2011年08月09日

●「首相官邸はこうあるべきである」(EJ第3115号)

 首相が名実ともにトップに立って、政治をリードしていく体制
──これをつくる必要があると小沢一郎氏は主張するのです。首
相周辺のスタッフを充実化させ、緊急課題を的確に判断して処理
すると同時に長期ビジョンに基づいて政策を立案する体制──こ
れが必要であるというのです。
 それには戦前の岡田内閣のようになってはならない──小沢氏
はそう考えたのです。岡田内閣で何があったのでしょうか。
 岡田内閣というのは、退役海軍大将の岡田啓介が第31代内閣
総理大臣に任命され、1934年(昭和9年)7月から1936
年(昭和11年)3月まで続いた内閣のことです。
 岡田啓介首相は、内閣直属の内閣調査局を作り、政策立案ブレ
ーン制を導入したのです。この調査局は各省の政策を横断的に統
合して国策にするのが任務だったのです。そしてこの内閣調査局
には、次の3つの特色があったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.全体合議制の導入
         2.15人専任調査官
         3.民間人の積極採用
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、内閣調査局は内閣にとってはまったく役に立たない存
在だったのです。それでいて内閣調査局の影響力の方は著しく拡
大し、やがて企画院として、独立官庁になってしまったのです。
このようにして官僚組織は自己増殖するのです。
 したがって、小沢氏は官邸機能の拡充強化は、首相のブレーン
を拡充する補佐官制度を導入するという方向で行うべきであり、
官僚組織を拡充させてはならないと考えたのです。
 そのためには、首相秘書官や官房長官、官房副長官で構成され
ている現在の官邸ではなく、首相の手足になる部分を多彩な人材
から成る補佐官群によって増強し、首相の頭脳を分担するための
ブレーンつくる──これが小沢氏のいう補佐官制度です。
 『日本改造計画』には、小沢氏の考える「将来の首相官邸」図
が、「現在の首相官邸」図(1993年当時)との対比で掲載さ
れているので、その図を添付ファイルにしてあります。与党の幹
事長として官邸と接した経験に基づく改革案です。
 その大きな特色は、官房長官を主席補佐官にしている点にあり
ます。内閣を首相を中心として位置づけるためです。小沢氏はこ
れについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 内閣官房長官を首席補佐官とするのは、内閣を名実ともに、首
 相を中心としたものに位置づけるという狙いである。また首相
 の側近を一元化することによって、官邸の柔軟な運営が可能に
 なる。もちろん、首席補佐官は国務大臣であり、閣僚として閣
 議に出席する。閣議では官邸を代表する立場から積極的に論議
 をおこし、議長である首相と一緒になって閣議をリードする。
 首席補佐官のもう一つの重要な役割は、拡充した官邸の調整役
 である。首席補佐官はそれに徹する。私は、ホワイトハウスに
 おける大統領首席補佐官が果たしている役割を念頭に置いてい
 る。人選でも、その点が考慮されるべきだ。最近、官房長官の
 重要性が認識されてか、有力政治家が登用される傾向がある。
 しかし、首席補佐官はあくまで首相スタッフの長であり、任期
 中はある程度までは個性を抑えて職務に尽くす必要がある。政
 界内での地位よりも、首相との信頼関係を重視した方がよい。
        ──小沢一郎著/『日本改造計画』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在の内閣官房長官は枝野幸男氏であるが、そのイメージは内
閣報道官です。小沢氏によると、これも改めるべきであり、報道
官は広報補佐官をあてるべきであるといっています。
 なぜかというと、首席補佐官はあくまで陰の調整役であり、あ
まり表面には出ない方がよいからです。陰の調整役と表の広報役
の一人二役ではどちらも満足に任務が果たせなくなる──このよ
うに小沢氏はいっています。
 企画補佐官は何をするのでしょうか。これは首相の発言を企画
し、首相の世界への発信を助ける専門家であり、実質的な「コミ
ュニケーション補佐官」です。現在、世界では、首脳発言が非常
に重要になっていますが、日本だけは、担当閣僚が発言する──
これではきわめてインパクトが弱いと小沢氏はいうのです。
 それでは、現在の官房副長官の仕事は誰がするのでしょうか。
 それは調整補佐官と政務補佐官が行うのです。これらの補佐官
は、首相と一体となって動く存在であり、スタッフも首相と共有
することになります。
 ところで、内閣審議室は何をするのでしょうか。
 内閣審議室について小沢氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 閣議を本当の意味の討議の場にするため、審議室を、議案を閣
 議にはかる前の予備的な調整機関とする。これによって、実質
 的な調整機能を官邸に持ってくることができる。審議官はこれ
 まで通り各省庁からの出向者を中心とし、一部民間人を加える
 ことを検討すべきだ。彼らは実質的な調整権限を持っているの
 で、各省庁は上位の官僚を派遣しなければ、その省庁の意向を
 反映することができない羽目になる。
        ──小沢一郎著/『日本改造計画』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 1993年の時点において小沢氏は首相官邸についてこれだけ
の構想をもっているのです。この考え方は現在でも十分通用する
はずですが、何ら取り入れられていないのです。
 しかし、どんな立派な首相官邸をつくっても肝心の首相自身が
一国を治める器量や能力、リーダーシップを持っていないと機能
しないのです。間違って首相を選ぶと何が起きるか。民主党議員
はよくわかったはずです。  ── [日本の政治の現況/41]


≪画像および関連情報≫
 ●企画院とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  企画院の前身は1935年(昭和10年)5月10日に設置
  された内閣総理大臣直属の国策調査機関である内閣調査局に
  ある。「重要産業統制法」(1931年7月公布)から始ま
  り、五・一五事件を経て二・二六事件以後の陸軍内での統制
  派の勃興以後、所謂「新々官僚(新官僚)」の牙城・内閣調
  査局の権限は強まり、より強力な重要政策を立案する組織と
  して1937年5月14日に企画庁へ改組。同年10月25
  日に内閣資源局と統合し企画院が発足した。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

首相官邸のあり方.jpg
首相官邸のあり方
posted by 平野 浩 at 04:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の政治の現況 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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