2006年10月26日

3と5の争いのドラマ(EJ1949号)

 『魔笛』というオペラの中に「3」という数字が効果的に使わ
れている――これはよくいわれることです。表面的に見えるもの
だけでも、「3人の侍女」「3人の童子」「3つの神殿」などが
上げられます。
 一方、フリーメーソンにも「3」という数字は深い関連があり
ます。基本的な位階としての「徒弟」「職人」「親方」の3つの
位階、入会者を受け入れるかどうかを決める3人の試問官、入会
式のさいに「戸を3回たたく」儀礼、それに序曲の3つの和音な
ど、「3」という数字が深く関連します。
 しかし、既出のジャック・シャイエは、『魔笛』というドラマ
は、「3」と「5」の争いによって展開されるといっています。
基本的には、次の対応になっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      「昼/男性」の世界 ・・・・・ 3
      「夜/女性」の世界 ・・・・・ 5
―――――――――――――――――――――――――――――
 「5」が夜の世界をあらわし、さらに女性を示すならば、なぜ
「5人の侍女」ではなく「3人の侍女」なのかという疑問に対し
て、ジャック・シャイエは、次のように説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 3人の侍女は、何よりもまず、夜の世界の使者である。それゆ
 え彼女たちは、元来、3人ではなく、5人のはずだったことに
 注意しよう。おそらく5人の配役を舞台にのせることが困難で
 あったため、このわずかな歪曲が許されたのだろう。しかし、
 モノスタトスが加担した以後の夜の女王に先導される襲撃グル
 ープは、たしかに象徴的な5人の人物を含んでいることを指摘
 しておこう。―ジャック・シャイエ著/高橋英郎・藤井康生訳
            『魔笛/秘教オペラ』より。白水社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに舞台演出上は、夜の女王の侍女は5人よりも3人の方が
ベターです。しかし、音楽の方では、第1幕の冒頭シーンで3人
の侍女が歌う場面でも三重唱とはしておらず、パパゲーノの口に
鍵をかけて歌うシーン――「フム、フム、君も十分思い知ったろ
う」では、タミーノとパパゲーノを加えてはじめて5重唱にして
いるのです。つまり、3人の侍女の3重唱というのは最後までな
いのです。それほど女性に関しては「5」にこだわるのです。
 モーツァルトは、一般的に台本にはあまりこだわらず、音楽を
書いたといわれます。つまり、台本作りにはあまり口を挟まず、
出来上った台本に対して作曲をしたというのです。
 しかし、少なくとも『魔笛』に関してはそうではなかったと考
えられるのです。なぜなら、『魔笛』の台本は、熱心なフリーメ
ーソンの会員であるモーツァルトが積極的に加わらなければ書け
ない台本であったといえるからです。
 ところで、音楽でどこまで物事を表現できるのかということに
関連して、あのイゴール・ストラヴィンスキーは次のように述べ
ています。これは「ストラヴィンスキーの公理」といわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 たいていの場合がそうであるように、音楽が何かを表現してい
 るように見えるとしても・・・、それは、暗黙の因習的な約束
 事によって、貼札とか公文書の書式、つまり、一種の礼儀作法
 のように、われわれが音楽に賦与し、押しつけ、そして習慣的
 か無意識的に、われわれがその本質と混同するようになった単
 なる付加的要素である。 ――イゴール・ストラヴィンスキー
―――――――――――――――――――――――――――――
 難しい表現を使っていますが、要するにストラヴィンスキーは
「音楽には、その本質からすれば、何かを表現する力はない」と
いっているのです。音楽で多くのことを表現できないとすれば、
何かを明確に表現しなければならないオペラにおいては作曲者自
身が台本作りに積極的に関らざるを得ないことになるわけです。
そういうことから少なくとも『魔笛』の台本には、モーツァルト
自身の手が相当加わっていると考えざるを得ないのです。
 少し難しい話で恐縮ですが、ある音楽がメロディーや和音が中
心音と関連づけられて構成されている場合、その音楽は「調性が
ある」といいます。モーツァルトの楽曲分析に詳しいキャサリン
・トムソンは、モーツァルトの作品の調性について次のように述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 モーツァルトの作品においては、特定の調性がフリーメーソン
 の思想と明確に結びついている。それらの調性は変ホ長調、ハ
 長調、ならびに両者の関係調であるハ短調である。変ホ長調が
 選ばれたのはこれが管弦器に容易な調であるためと思われる。
 管弦器は結社の支部の祭儀で重要な役割を占めていた。メーソ
 ンのシンボリズムの3という数の重要性を考えると、3つのフ
 ラットの調号にも意義があるのかも知れない。
      ――キャサリン・トムソン著/湯川新/田口孝吉訳
   『モーツァルトとフリーメーソン』より。法政大学出版局
―――――――――――――――――――――――――――――
 『魔笛』の場合、中心となる調性は「ハ長調」です。シャルル
・フランソワ・グノーは「神はハ長調で語る」といっていますが
ハ長調は他のすべての調性の基調となっています。このハ長調の
両側に、調性が対立する2つの世界があります。それは次のよう
な世界です。
―――――――――――――――――――――――――――――
  フラットの世界 ・・・・・ 「叡智」の荘厳さ
  シャープの世界 ・・・・・ 「世俗」の軽薄さ
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで「フラット」とは、変化記号のフラットのことですが、
『魔笛』ではフリーメーソンの儀礼にかかわる部分のほとんどは
フラットが3つ付く変ホ長調で書かれているのです。ここにも3
が出てくるのです。       ――  [モーツァルト27]


≪画像および関連情報≫
 ・調性(キー)とは何か/基礎知識
 ――――――――――――――――――――――――――――
  基本的にいうと、全ての曲に調性(キー)というものが存在
  します。その曲の属性とでもいうべきもので、24種類ある
  のです。具体的には「ハ長調/Cメジャー」とか「イ短調/
  Aマイナー」といいます。楽曲はその調性(キー)の上に成
  り立っていて、たまにそのキーから「あえて」はずしてみた
  りして変化をつけるのです。
 ――――――――――――――――――――――――――――

1949号.jpg
posted by 平野 浩 at 06:00| Comment(0) | TrackBack(0) | モーツァルト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。