2006年10月04日

台本作家ダ・ポンテとカスティの戦い(EJ1934号)

 モーツァルトの快進撃に怖れを抱いたサリエリ宮廷楽長以下の
イタリアの音楽貴族たちは、目立たないようにモーツァルトの演
奏会を潰しにかかったのです。つまり、兵糧攻めにして、モーツ
ァルトの作曲意欲を削ごうとしたのです。
 その効果は目に見えて顕著になり、あれほど多忙であった演奏
会は減少の一途をたどったのです。1785年のことです。これ
によりモーツァルト家の家計は逼迫の度を深めていったのです。
当時は、現在と違って、作曲はお金にならなかったのです。
 聴衆も同じ曲を何回も聴くよりもつねに新しい曲を求め、作曲
家は次々と新しい曲を作り続けることが求められたのです。した
がって、多くの駄作も生まれています。音楽家としては、作曲よ
りも演奏の方がお金になったのです。
 モーツァルトは新しいオペラを作曲して現状を打開しようと、
必死になって優れた台本を求めていたのです。そのとき目をつけ
たのが、ボーマルシェの戯曲「たわけた一日、あるいはフィガロ
の結婚」なのです。ルイ16世から上演禁止の処分を受けた、あ
の作品です。
 ここでモーツァルトは、ダ・ポンテというイタリア人の台本作
家と出会うのです。そのときウィーンの宮廷には、ジョヴァンニ
・パティスタ・カスティという台本作家がもてはやされていて、
サリエリらの作品の台本を書いていたのです。
 ダ・ポンテにとってカスティはライバルであり、何とかして追
い落としの機会を狙っていたのです。そういうときにダ・ポンテ
はモーツァルトに出会うのです。モーツァルトとしてダ・ポンテ
は、ウィーン宮廷音楽家と対抗するための格好の台本作家であり
ダ・ポンテとしてもモーツァルトと組むことで、カスティの追い
落としはできると考えたのです。
 問題は上演禁止となっている戯曲をどの部分を削るかにあった
のです。モーツァルトとダ・ポンテは密かに何回も会って、打ち
合わせを行ったのです。そして、原作を全面的に改訂し、政治的
部分は全部取り除き、ドイツ語ではなくイタリア語で書くことに
決め、ヨーゼフ2世に直訴したのです。この部分は映画『アマデ
ウス』では、次のような話になっているのです。サリエリらの悪
辣さを強調するためでしょう。
 サリエリはモーツァルトが何をしているのかを探るため、モー
ツァルト家に召使を送り込むのです。モーツァルトの支援者が匿
名で召使の給料を支払うという申し出です。その申し入れに対し
そのとき、たまたまモーツァルト家に来ていたレオポルトは強く
反対します。見ず知らずの他人を不用意に家に入れることは反対
だというのが理由です。もっともな話です。
 このかたくなな父の態度に腹を立てたコンスタンツェはレオポ
ルトに食ってかかるのです。モーツァルトはみんなの期待の星で
あり、そういう支援者はたくさんいるのだというわけです。そう
いう経緯でコンスタンツェはその召使を受け入れるのです。
 サリエリは、召使にモーツァルト夫妻が留守のときを教えるよ
うにいい、その留守に乗じてモーツァルト家に入り込むのです。
そして、書きかけの歌劇『フィガロの結婚』の譜面を発見し、ヨ
ーゼフ2世に対し、モーツァルトが上演禁止となっている戯曲を
オペラ化しようとしていることを告げ口するのです。
 おそらくこの話は作り話であると考えます。しかし、それほど
までにサリエリらがモーツァルトを危険人物視していたことを示
したかったので、作ったエピソードであろうと思います。
 資料によると、ヨーゼフ皇帝には台本作家のダ・ポンテが進言
したことになっています。真木洋三氏の本には、次のように書い
てあります。「ポ」はダ・ポンテ、「皇」は皇帝です。
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 ポ:ボーマルシェの原作を全面的に改作し、顰蹙を買う部分は
   すべてカットします。
 皇:本当に責任をもって、そうするか?
 ポ:必ず、皇帝陛下のお気に召すようつくり直してみせます。
 皇:作曲は誰がする?
 ポ:ヴォルフガング・モーツァルトであります。
 皇:うむ、面白い。上演禁止のおふれを撤回しよう
 ポ:陛下の御寛容の精神にそいまして、永遠に光芒を放つ不朽
   の名作を必ずつくってみせまする。
 皇:楽しみに待っておるぞ
   ――真木洋三著、『モーツァルトは誰に殺されたか』より
                       読売新聞社刊
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 歌劇『フィガロの結婚』の制作が決まったことに危機感を抱い
たサリエリらは、オペラの評価を下げるためのあらゆる妨害をは
じめたのです。その有名なもののひとつにバレエ音楽削除の要求
があります。これは実際にあったことで、映画『アマデウス』で
もそのシーンはあるのです。大変印象的なシーンです。
 歌劇『フィガロの結婚』の内容をチェックする目的もあって、
ヨーゼフ皇帝はよくリハーサルには顔を出したのです。モーツァ
ルトは、皇帝が見えるたびにフィガロの何曲かを演奏してみせ、
皇帝もそれを楽しみにしていたのです。
 ある日皇帝がやってくると、舞台ではバレリーナがパントマイ
ムのようなことをやっているのを見て、皇帝は「これは何だ」と
尋ねるのです。サリエリらは、フィガロにはバレエシーンがあり
かつて皇帝がバレエ音楽を入れるなといったことを理由として、
その部分をモーツァルトに削除をさせたと説明します。
 皇帝は「馬鹿ばかしい。音楽を入れよ」と命令します。待って
いましたとばかりモーツァルトが音楽を入れると、そこに見事な
バレエ・シーンが展開されます。誰しもがモーツァルトの音楽の
価値を納得できるシーンです。これによって、モーツァルトの音
楽は1つの音符も抜けないほど、完璧であることがわかったとい
えます。しかし、皇帝はしだいにサリエリらの執拗な戦略に取り
込まれていってしまうのです。・・・・・ [モーツァルト12]


≪画像および関連情報≫
 ・歌劇『フィガロの結婚』解説/池田博明氏
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  アルマヴィーヴァ伯爵の屋敷のなかで、浮気騒動や不倫騒動
  が起こる劇で、モーツアルトの音楽だけでなく、ダ・ポンテ
  の台本もよく出来ている。特に第二幕、ロジーナの衣装室か
  らケルビーノが逃走した後、幕切れに至るまで次々に起こる
  ドンデン返しは傑作だった。これまでにこの歌劇を通しでき
  ちんと見ていなかった私にもあらためて、この作品の人気が
  高い理由がよく分かったのである。ポンネルの映像版は登場
  人物の内的独白では、映像のなかの人物に口を開かせないと
  いう演出で、凝りに凝っている。この歌劇の音楽の牽引役は
  終始出ずっぱりで、いつも一番高い音を取っているスザンナ
  である。しかし、真の主役は伯爵夫人という意見もある。
    http://www.ne.jp/asahi/sayuri/home/music/figaro.htm
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1934号.jpg
posted by 平野 浩 at 06:38| Comment(0) | TrackBack(0) | モーツァルト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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