界」10月号で次のように書いています。
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(陸山会裁判の)判決当日は、おそらく様々な報道や論評が飛
び交うだろう。わけても、小沢氏にまつわる「政治とカネ」の
問題、さらには小沢氏の今後の政治的影響力について、あれこ
れ取りざたされるに違いない。しかし忘れてはならないのは、
この刑事裁判は、小沢氏がクリーンか否かを決めるためのもの
ではない、ということだ。無罪判決が出ればクリーン、有罪で
あればダーティなどというものではない。だから、有罪判決が
出たからといって、反小沢陣営が「ほらみろ、やっぱり小沢は
ダーティだ」と騒ぎ立てるものではないし、逆に無罪判決が出
ても、支援者が「小沢氏のクリーンさが証明された」と逆襲に
打って出るほどのことでもない。この裁判で求められているの
は、土地の購入を巡ってのお金の出し入れについての記録が、
政治資金規正法に則って適切だったかどうかという、かなり事
務的な判断になるからだ。 ──「世界」10月号
江川紹子氏論文『「陸山会事件」とは何だったのか』
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要するに、陸山会裁判で検察側がしつこく取り上げた水谷建設
からの不法献金事件とは何の関わりもない、世田谷の土地の登記
の時期をめぐる「期ずれ」をどう判断するかというきわめて事務
手続的判断を求めるものであり、本来現職の国会議員を含む容疑
者を3人も逮捕・起訴して取り調べる事件ではないのです。なぜ
かというと、訴因が「期ずれ」になっているからです。
そのことを新聞、テレビの記者クラブメディアは正確に伝えて
いない──いや、こと陸山会事件についての新聞、テレビの報道
は極端にいうと、ウソの事実を平気で流しています。メディアみ
んなでやれば怖くないというわけです。狙いは「小沢排除」に絞
られているのです。これでは、小沢氏は「天下の悪党」になって
しまいます。もし、小沢氏が無罪になったら、新聞、メディアは
どうこいう責任をとるのでしょうか。
陸山会事件は、次の2つの事件に分けて考えるべきです。
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1.西松建設違法献金事件
2.世田谷の土地の登記時期のずれ/陸山会事件
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「西松建設違法献金事件」とは何でしょうか。
これは西松建設の複数のOBを代表とする政治団体から陸山会
が受け取った献金が政治資金規正法違反であるとするものです。
その西松建設の政治団体が実体のない西松建設のダミーであると
いうのが検察の主張です。この容疑により、検察は小沢氏の秘書
の大久保隆則氏を逮捕したのです。事前の任意の事情聴取も一切
なく、いきなり逮捕です。
大久保隆則氏が逮捕されたのは、2009年3月3日のことで
小沢氏を代表とする民主党が解散総選挙を求めて、自民党の麻生
政権を揺さぶっていた最中なのです。いつ選挙があってもおかし
くないし、総選挙で民主党が勝つことはほぼ予想されていたので
す。もし、民主党が選挙に勝つと、代表の小沢一郎氏が総理にな
ることになります。
このタイミングで小沢氏の秘書は逮捕されたのです。これはど
うみても民主党潰しであり、選挙妨害です。そのときは麻生政権
による国策捜査ではないかという声が上がったのです。後で判明
したことですが、当時の自民党にもはやそれだけの力はなく、官
僚機構が「小沢だけは総理にしてはならない」としていきなり大
久保秘書を逮捕し、記者クラブメディアを使って小沢潰しを仕掛
けたのです。官僚機構としてはもはや選挙で民主党が勝つのは確
実であったので、せめて小沢氏が総理になることだけを阻むこと
に重点を絞ったのです。これによって官僚機構がいかに小沢氏が
総理になることを警戒していたかがわかると思います。
しかし、西松建設の政治団体から献金を受けていたのは小沢氏
だけではないのです。ウィキペディアによると、自民党では二階
俊博、尾身幸次、加藤紘一、藤井幸男、森喜朗、藤野公孝、山口
俊一、加納時男、川崎二郎、山本公一、林幹雄、古賀誠、渡辺具
能、民主党は小沢一郎、山岡賢次、改革クラブでは渡辺秀央、国
民新党では自見庄三郎、自民系首長では村井仁などが同じ団体か
ら、同様な会計処理で献金を受け取っていたのです。それなのに
小沢氏の秘書だけが逮捕されたのです。
それに加えて当時の官僚のトップである漆間内閣副長官が次の
ように述べたことから、小沢氏を狙い撃ちしたものという印象が
一層強くなったのです。
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西松献金事件が自民党議員に捜査が波及することはない
──漆間内閣副長官
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西松建設違法献金事件の裁判は、検察側にとって不利に展開し
2010年になって、検察側証人からも西松建設のOBの団体は
実体のあるものであって、ダミーではないことが明らかになって
きたのです。このままいくと、大久保隆則氏の無罪は確実という
情勢になってきたのです。
そうすると、東京地検特捜部は、2010年1月15日に小沢
氏の元秘書である石川知裕、池田光智の両氏に加えて、大久保隆
則氏を再び逮捕したのです。大久保氏の裁判がこのまま進むと、
2月には無罪判決が出てしまうので、元秘書3人を逮捕し、起訴
したのです。そのさい、大久保氏に対する訴因を変更し、陸山会
事件として裁判をすることにしています。またしても参議院選挙
の直前の逮捕・起訴です。しかし、陸山会事件の中身とは、不動
産の登記時期を巡る「期ずれ」というとるに足らないものであっ
たのです。 ─── [日本の政治の現況/72]
≪画像および関連情報≫
●山崎行太郎氏の政治ブログより
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≪内閣官房副長官・漆間巌の正体と役割を読み解く≫
「自民党には捜査は及びません」と東京地検特捜部の捜査の
進展状況を某「政府高官」氏が、自信を持って断言したため
に、「小沢民主党党首秘書逮捕事件」の風向きが逆転してし
まったのではないかと思わせるほどの激震が永田町周辺を駆
け巡っているわけだが、その「失言」をしてしまった「政府
高官」氏とは、言うまでもなく内閣官房副長官・漆間巌であ
るらしいが、漆間巌という人物の正体は、意外に知られてい
ないのではなかろうか。内閣官房副長官とは、かつては田中
内閣の後藤田正晴や、小泉内閣の石原信雄、古川貞二郎各氏
等が勤めた、官邸と官僚を結びつける官僚事務方のトップと
いう重要な役職だが、麻生内閣の内閣官房副長官・漆間巌氏
の存在は、東京地検特捜部が、派手なラクダのコートを靡か
せるという、きわめて田舎芝居がかったイデタチで開始した
今回の「大捜査線」に対する「失言」でクローズアップされ
るまで、ほとんど注目されることはなかったと言っていい。
http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20090307/1236357683
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漆間官房副長官(当時)