国会での演説と国連総会での演説──いずれも代表選のさいに魅
せたあの語り口が姿を消し、つまらなくなったことです。役人の
作った原稿を棒読みしているからです。自ら失敗しないように安
全運転を心掛けているように見えます。これを安定というか、小
心というかは人によって違うでしょうが、私には彼はごく普通の
平均的日本人であり、実直なサラリーマンのように見えます。
日本は大国です。まして日本は未曽有の危機に瀕しているので
す。そういう国の首相には豊富な経験があるか、何か人とは違う
才能を持った人物でないと、務まらないと思うのです。ごく普通
の人では少し荷が重いのではないでしょうか。
9月24日付の朝日新聞の「記者有論」で、東北復興取材セン
ターの蔵前勝久氏は小沢一郎氏は首相になるべきであると述べて
います。朝日新聞の記者としては珍しいことです。身近で取材し
ていた記者だからわかるのでしょうが、小沢氏は普通の政治家に
はない独特のパワーを感ずるのでしょう。
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8月まで民主党の小沢一郎元代表を担当し、東日本大震災の被
災地・仙台に転勤してきて、私は率直に思う。小沢氏はやはり
首相になるべきではないか。被災地・岩手県出身として東北復
興の先頭に立つべきではないか──。9月24日付の朝日新聞
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小沢氏はきちんとした国家観を持っています。かつて彼は「日
本は普通の国になるべきである」と主張しています。小沢氏のい
う普通の国とは何でしょうか。
まず、小沢氏は「日本は真の国際国家になる必要がある」と主
張して、次のように述べています。
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国家とは本来、利己的な存在である。経済がどんなにボーダー
レスになろうと、この本質は変らない。(中略)国民の豊かで
安定した生活の前提となるのは国家の安全である。国家の安全
を確保するためには、国際環境の平和と安定がどうしても欠か
せない。今日、経済的にも軍事的にも政治的にも、どの国も単
独では自国の安全を保障し得ない以上、各国が協調してそれを
実現するしかない。 ──小沢一郎著
『日本改造計画』/講談社刊
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続いて小沢氏は、真の国際国家になるには「普通の国」になれ
ばよいというのです。そして、普通の国には次の2つの要件があ
るというのです。
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@国際社会において当然とされていることを当然のこととして
自らの責任で行うことである。当たり前のことを当たり前と
考え、当たり前に行うこと
A豊かで安定した国民生活を築こうとして努力している国々に
対し、また地球環境保護のような人類共通の課題について自
ら最大限の努力をすること ──小沢一郎著の前掲書より
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この2つの要件のうち、日本はAの要件に関しては、十分では
ないものの、これまで行ってきていると小沢氏はいっています。
問題は@なのです。@は、安全保障の問題ですが、これについて
小沢氏は次のように述べています。
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湾岸戦争時の国際貢献やPKO協力法案をめぐる論議を振り返
るまでもなく、こと安全保障となると、にわかに憲法や法制度
を口実にしたひとりよがりの理屈がまかり通り、何とか国際協
調の責任と役割を回避しようとする。どの国よりも世界の平和
と安定に貢献しなければならない立場の日本が、安全保障を国
際貢献の対象分野から除外することなど許されるわけがない。
そのことを冷静に考え、安全保障の面でも自らの責任において
自らにふさわしい貢献ができるよう、体制を整えなければなら
ない。これは、軍国主義化、軍事大国化などとはまったく別次
元のことである。 ──小沢一郎著の前掲書より
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小沢氏がこのようにいうのは理由があるのです。あの湾岸戦争
のさい、小沢氏は自民党の幹事長としてこの問題の対応に当った
のですが、その国際貢献をめぐって国が思うように動かなかった
反省を踏まえての考え方です。
その当時、日本は国内の経済発展と財の配分しか考えておらず
安全保障の面では米国におんぶにだっこの状態だったのです。こ
れでは日本は「片肺国家」であり、国際社会で通用する普通の国
になる必要がある──小沢氏はこう主張するのです。
ここで小沢氏は、北イタリアに栄えたヴェネツィア共和国のベ
ニスと古代フェニキアの都市、重商国家カルタゴを日本をになぞ
らえて警告を発しています。
ベニスは商売が上手だったわけではないのですが、全市民が政
治にも安全保障にも積極的に参加し、地中海を完全に制覇してい
たのです。自由な交易には地中海の平和が不可欠であり、それを
ベニスは自前の強力な海軍で守り、千年の繁栄を築いたのです。
これに対してカルタゴは、豊かさという点ではローマよりはる
かに上回っていたのですが、安全保障の方は財力にまかせて集め
た傭兵で軍隊を作り、国を守っていたのです。つまり、自国の市
民は安全保障に参加していないのです。そのため、農民を中心と
したローマ軍団に滅ぼされてしまったのです。それでもカルタゴ
は600年も続いたのです。
小沢氏は、このままでは日本はまだ66年しか経っていないが
カルタゴのようになると警告しているのです。現代の日本の政治
家で、これほどしっかりとした国家観を持っている人物はいない
と私は思うのです。 ─── [日本の政治の現況/75]
≪画像および関連情報≫
●「カルタゴの話」/二階堂ドット・コム
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カルタゴは紀元前250年頃、地中海に覇を唱えていた大国
でした。第2次ポエニ戦争に負けて、戦勝国から武装を解除
させられ、戦争を放棄することになったカルタゴは、戦後の
復興を貿易一筋で見事に成し遂げ、戦後賠償も全てきれいに
払い終えました。しかし、その経済を脅威だと捉えたローマ
帝国によって、結局は滅ぼされてしまいました。(中略)こ
の悲惨なカルタゴ滅亡の理由は2つあると言われています。
1つは、カルタゴ市民が軍事についてほとんど無関心だった
ことが挙げられます。もともと自国の防衛はおおむね傭兵に
頼っていた上に、国内世論も「平和主義的」な論調が強く、
有事に備えて軍事力を蓄えておくといったことはままなりま
せんでした。2つめは、国内の思想が分裂状態であったこと
が挙げられます。そもそも挙国一致して事に当たらなければ
有事を乗り切ることはなかなか難しいものですが、カルタゴ
にはそれがなく、戦時中にハンニバルが外地を転戦している
間も市民は素知らぬ顔をしていました。そして、ハンニバル
を売り渡したのはローマに洗脳されたカルタゴの売国奴達で
した。 http://www.nikaidou.com/archives/11050
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カルタゴの遺跡