ドイツの金融センターのあるフランクフルト・アム・マインの
金融街に「ユーロ・タワー」と呼ばれる巨大なビルがあります。
このビルにユーロの政策を決めるECB──欧州中央銀行が賃貸
で入っているのです。ECBの自前のビルは目下建設中で、20
13年に完成する予定です。
そのECBを上部機関とし、NCB──ユーロ加盟各国の中央
銀行を下部機関とするシステム──それが共通通貨「ユーロ」を
発行・流通させる中央銀行制度「ユーロシステム」なのです。
ECBは、政策金利やその他の決定を行い、決定事項はNCB
が実施し、ECBがその実施状況を監督するのです。つまり、各
国の中央銀行は残っているのです。それぞれの国の銀行は自国の
中央銀行に預金口座を有しており、それらの口座に置かれている
ユーロ預金の振り替えによって、その国内の他の銀行との間で決
済を行うのです。これはユーロ導入前からの決済システムと同じ
です。これは日本でも同様です。
ユーロ導入によって、新たにできるようになったことがありま
す。それは、各国の民間銀行が国境を越えて他のユーロ圏の国の
民間銀行に送金するシステムです。例えば、スペインの民間銀行
が自国の中央銀行に保有するユーロ預金をフランスの中央銀行を
通して、フランスの民間銀行に振り込むことができるのです。こ
れを「クロスボーダー決済メカニズム」といいます。
それではECBはどのように運営されるのでしょうか。経費な
どはどうなるのでしょうか。
ECBが設立されたのは1998年6月のことです。各国の中
央銀行は、EU各国の人口比とGDP比とで計算される資本金を
払い込み、ECBはその資金で運営されるのです。つまり、EU
27ヶ国の中央銀行はECBの株主のような存在になります。
それでは、意思決定はどのように行われるのでしょうか。
ECBの執行機関は役員会です。役員は、総裁と副総裁、そし
て理事4人の計6人で運営されるのです。役員は、ドイツ、フラ
ンス、イタリア、スペインの4大国からは4人が常時入り、後の
2人は小国から順次就任するのです。なお、女性理事が必ず1人
入ることになっています。
ECBの政策目標は「物価安定」です。これは至高の政策目標
なのです。この物価安定という政策目標が達成される限りにおい
て、ECBは他の政策目標──雇用や経済成長などを支援できる
のです。つまり、逆にいうと、物価安定に専念してもよいという
ことになります。
これに比べて、米国のFRBは、政策目標として物価安定と並
んで、雇用の最大化と長期金利の安定を目指しており、日本や英
国も同様ですが、ECBは一貫して物価安定を目標に金融政策を
行ってきております。これは、ドイツ連邦銀行の基本方針であり
ECBもそれを受け継いでいるのです。
さて、現在のECB総裁は、2011年11月から就任したマ
リオ・ドラギ氏です。ドラギ総裁について、「闇株新聞」の著者
は次のように論評しています。
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2011年11月に就任したマリオ・ドラギECB総裁は、近
年の世界主要国の中央銀行総裁の中でも出色だと思います。中
央銀行総裁の資質とは「中央銀行の権限の範囲を超えることな
く」「明瞭な政策を」「手遅れになることなく」「思い切って
行い」かつ「市場との対話が出来る」ことです。見ている限り
今のところすべて合格点です。日銀総裁と比べてみて下さい。
──「ドラギERB総裁のジレンマ」/「闇株新聞」
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ドラギ氏は総裁に就任するや、てきぱきと精力的に政策を打っ
てきています。それを追ってみましょう。ドラギ総裁は、まず政
策金利と預金準備率の引き下げを行っています。前者は1.5 %
から1.0 %へ、後者は2%から1%へです。そのうえで長期資
金供給オペ──LTROを行っているのです。
LTROは、民間銀行の資金の過不足を調節する公開市場操作
の一つであり、ECBへ資産担保証券などの担保を差し出し、民
間銀行がこの資金供給オペを受けることをいいます。
2011年12月21日にユーロ圏の銀行へ4892億ユーロ
(50兆円)を政策金利1%で3年間にわたって貸し出していま
す。それまでは13ヵ月が限度だったのですが、それを3年に伸
ばし、さらに担保条件を緩和したのです。
とくにイタリアやスペインの銀行を中心に「希望額すべて」の
資金供給に応じたのです。ドラギ総裁のこの大胆な措置によって
2012年の年初から短期市場に資金が流れてユーロ金利とドル
金利が下がり、それがユーロ圏各国の国債利回りを低下させ、金
融市場は落ち着きを取り戻したのです。
このドラギ総裁の措置は、ユーロ圏だけでなく、世界経済に活
力を与えたのです。日銀総裁のバレンタインデー金融緩和にも影
響を与えて、かなりの円安と株高をもたらしたのです。
そして、ドラギ総裁は、2012年2月29日に前回を上回る
2回目のLTROを実施し、期間3年で政策金利1%、5295
億ユーロ(約57兆1900億円)の資金をユーロ圏の銀行に供
給したのです。これで合計1兆ユーロを超えたことになります。
この約半分は新規融資で、残りは近く償還される短期債の借り
換えに充当されるのです。応札したのは約800行で、前回オペ
の523行を上回ったのです。無制限融資のため、応札はすべて
認められています。参加者が増えたのは、ユーロ圏各国の中央銀
行が融資担保基準を緩和したためとみられます。
ドラギ総裁のLTROにより、短中期的にみて欧州の銀行の連
鎖的な破綻のリスクが解消されたのは間違いないことです。ドラ
ギ総裁はどこかの国の総裁と違って、大胆にして思い切りのよい
決断ができる人のようです。 ─── [欧州危機と日本/06]
≪画像および関連情報≫
●マリオ・ドラギとは何者か
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マリオ・ドラギ氏は、1991年にイタリア経済財政大臣就
任。当時、政府は企業からの汚職スキャンダルに激しく揺れ
ており、幾人かの有力政治家が、非難を浴びている状況だっ
た。一方でドラギ氏は、国家が大企業の役割を果たす仕組み
は危険だと考え、その恒久的解決策として民営化を提唱、ド
ラギ氏の学術顧問らもそれを支持した。1993年、民営化
委員会の議長に就任したドラギは、電気通信事業のテレコム
・イタリアを手始めに大規模な民営化を実施。1999年ま
でに市場価値(日本円に換算すると)10兆円規模の民営化
を行った。民営化による収益は政府債務の圧縮に貢献し、E
U参加のためのマーストリヒト条約基準にも適合することと
なった。イタリアのコーポレートガバナンスを規定した法律
の立案にも大きく関わっており、「ドラギ法」という名で知
られている。 ──ウィキペディア
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マリオ・ドラギECB総裁


