2幕のある重要な部分をカットして上演しているからなのです。
EJ第1942号で書いた『魔笛』のあらすじの中に次の部分
があります。第2幕の第2景です。
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・パミーナが眠っているとモノスタトスが来て誘惑しようとす
る。そこに夜の女王が登場するので彼は隠れる。女王は復讐の
思いを強烈に歌い、パミーナに剣を渡しこれでザラストロを刺
すように命じて去る。
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夜の女王は、第1幕と第2幕に一回ずつ登場して有名な2つの
アリアを歌うのですが、第1幕では相手はタミーノ、第2幕では
パミーナが相手なのです。
第2幕で夜の女王は娘のパミーナに対して、次の話を聞かせる
シーンが台本にあるのですが、オペラの上演では、それがカット
されるのが通常になっています。
まず、夜の女王は、ザラストロの正体を次のように明かすこと
から語りはじめるのです。
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この国の支配者であられたお前のお父さまは、イシスの神に仕
える人びとのために7つの光輪をつけた「太陽」をみずからす
すんでお捨てになったのです。今では、他のおかたがその権力
を象徴する太陽の紋章を胸につけておいでです。そのおかたこ
そザラストロです。
――ジャック・シャイエ著/高橋英郎・藤井康生訳
『魔笛/秘教オペラ』より。白水社刊
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これによると、ザラストロは魔法使いでも何でもなく、神から
大陽の紋章を受け継いだ聖者ということになります。しかし、夜
の女王はそれが不満であり、それでは「宇宙を包囲し、それをみ
ずからの光線で貫いている≪太陽の輪≫は、どなたにお遣わしに
なるのですか」と尋ねると、お父さまは次のように答えたことを
娘に教えるのです。
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それは神に仕える男たち(入信者たち)だけにあたえてもらい
たい。これからはザラストロがその雄々しい守護者となるだろ
う。ちょうどこれまでわしがそうであったように。もうこれ以
上きかないでくれ。こういうことはお前ごときの女の才知のう
かがい知るところではないのだ。お前の務めは、娘ともども神
に仕える賢明な男たちの導きにすっかり身をゆだねることだ。
――ジャック・シャイエ著、前掲書より
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夜の女王のこの話の内容を理解するには少し説明が必要です。
パミーナの父の治世は、物質が形を形成する以前の状態を象徴
していて、男女の性の区別はなかったのです。問題はその区別が
起こったときです。それが起こったとき、宇宙の勢力は、男性と
女性に二分され、父個人の所有する財宝はすべて女性に返された
のですが、その中に「叡智」は入っていなかったのです。
この「叡智」こそ「宇宙を包囲し、それをみずからの光線で貫
いている≪太陽の輪≫」なのです。そのため、女性は太陽を奪わ
れ、「夜の女王」になって、以後男性の社会から分離されること
になったのです。夜の女王はこれが不満でならないのです。
しかし、そうであるとすると、ザラストロはなぜ夜の女王から
娘のパミーナを取り上げたのでしょうか。この行為のためにザラ
ストロは、「夜の女王から娘をかどわかした悪者」のレッテルが
貼られることになります。
これについては次のように説明をすることができます。
パミーナの父の治世では、男女両性の危機はなかったのですが
性の分離が行われると、昼(男性)の勢力と夜(女性)の勢力に
二分――すなわち、ザラストロの世界と夜の女王の世界に二分さ
れ、争いが起こったのです。
しかし、夜の女王の娘パミーナと昼の勢力を受け継ぐことにな
る王子タミーノが結婚すれば、男女の争いは解決し、新しい黄金
時代が幕を開くというわけです。つまり、第3世代になれば、問
題は解決されるという考え方です。
ザラストロは、そういう黄金時代を築くため、心を鬼にして夜
の女王から娘パミーナを引き離し、モノスタトスの管理下に置く
のです。なぜ、心が邪悪なモノスタトスの下に置いたかというと
パミーナに「耐えること」を教えるためなのです。つまり、これ
はザラストロがパミーナに課したひとつの試練なのです。そして
パミーナはそれを乗り越えて次のステージに進むのです。
どうでしょうか。善悪の逆転などなく、ちゃんと話の筋は通っ
ています。しかし、第2幕の夜の女王がパミーナに聞かせる話は
オペラでは削除されることが多いのです。
それはこの語りを入れると、ザラストロが悪者ではなくなり、
夜の女王のアリアに見られる怒りや哀しみをうまく表現できなく
なるからではないでしょうか。
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――夜の女王のアリア/第2幕――
地獄と復讐が私の心の中に煮えかかっている
死と絶望が私のまわりに燃え上がっている
お前によってザラストロが死の苦しみを感じないなら
お前はもうけっして私の娘ではない
永遠に勘当され 永遠に見捨てられる 永久に打ち砕かれる
自然の全ての絆は勘当され 見捨てられ 打ち砕かれる
自然の全て絆は
もしお前によってもザラストロが恐れなくなったとしたら
お聴き、復讐の神々よ
お聴き、母親の誓いを
――――――――――――――――― [モーツァルト25]
≪画像および関連情報≫
・ザラストコ/夜の女王/モノスタトス
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『魔笛』では、ザラストロの広い人間愛は、自分の娘と「太
陽の7つの楯」とを喪失した悲しみに映しだされる「夜の女
王」の狭い利己的な愛と家族中心思想に対比されている。モ
ノスタトスは、彼の名(モノ[1人きりで]スタトス[立っ
ている])が暗示するように、利己的個人を象徴する。
――キャサリン・トムソン著/湯川新/田口孝吉訳
『モーツァルトとフリーメーソン』より。法政大学出版局
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