2006年07月24日

なぜ『ダ・ヴィンチ・コード』はヒットしたか(EJ1883号)

 全56回にわたる「秘密結社の謎と真相」のテーマに続いて、
その連載ではあまり触れることのできなかった「ダ・ヴィンチ・
コード」(小説+映画)について書いてみることにします。タイ
トルは次のようにしたいと思います。
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  「研究/ダ・ヴィンチ・コード/キリスト教の真実」
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 今回は予告編のような話です。ところで、『ダ・ヴィンチ・コ
ード』の原作や映画は、ご覧になったでしょうか。
 映画館の混み具合、書店における『ダ・ヴィンチ・コード』関
連の書籍の扱い方などを見ると、そろそろ、ダ・ヴィンチ・コー
ド・ブームも一段落つきつつあるという感じです。しかし、EJ
の前回のテーマを読んでいただいた読者の方にはぜひ小説を読ん
でいただきたいし、映画も観て欲しいと思います。キリスト教に
ついて改めて考える機会が持てるからです。
 この小説にはいろいろな特徴がありますが、実は誰も指摘して
いない大きな特色がひとつあるのです。それは、この物語がある
日の午後10時46分から、次の日の夜までの話であるというこ
とです。
 とくに最初の夜が長い――角川文庫の14158の3分冊のシ
リーズでいうと、「上」と「中」までが最初の夜――午後10時
46分から翌日の午前6時頃までに当たります。そして、3冊目
の「下」が次の日の朝から夜までということになります。
 小説や映画の時間は、長いものなら何十年、何百年に及ぶもの
は珍しくありません。「それから5年の月日が過ぎて・・・」と
いうように、簡単に年代をスキップできるからです。
 しかし、今年の1月封切りの日本映画『有頂天ホテル』で脚本
家兼監督の三谷幸喜氏は、映画の時間と現実の時間を一致させる
珍しい映画作りをやっているのです。
 ある年の大晦日の午後9時45分から新年までの2時間15分
――本当は2時間にしようと思ったのですが、15分伸びてしま
ったので、午後10時を指している時計の針をCGで9時45分
に修正――この2時間15分に物語を詰め込んだのです。究極の
ワンシーン・カットであるといえます。
 映画『ダ・ヴィンチ・コード』の上映時間は150分です。も
ともと短い時間の中で何十年もの物語が語られるのが普通の映画
において、わずか1500分の間に起こった出来事が10分の1
の150分で語られるのに、何となく違和感を感ずるのはなぜで
しょうか。私はとても「長い夜だなぁ」と感じてしまうのです。
 したがって、映画の時間と実際の時間を一致させることは凄い
ことなのです。映画の中で経過する時間は、実際の時間よりも、
はるかに短く感ずるものなのです。
 それはさておき、なぜ、ダン・ブラウンの小説『ダ・ヴィンチ
・コード』は、これほどブームになったのでしょうか。たかが小
説なのです。
 『ダ・ヴィンチ・コード』のプロット自体は、ルーヴル美術館
で起きた殺人事件を発端に、ハーバード大学で宗教象徴学を教え
るロバート・ラングドン教授と、フランスの司法警察暗号解読官
ソフィー・ヌヴーが、ある日の午後10時46分から、次の日の
夜まで、秘密結社の魔手や警察の追跡をかわしながら、事件の背
後に秘められた歴史の真実に迫るという迫力に満ちたサスペンス
・ドラマに過ぎないのです。
 実は、ダ・ヴィンチ・コード・ブームが起きたのは、単にサス
ペンス小説として面白いだけでなく、キリスト教2000年の歴
史の常識を覆すと思われるアン・タッチャブルな仮説に言及して
いるからなのです。
 しかもその歴史の謎が、ルネッサンスを代表する天才芸術家で
あるレオナルド・ダ・ヴィンチの誰でも知っている名画「最後の
晩餐」の中にその手ががりが隠されている――こういうことが大
きな話題を呼んだのです。
 アカデミックな世界で常識とされていることに明らかに反する
ことを小説のかたちで発表するのは、今までにもよくあることで
す。2005年にEJのテーマとしても取り上げた「源義経=成
吉思汗説」もその典型的な例です。
 推理小説家、高木彬光氏の『成吉思汗の秘密』――史実として
確定できない部分は小説という隠れ蓑を巧みに使って、「源義経
=成吉思汗説」という大胆な仮説を実証しようとするわけです。
 それが証拠にダン・ブラウンは、サスペンス小説でありながら
ティーピングという宗教学者の口を借りて、例えば次のように歴
史を雄弁に主張しているのです。
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 「コンスタンティヌスはキリスト教徒だったと思いますけど」
 「とんでもない」ティーピングは鼻で笑った。
 「コンスタンティヌスは生涯を通じて異教徒で、抗う気力がな
 かった死の床で洗礼を受けさせられたにすぎない。当時のロー
 マの国教は太陽崇拝で、ソル・インウィクトゥス、すなわち不
 滅の太陽神を信仰し、コンスタンティヌスはその大神官だった
 が、折あしく、宗教紛争がローマ帝国に蔓延しつつあった。イ
 エス・キリストの磔刑から三世紀を経たそのころには、キリス
 ト教の信者がすさまじい勢いで増えたために、異教徒との争い
 が頻発し、激しさのあまりローマをふたつに分裂させかねない
 までになっていた。コンスタンティヌスとしても何か手を打た
 ざるをえず、やがてキリスト教を公認し、帝国の統一に利用し
 ようとした」。――ダン・ブラウン著/越前敏弥訳『ダ・ヴィ
         ンチ・コード』(中)/角川文庫14158
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 まるで、歴史書です。真面目に真剣に歴史を語っています。映
画でもこういう問答がえんえんと何回も繰り返されるのです。で
すから、映画の場合、予備知識がないと眠くなってしまう人もい
ると思います。       ・・・・・・ [D−コード01]


≪画像および関連情報≫
 ・ダン・バースタイン
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  ジャーナリスト、ベストセラー作家。中国や日本、デジタル
  技術革命などをとりあげた著作を六冊発表。近年は、インタ
  ーネットやブログやナノテクノロジーの将来を扱った本の執
  筆に取り組んでいる。革新的な技術を持った企業へ出資する
  ニューヨークのベンチャー投資会社、ミレニアム・テクノロ
  ジー・ベンチャーズの設立者でもある
  ダン・バースタイン著/沖田樹梨亜・訳
        『ダ・ヴィンチ・コードの「真実」』/竹書房
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1883号.jpg
posted by 平野 浩 at 06:42| Comment(0) | TrackBack(0) | ダ・ヴィンチ・コード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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