ほど大新聞の書く記事はおおむね信用しています。ある事件の記
事が大きな見出しで報道されればそのまま素直に受け入れてしま
うものです。しかし、その記事が完全な間違いであったとしたら
どうでしょうか。
こういう場合、新聞は一応訂正記事を書きます。しかし、そう
いう訂正記事は非常に小さいのが一般的です。新聞社のミスです
から、あまり目立つようには書きたくないのです。
しかし、この場合、記事が小さいので、大きな記事の報道を見
て、そういう訂正記事を見落としてしまう人もたくさんいます。
そうすると、それらの人たちは、大きな見出しの記事の内容を正
しいと信じてしまいます。
陸山会事件にはこういうことがあまりにも多いのです。そのひ
とつの例が石川知裕氏に起きているのです。石川氏は2010年
1月15日に逮捕されましたが、その5日後の1月25日(月)
の日本経済新聞夕刊に次の記事が掲載されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
関係者によると、水谷建設の元幹部は特捜部の事情聴取に対し
2004年10月15日に東京都港区の全日空ホテル(現AN
Aインターコンチネンタルホテル東京)で、石川議員に現金5
千万円を渡したと供述している。特捜部が供述した石川議員の
手帳には、04年10月15日の欄に「全日空」と書かれてい
た。横には人の名字が記載。(一部略)特捜部は、この日に水
谷建設の関係者がこのホテルに宿泊していたことを確認。「授
受」の3日後の同月18日には陸山会の銀行口座に同額の5千
万円が振り込まれていたことが判明している。
──2010年1月25日付、日本経済新聞夕刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
この新聞記事を読めば、ほとんどの人が「やはり、石川は水谷
から金を受け取っているな」と思うはずです。金を渡した日と石
川氏の手帳の15日の欄にある「全日空」の文字。さらに18日
に陸山会の口座に振り込まれた5000万円、同月の29日に支
払ったとされる土地代金の4億円──完璧です。真っ黒です。
しかし、これはとんでもない誤報であったのです。その次の日
の朝刊に掲載された次の訂正記事をご覧ください。
―――――――――――――――――――――――――――――
25日付、夕刊「手帳にホテル名メモ」の記事で、石川知裕衆
院議員の手帳でホテル名の記述がある欄は「2004年10月
15日」ではなく、水谷建設の元幹部が小沢一郎氏側への2回
目の現金提供の時期と供述しているとされる「05年4月」の
誤りでした。記事、見出しの一部を削除します。
──2010年1月26日、日本経済新聞、朝刊
―――――――――――――――――――――――――――――
しかし、これはひどい話です。石川議員に対する国民の心証は
真っ黒になってしまいます。ちなみに「水谷建設の元幹部が小沢
一郎氏側への2回目の現金提供」とあるのも何の証拠もない検察
のリークであり、夕刊の記事中の18日の5000万円の入金は
ちゃんと根拠のあるものだったのです。
しかも、新聞やテレビはそれらの訂正すべき情報を無視して報
道せず、大久保、石川両氏が全否定しているのに、証拠もないの
に水谷建設側からの2回にわたる5000万円ずつの献金──す
なわち、計1億円の献金を執拗に報道し続けたのです。
そして、陸山会事件の公判において検察は、訴因に関係のない
水谷建設の元社長の川村尚氏ら関係者を証人として次々と出廷さ
せ、水谷マネーがいかにも小沢事務所に渡ったかのような印象を
裁判長に与えたフシがあるのです。そして、登石裁判長はこの水
谷からの裏献金があったと推認して、小沢氏の元秘書3人に対し
て有罪判決を下しているのです。
なぜ、これほど証拠のない水谷建設の裏献金に執拗にこだわる
のでしょうか。これに関して、「週刊朝日」10/21号は次の
ように書いているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
そもそも「天の声」や「水谷マネー」があったからこそ、虚偽
記載が「悪質」だとされてきた。だからこそ東京地裁は、石川
議員らの判決で「法と証拠」を逸脱してまで、その悪質性を認
定しようとしたのだ。いったい、この裁判にどれだけの意味が
あるというのか。 ──「週刊朝日」10/21
―――――――――――――――――――――――――――――
陸山会判決では、胆沢ダムの工事の受注に関して、大久保隆規
元秘書が業者に対し、「天の声」などを発する中心的存在であっ
たとしていますが、大久保氏をよく知る東北の大手ゼネコン幹部
のA氏は次のようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
判決では小沢事務所の大久保元秘書が「天の声を発した」なん
て決めてかかっていましたが、大笑いです。業者にパーティー
券の大量購入や選挙協力などムチャなことを言ってきたのは、
00年まで小沢事務所で秘書を務めた高橋義信氏です。東北談
合のドンといわれた鹿島の幹部と太いパイプを築き、われわれ
も仕事欲しさにムチャな注文に渋々従った。大久保秘書は鹿島
とのパイプを高橋氏になかなか譲ってもらえず、鹿島のドンか
らはほとんど相手にしてもらえなかった。大久保氏は迫力もな
いし、紳士。パーティー券の購入枚数を減らして欲しいと頼ん
でも、文句さえ言いませんでした。
──2011年10月5日付、日刊ゲンダイより
―――――――――――――――――――――――――――――
どうやら、大久保隆規氏のイメージは大きく違うようです。1
億円の裏献金など「100%あり得ない」とゼネコンのA氏はそ
ういってクビをひねっているのでいす。
――── [日本の政治の現況/86]
≪画像および関連情報≫
●金の受け渡し場所についてのA氏の証言
―――――――――――――――――――――――――――
ホテルの喫茶店でカネを渡すのは、建築業界の常識としては
考えられない。渡すなら、料亭の個室など人目につかない場
所にします。それにただの下請けにすぎない水谷が5000
万円を2回持って行っていますが、どうしても信じられませ
ん。100億円の工事を元請けのゼネコンが取っても経費が
約3割で、残りを複数の下請けに叩いた金額で割り振る。元
請けならともかく、下請けが1億円もの巨額の裏金を捻出で
きるはずがない。「ようやく利益が出せる」というのが、下
請けの実情なんです。
──2011年10月5日付、日刊ゲンダイより
―――――――――――――――――――――――――――
「週刊朝日」10/21