2006年07月31日

オプス・デイとヴァチカンとの関係(EJ1888号)

 このあたりでシラスの属するオプス・デイという宗教組織につ
いて説明しておく必要があります。シラスはこれまでに5人を殺
しており、組織の指令による殺人であるとすると、凶悪で邪悪な
組織のように見えます。
 実はこのオプス・デイ――実在の宗教組織なのです。しかも、
カルト的色彩は濃いものの、れっきとしたカトリック教会の一員
なのです。1995年現在、オプス・デイは世界80ヶ国に公称
7万7000人の信徒を有しているといわれます。
 どうしてオプス・デイの会員がこのように伸びたかというと、
皇王ヨハネ・パウロ2世から特別のお墨付きをもらったからなの
です。特別のお墨付きとは、1982年にオプス・デイは「属人
区」として承認されたことをいいます。
 「属人区」とは何でしょうか。
 現在のカトリック教会の組織は、大部分は地域によって分けら
れ、信者は居住する区域の教会に属することになります。しかし
カトリック教会は地域的な習慣の違いなどから、種々の典礼を認
めているのです。すべての地域の教会が同じ典礼をやっているわ
けではないのです。
 例えば、あるカトリック信者が、自分が洗礼を受けた時とは異
なる典礼区域に移住した場合、その地域の教会に属さずに地理的
には別の場所にあっても、自分の典礼の教会に属すことが認めら
れています。これを「属人区」というのです。
 オプス・デイは「属人区」が認められていますが、これは独特
の典礼を行うオプス・デイの場合、どこに居住していようとも地
域の教会に属さず、あくまでオプス・デイの会員として行動でき
ることを意味しています。それでいて、れっきとしたカトリック
教会の一組織なのです。明らかに特別扱いといえます。
 「ダ・ヴィンチ・コード」の原作のなかで、オプス・デイの司
教アリンガローサが次のようにいうところがあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これはまったく合法的な取引です。オプス・デイはヴァチカン
 市国の属人区であり、教皇聖下はあらゆる形で資金の用立てを
 なさることができます。いかなる法も犯していません。
                    ――アリンガローサ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 要するに、オプス・デイは聖職者の地位と同様で、地理的な制
約を一切受けないのです。これは大変な厚遇であり、ヴァチカン
はなぜオプス・デイをこれほどまで厚遇するのかが話題になるほ
どの贔屓ぶりといえます。
 オプス・デイには現在賛否両論があるのです。オプス・デイと
は「神の御業」という意味なのですが、会員にとっては、創始者
であるホセマリア・エスクリパーの説く日常生活の聖化を実践す
る場であるのに対して、批判者は会員の勧誘が強引であり、おの
れの意思を貫くのに手段を選ばない――隠蔽でも裏工作でも何で
もやる、強力で危険な狂信的組織であるというのです。つまり、
批判者にとってオプス・デイは、かつてのオーム真理教と同じで
あるといえます。
 ダン・ブラウンは、「ダ・ヴィンチ・コード」においてオプス
・デイを邪悪な宗教組織として描いていますが、それはそうする
ことによって、背後にいるカトリック教会に批判の目を向けてい
るとも解釈されるのです。
 原作や映画で、オプス・デイの司教アリンガローサとヴァチカ
ンの長官を含む幹部が接触するシーンがあります。シナリオで再
現してみましょう。司教はアリンガローサを指します。アリンガ
ローサと受け応えするのは若い幹部です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 長官:ようこそ、司教。会議を始めるとしよう。
 ――長官以外の4人はいっせいに答える。
 4人:父と子と聖霊の名において。
 長官:どんな話かね。
 司教:既にお伝えしましたが、金額は―――
 幹部:ヴァチカンの無記名債権で2000万ユーロ。高い手数
    料ですね、司教
 司教:いろいろ手を尽くさなければなりませんから。それに自
    由には大きな代償が伴うものです。
 幹部:あなたがそれを与えてくれるというわけですか。
 司教:私は人々の信仰を取り戻す手段を提供するだけです。
 幹部:何とも謙虚な―――
 長官:君の依頼に応ずるとして、この計画はいつから始めるの
    かね。
 司教:実は今夜です。すでに始まっています。わたしは口だけ
    の人間ではありません。行動で表します。ヴァチカンが
    教会法を緩めようとするのは、神を敬わない卑怯な行為
    です。キリスト教の神髄が踏みじみられているために、
    毎日どれだけの血が流されるのでしょうか。
 ――アリンガローサはグラスのワインを古い木製のテーブルに
 ぶちまける。
 司教:それも終わります。今夜、聖杯がもたらされます。今夜
    キリスト教の王座が聖化されるのです。
 ――アリンガローサは熱のこもった目で全員を見直す
 司教:「導師」とのみ名のる人物から接触を受けました。この
   議会のことをよく知っている男です。シオン修道会のこと
   も―――。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 映画にこういう会話のシーンがあるのですが、流して聞いてし
まうと、何のことかさっぱりわからないと思うのです。ちなみに
会談が行なわれている場所はカステル・ガンドルフォ――ローマ
教皇の避暑用の山荘のあるイタリア共和国ラツィオ州ローマ県の
地名。ヴァチカンの長官とオプス・デイの司教が何やら取引して
いる感じです。      ・・・・・・・ [D−コード06]


≪画像および関連情報≫
 ・アリンガロ−サの名前に隠された意味
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アリンガロ−サを「アリンガ・ローサ」と区切って読むと、
  イタリア語で「赤いニシン」、英語の「レッド・ヘリング」
  という意味になる。「レッド・ヘリング」とは、ミステリー
  小説において「読者の注意をほかにそらす仕掛け」のことで
  あるが、確かにアリンガローサやシラスの存在がこの小説を
  複雑なものにしているのは確かである。
  http://shizuoka.cool.ne.jp/littlewonder/consideration5.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

1888号.jpg
posted by 平野 浩 at 06:31| Comment(1) | TrackBack(0) | ダ・ヴィンチ・コード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いくつか事実誤認がありますが、一点だけ。
オプスデイに所属するカトリック信徒は、いずれかの小教区(通常は地域の教会)に所属する義務があります。
Posted by 通りすがり at 2016年08月21日 23:39
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