2006年10月27日

『魔笛』における調性の研究(EJ1950号)

 『魔笛』について書かれているウェブサイトはたくさんありま
す。しかし、本当の意味でこのオペラの楽曲の内部まで踏み込ん
で解説しているケースは少ないと思います。また、たとえあった
としてもおそらく専門的な立場からの分析であり、素人にはとて
も理解できないでしょう。
 しかし、EJでは、あくまで『魔笛』の謎に迫るための必要不
可欠な情報として取り上げており、音楽の素人でも十分理解でき
るように書いているつもりです。『魔笛』というオペラの謎に迫
るためには、少し立ち入った楽曲の分析がどうしても必要になる
からです。
 『魔笛』の楽曲には、序曲の他に全部で21のナンバーがあり
ます。それぞれのナンバーの中には台詞や短い歌唱が含まれてい
ます。とくに第1幕と第2幕の「フィナーレ」にはそれらを多く
含んでいるので、「フィナーレ」についてはさらに細かい区分け
をして、21のナンバーを次に示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
  0.序曲
  ≪第1幕≫
  1.導入部
  2.パパゲーノのアリア
  3.タミーノのアリア
  4.夜の女王のアリア
  5.五重唱/タミーノ、パパゲーノ、3人の侍女
  6.三重唱/モノスタトス、パミーナ、パパゲーノ
  7.教訓の二重唱/パミーナとパパゲーノ
  8.第8番/フィナーレ
    A――3人の童子
    B――神殿に入ろうとするタミーノ
    C――パミーナとパパゲーノの逃走
    D――ザラストロの審判
    E――合唱
  ≪第2幕≫
  9.僧侶たちの行進
 10.ザラストロのアリア
 11.僧侶たちの二重唱
 12.五重唱
 13.モノスタトスのクープレ
 14.夜の女王のアリア
 15.ザラストロのアリア
 16.3人の童子の三重唱
 17.パミーナのアリア
 18.僧侶たちの合唱
 19.三重唱/タミーノ、パミーナ、ザラストロ
 20.パパゲーノのクープレ
 21.フィナーレ
    A――パミーナの「空気」の試練
    B――タミーノとパミーナ対する「火」と「水」の試練
    C――パパゲーノとパパゲーナに対する「空気」の試練
    D――夜の女王、3人の侍女、モノスタトスの襲撃
    E――聖なるものに達したカップル
    F――終曲の合唱
―――――――――――――――――――――――――――――
 ストラヴィンスキーは、音楽で何かを表現するには限界がある
といいましたが、モーツァルトは『魔笛』において、何かを表現
するために調性というものにこだわっていたと思えるのです。
 『魔笛』において、モーツァルトは「変ホ長調」という調性を
大事に使っています。これに関連してモーツァルトは次の3つの
ルールを守っているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.「完璧さ」をあらわすのは「 3」である
   2.「清澄さ」をあらわすのは「長調」である
   3.「荘厳さ」をあらわすのは「 ♭」である
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら3つのルールから導き出される調性が「変ホ長調」なの
です。変ホ長調は、「♭」が「3」つ付く「長調」の調性である
からです。
 『魔笛』の楽曲において、変ホ長調が使われている楽曲をピッ
クアップすると、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.序曲
  2.タミーノのアリア(3)
  3.教訓の二重唱/パミーナとパパゲーノ(7)
  4.鎧を着た男たち(21B)
  5.第2幕の終曲(21F)
―――――――――――――――――――――――――――――
 興味深いのは、♭が3つの変ホ長調がベストであり、その数が
が減るにつれて、一転暗い感じの曲になることです。すなわち、
♭が2つの変ロ長調では、「夜の女王のアリア」(4)、タミー
ノ、パパゲーノ、3人の侍女の「五重唱」(5)、タミーノ、パ
ミーナ、ザラストロの「三重唱」(19)であり、♭が1つのヘ
長調では、「ザラストロの審判」(8D)、「僧侶たちの行進」
と「ザラストロのアリア」(9/10)、「夜の女王のアリア」
(14)が該当するのです。また、♭が2つのト短調では、嘆き
のアリアといわれる「バミーナのアリア」(17)が該当すると
いった具合です。
 これに対して、シャープ(♯)は「世俗の軽薄さ」をあらわし
ており、3人の侍女やパパゲーノが活躍するほとんどの部分の調
性は、♯が1つのト長調となっています。
 やや専門的な分析になりましたが、モーツァルトはここまで考
えて『魔笛』を書いたのです。  ――  [モーツァルト28]


≪画像および関連情報≫
 ・『魔笛』と変ホ長調について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  (変ホ長調)――序曲と終曲の合唱によってオペラ全体を取
  り囲んでいるこの調性は、通過儀礼の崇高な場面だけでなく
  荘厳なあるいは教訓的な意味をもつ大部分の小曲あるいは楽
  句の調性となる。その関係調であるハ短調は、不完全な、あ
  るいは起伏の多い進行を示すことになる。
      ――ジャック・シャイエ著/高橋英郎・藤井康生訳
            『魔笛/秘教オペラ』より。白水社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

1950号.jpg
posted by 平野 浩 at 06:49| Comment(0) | TrackBack(0) | モーツァルト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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