2006年08月01日

オプス・デイへのヴァチカンの通告(EJ1889号)

 アリンガ・ローサ――「レッド・ヘリング」についてもう少し
追加説明を続けます。レッド・ヘリングというのは、燻製ニシン
のことです。かつて、猟犬を訓練する際、燻製ニシンを使って匂
いをつけ、獲物の匂いと紛らわしくしておいたことから、転じて
目くらましの意味にも使われるようになったのです。
 また、奇術において、タネがバレないように観客の注意をひき
つけておく道具や、ミステリーにおいて犯人を分かりにくくさせ
るための偽の手がかりなどもレッド・ヘリングというのです。
 オプス・デイの司教であるアリンガローサの名前がこの「レッ
ド・ヘリング――目くらまし」を意味するということは、この人
物を登場させることによって、ダン・ブラウンが「ダ・ヴィンチ
・コード」において一番訴えたいことに少しぼかしを入れたもの
と考えられるのです。
 一番わかりにくいのは、アリンガローサとヴァチカン長官らと
の会談です。一体何が目的だったのでしょうか。ヴァチカン側か
らオプス・デイに対して相当巨額の資金が渡されているのです。
 しかし、原作はともかくとして、映画においては会談の目的は
きわめて不透明です。したがって、原作を読まずに映画だけを観
た人は、オプス・デイ側がヴァチカンに対して何かを持ちかけ、
ヴァチカンが渋々それにしたがったとしか思えないのです。
 この部分に関しては、原作と映画では明らかに解釈が異なって
います。何しろ「ダ・ヴィンチ・コード」の映画化に関しては、
6ヵ月余りの間に台本が25回も書き直されているのです。原作
の映画化に関して、ヴァチカン側から何らかの申し入れがあった
のでしょうか。
 映画を観る限り、要するにプロットはこういうことであろうと
思います。ヴァチカンはカトリック教会の崩壊につながりかねな
いある重大な秘密を早急に手に入れる必要性に迫られ、その仕事
をオプス・デイにやらせることに決め、アリンガローサをカステ
ル・ガンドルフォの教皇の山荘に呼び出したのです。
 そして、アリンガローサに6ヵ月という期限を切って、その秘
密を手に入れるよう命じたのです。もちろん、それ相応の資金を
渡すことを条件としてです。
 アリンガローサは熟慮のすえ最も信頼のおける修行僧シラスに
その仕事を打ち明けたのですが、アリンガローサとしてはその仕
事を成し遂げる自信がなかったのです。そして、むなしく5ヶ月
が経過してしまうことになります。
 そのとき「導師」と名乗る男から連絡が入るのです。「シオン
修道会が秘密を握っている」という情報です。そのときから、シ
ラスは、その導師の携帯電話からの指示にしたがって行動を開始
するのです。そして、シオン修道会の総長と3人の参事を殺害し
秘密を握る「キーストーン」に迫ります。
 いよいよ秘密を握るキーストーンが今夜にでも入手できるとの
シラスの情報に狂喜したアリンガローサは、ヴァチカンと連絡を
取り、導師に支払う資金を要求するとともに、会議の開催を求め
て、カステル・ガンドルフォ山荘に乗り込むのです。昨日のEJ
でご紹介したヴァチカンとの会議がそれに当たるのです。
 会議が終わると、アリンガローサとヴァチカンの長官は外に出
て次の会話をかわします。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 長官:その導師とやらに非常な信頼を置いているようだね。
 司教:イエスでもあり、ノーでもあります。向こうの知らない
    もうひと組の目も使っていますから。
 長官:いつもながら万全の策だな。
 司教:導師の意に従う天使を貸し与えました。わたしのシラス
    ほど優れた神の兵士は考えられません。
 長官:君の修道僧か。献身は何よりの――
 ――アリンガローサの携帯電話が鳴る。
 司教:アリンガローサだ―――そんなばかな
 ――アリンガローサは青ざめ、長官と視線を合わせる
 司教:キーストーンの奪取に失敗しました。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、原作は大幅に違うのです。ヴァチカンが最初にアリン
ガローサを呼び出したのは、ヴァチカン評議会がオプス・デイへ
の認可の撤回を決定したことを伝えるためだったのです。そのさ
いのヴァチカンの国務省長官のことばを原作からご紹介します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 わかりやすく言いますと、本日から6ヵ月後、オプス・デイは
 ヴァチカンの属人区と見なされなくなります。あなたがたは独
 立した教会組織になる。教皇庁はもはや無関係です。聖下も同
 意され、すでに正式な文書の作成がはじめられています。
             ――ダン・ブラウン著/越前敏弥訳
  『ダ・ヴィンチ・コード(下)』より。角川文庫14159
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 原作では、上巻の後半部分にアリンガローサとヴァチカン長官
との会談のシーンは描かれているものの、会談の内容が何であっ
たのかについては触れていません。だだ、アリンガローサが衝撃
を受けた様子については次のように記述されています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 扉に歩み寄ったときには、これから衝撃的な知らせを聞くこと
 になろうとは、そしてそれを機につぎつぎと恐ろしい出来事が
 起ころうとは、夢にも思わなかった。一時間後、会合を終えて
 おぼつかない足どりで部屋から出てきてはじめて、事の重大さ
 が身にしみた。あと、6ヵ月、アリンガローサは思った。神よ
 お救いください。!            ――上経書より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このときの会談が何かわかるのは、下巻の189ページ以降な
のです。しかし、映画は明らかに違うのです。ヴァチカンからか
オプス・デイからか――いずれかから、何らかのクレームが届い
たのでしょうか。     ・・・・・・・ [D−コード07]


≪画像および関連情報≫
 ・米国におけるオプス・デイの状況
  ―――――――――――――――――――――――――――
  米国における教団信者は5千人を数える。全米20都市にお
  いて、50ヶ所以上のセンターが開設された。米国における
  オプス・デイの活動の最盛期は、レーガン政権時代に一致し
  教団は、ホワイトハウス、国防総省の中級・高級官僚に代理
  人を有していた。クリントン政権下でも、教団は、ゆっくり
  とではあるが、発展した。しかしながら、ブッシュ大統領の
  就任後、状況は変わった。スパイ容疑で逮捕されたFBI職
  員ロバート・ハンセンがオプス・デイ信者であることが判明
  し、教団による米行政府・司法府への浸透工作の疑惑が持ち
  上がっている。           ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

1889号.jpg
posted by 平野 浩 at 06:49| Comment(0) | TrackBack(0) | ダ・ヴィンチ・コード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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