。もちろんこれによって、デフォルトの危険性は増大しますが
通貨下落による輸出競争力が増加するので、それによって経常収
支の黒字化への道も開けるのです。だから、通貨下落は「ボーナ
ス」といわれるのです。
 2008年に破綻したアイスランドは、ユーロに加盟しておら
ず、独自通貨のクローネを有しています。したがって、アイスラ
ンドが破綻すると、クローネは暴落して約半分になったのです。
しかし、これによって、アイスランドの輸出競争力は急回復し、
現在では経常収支が黒字になっているのです。かつての韓国の急
回復と同じです。
 しかし、ユーロ加盟国のアイルランドは通貨の暴落はないので
す。確かにECBは積極的にギリシャやアイルランドの国債を購
入して金利高騰を抑えようと努力していますが、「ボーナス」の
ないアイルランドは増税で国民からユーロを絞り取るなどの緊縮
政策を取るしかないのです。  ── [欧州危機と日本/14]


≪画像および関連情報≫
 ●アイスランド経済V字回復!
  ―――――――――――――――――――――――――――
  欧州債務危機で単一通貨ユーロ圏の国債格下げが相次ぐ中、
  2008年の世界金融危機で、金融システムが完全に崩壊し
  た。人口32万の島国アイスランドの格付けが「投資適格」
  に引き上げられるなど回復が顕著になってきた。民間銀行の
  海外債務を政府が肩代わりせずに大半を踏み倒し、金融危機
  ではアキレス腱(けん)になった小さな通貨アイスランド・
  クローナが切り下げられ、輸出ドライブがかかったためだ。
  17日、欧州系格付け会社フィッチ・レーティングスは同国
  の外貨建て国債の長期信用格付けを投資不適格の「ダブルB
  プラス」から投資適格の「トリプルBマイナス」に1段階引
  き上げた。昨年8月に国際通貨基金(IMF)の支援プログ
  ラムも終了、「金融・通貨危機以来、同国は構造改革を進め
  信用回復に努めてきた」と評価され、「投資不適格」のギリ
  シャとは大きな違いを見せた。政府債務は昨年、国内総生産
  (GDP)の100%に達したが、基礎的財政収支は今年黒
  字化すると予想されるなどトンネルは脱した。昨年の経済成
  長率は2.9%、今年も2.4%成長が期待され、来年には
  経常収支赤字が解消される。
  http://anago.2ch.net/test/read.cgi/dqnplus/1329592244/
  ―――――――――――――――――――――――――――

エンダ・ケニー/アイルランド首相.jpg
エンダ・ケニー/アイルランド首相
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州危機 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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