時代に与謝野馨前経財担当相が中心となってまとめられているの
ですが、問題なのはその前提になる考え方です。
与謝野氏は「デフレは別にわるいものではない」という前提に
立っているのです。これは「良いデフレ論」といい、同じ考え方
の学者もいます。日銀の白川総裁も同じ考え方のようです。
経済にはいろいろな考え方があります。学者であれば、どのよ
うな説を唱えてもそれは自由ですが、それによって国の政策を決
めるとなると、大きな問題になります。
こんなことがあったのです。7月5日に行われた与謝野経財担
当相の記者会見です。少し長いですが、再録します。
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記 者/大臣、前回の記者会見の中で1%ぐらいのマイナス、
物価下落は何でもないと、プラス要素だということを
仰いましたけれども、今政府はデフレの脱却を重要政
策として掲げているわけですけれども、この政策を見
直すおつもりはあるのですか。
与謝野/勿論、私は見直したのです。私が前回経済財政担当大
臣のときにデフレという言葉を政府の言葉から削除い
たしました。定義のない言葉を使ってはいけないと。
それを私が申し上げたいと思っています。
記 者/今の政権でも同じことをやるのですか。あとデフレの
定義は、政府はそれなりにきちんとやっていると思う
のですけれども。
与謝野/デフレは、政府の定義は物価下落が数年続く世界をデ
フレと言っているのですけれども、1%程度の物価下
落で驚いて自己暗示にかかるようなことをやってはい
けないと、今でもそう思っております。
記 者/ということは、デフレ脱却という政府の政策課題は取
り下げるということでいいのですか。
与謝野/そんなことはありません。政府の課題は、日本の経済
を成長させることであります。
記 者/矛盾しませんか。
与謝野/何故矛盾するのですか。
記 者/政府はデフレを脱却するということで、今の1%程度
の下落が続いている状況をそういう状況から脱しよう
というのを政策目標として出しているわけですよね。
それは大臣の仰るのは、そういう状態はかえって望ま
しいのだということを仰っているわけで、根本的に違
うと思うのですけれども。違うのだったら違うで、き
ちんとそこは改めるべきなのではないかなと。
与謝野/私の記者会見をもう一度読んでいただければ、1%程
度の物価下落は労働所得を得ている人、年金所得者に
とってはむしろプラスになっているということを申し
上げたはずなので、そこのところが重要なのです。
http://d.hatena.ne.jp/Baatarism/20110718/1310960213
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この与謝野氏の話は支離滅裂です。それに何ということでしょ
うか。与謝野氏は「デフレ」という言葉を政府の言葉から外した
というのです。日銀にも「デフレ」という言葉はないので、デフ
レを脱却できるはずがないのです。しかし、「良いデフレ論」な
ど考えられないことです。与謝野氏は「フィリップス曲線」とい
うものをご存知ないのでしょうか。
フィリップス曲線は、経済学においてインフレーションと失業
の関係を示したものです。アルバン・ウィリアム・フィリップス
が1958年の論文の中で発表しています。
縦軸にインフレ率(物価上昇率)、横軸に失業率をとったグラ
フの曲線であり、次の関係を表しています。
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インフレと失業率は、トレード・オフの関係にある
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「トレード・オフの関係」というのは、どちらかを良くすれば
どちらかが悪くなるという関係のことです。つまり、失業率を下
げようとすれば、インフレ率が上がるし、インフレ率を下げよう
とすれば失業率が上がってしまうというわけです。
物価が持続的に下落するのがデフレですから、デフレになると
失業率が高くなるのです。高橋洋一氏は、これについて次のよう
に述べています。
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与謝野経済財政担当相(当時)の「良いデフレ論」は、政府が
雇用の確保をやらないと宣言するに等しい暴言だ。今のデフレ
のために数十万人の失業者が余計にいると思われるので、その
まま放置されるわけだ。失業者放置のまま増税すれば、大震災
以上の経済破壊になるだろう。 ──高橋洋一著
「2011『日本』の解き方」/353/夕刊フジ
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いろいろ調べてきてわかってきたことですが、日本では政府も
日銀もこの長く続く慢性デフレから脱却しようとしていないし、
それは自分たちの仕事ではないと考えているようです。むしろ現
状のままの方がよいと考えているのです。その証拠はこれから出
していくつもりです。
このデフレのために、1世帯当たりの可処分所得は、10年前
に比べて月当り4万4000円も減っているのです。野田政権は
そのやせ細る家計から、復興増税、消費税増税、B型肝炎訴訟の
和解金の支払い、福島原子力発電所事故の補償費についても税と
してむしり取ろうとしているのです。
どうして日本人は平然としているのですか。まるでかつての悪
代官顔負けの異常な政策が、これから平然と実施されようとして
いるのです。 ── [財務省の正体/21]
≪画像および関連情報≫
●日本のフィリップス曲線から見えるデフレと失業率の関係
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かつて日本は、1億総中流とも言われ、世界一安全で平和な
国であった。それは、もう20年近く前の話である・・・。
総務省統計局の最新の労働力調査によると、日本の就業者数
は6271万人、完全失業者数は331万人、完全失業率は
(季節調整値)5.2%、非正規の職員・従業員:1743
万人とのことらしい。今や日本は、5%を超える社会不安一
歩手前の高失業率の中、かつての中流層は貧困層へ転落し、
希望の見いだせない疲弊した国になり果ててしまった。学校
を出ても就職難の憂き目に遭い、働けどワーキング・プアで
サービス残業に代表される過酷な労働環境でうつ病になり、
失業率の増加に比例するように自殺率も増加している。
http://boony.at.webry.info/201009/article_12.html
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フィリップス曲線