2011年07月01日

●「有罪判決率を上げる自白中心主義」(EJ第3089号)

 山縣有朋の官僚制度を守るためのさまざまな仕掛けを土台とし
て、平沼騏一郎や馬場義続のような検察官が力を握り、力のある
政治家を脅しつつ、妥協を図るようになったのです。この平沼や
馬場の処世術について、相手の出方によって、政治評論家の田原
総一朗氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「検察官として、ごく平均的な生き方をした人間」として平沼
 騏一郎がおり、平沼が出世した理由として、政治家のちょっと
 したスキャンダルを見つけてきては、それをフレームアップす
 る。狙いをつけている政治家が頼み込んできたら、そこで打ち
 切って大いに恩に着せる。その平沼流出世術を真似したのが馬
 場であり、これを当時の自民党の実力者である河野一郎にやり
 のち広島高検に転出させられそうになったのを河野の口利きで
 撤回させている。なお、検事総長になるほどの人物であれば、
 誰でもこの類の話に事欠かない。    ──ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 検察は平沼や馬場の時代から、有罪判決率を上げるため、次の
3つのことを心がけていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.検察官が恣意的な判断の余地を多く取れるようにするた
   め、法律の条文はできるだけ曖昧にする。
 2.客観的情況証拠を重視しないで、あくまで容疑者の自白
   に重きを置き、それを証拠の中心にする
 3.もし、無罪判決が出たときは「検察職」の権威を保つた
   め、控訴を続けて執拗に戦うことにする。
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記3つのことは、現在の検察の中で生き続けているのです。
多くの客観的情況証拠を集めるよりも、取り調べを強化して、自
白調書を作り上げ、裁判所もそういう自白調書を一級の証拠とし
て活用してきたのです。しかし、あの証拠改竄事件によって、検
察の権威には黄ランプが灯ってはいますが、本当に検察の改革が
進むかどうかは予断を許さないものがあります。
 こうした日本の検察の自白主義に対して、鋭い知覚で日本につ
いて書いている政治学者、チャーマーズ・ジョンソンは次のよう
に書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の警察、検事、裁判官は、自白を「証拠の王」と考える。
 自白は、あらゆる検事が起訴に先立って欲しがる決定的な証拠
 であり、それはまた、検事のそれまでの努力が法廷でどれだけ
 裁判官に認められるかを決める、唯一もっとも重要な要素であ
 る。内容の詳しい自白に比べれば、情況証拠は明らかに二の次
 である。このように検事と裁判官が自白をより重視することか
 ら、日本の警察が、客観的≠ノ事件を証拠だてするよりも、
 自白を得ることに力を注ぐこともそれはど驚くことではない。
            ──カレルウォルフレン著/篠原勝訳
            『日本/権力構造の謎』上/早川書房
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、敗戦により、日本に進駐した占領軍は、この慣行を変
えようとしているのです。それは、それまでかなりの割合におい
て、自白が拷問などによって引き出されていたからです。
 そこで憲法において、次の規定──憲法第38条が設けられる
ことになったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
 2.強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留
   若しくは拘禁された後の自白は,これを証拠とすること
   ができない。
 3.何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である
   場合には,有罪とされ,又は刑罰を科せられない。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この規定は、大日本帝国憲法にはないのです。第1項は、黙秘
権(自己負罪拒否特権)を規定しており、第2項と第3項は自白
法則を規定しています。この条文によって自白の証拠性は否定さ
れているのです。また、唯一の証拠が本人にとって不利益な自白
だけであるという場合は、それによって有罪になることはなく、
検察は、自白以外の証拠を十分に得なければ、起訴出来ないこと
を意味しているのです。
 しかし、占領時代が終わると、自白が決め手の有罪判決が多く
なってきています。それは、大雑把に見積もって、全有罪判決の
65〜75%を占めるようになったのです。この有罪率がさらに
進んで99.9 %に達するようになるのです。これは、明らかに
憲法第38条の規定に違反しています。
 実際に被告が撤回した自白が、後で証拠として使われることも
あるのです。こういう場合に裁判官の姿勢が重要になるのですが
検事サイドのこのやり口を阻もうとする正義感のある裁判官は、
ほとんどいないとウォルフレン氏は慨嘆し、著書で次のように書
いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1987年12月16日、東京地裁の反町宏裁判長は住居侵入
 強盗・婦女暴行未遂の罪に問われた被告に無罪を言い渡し、容
 赦なく自白を引き出す検事のやり方を公然と批判した。筆者が
 判事や弁護士にインタビューしてわかったのは、1パーセント
 のさらに何分の一というごくわずかながら、検察側が負けたケ
 ースがあるのは、自由主義的な裁判官が撤回された自白を証拠
 として認めなかったためだということだった。
            ──カレルウォルフレン著/篠原勝訳
            『日本/権力構造の謎』上/早川書房
―――――――――――――――――――――――――――――
             ─── [日本の政治の現況/15]


≪画像および関連情報≫
 ●法学館憲法研究所/「憲法第38条逐条解説」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  刑事手続における被疑者や被告人に限らず、証人も刑事責任
  を問われる可能性のある供述を強要されることはありません
  (1項)。この供述拒否権は、刑事裁判のみならず民事裁判や
  議院における証言の場においても、また行政手続においても
  保障されます。2項は強制された自白など、任意性のない自
  白を証拠として使うことを禁じます。強制や利益誘導されて
  得られた自白は虚偽である危険が大きいですし、捜査機関に
  黙秘権侵害をさせないようにするには、証拠として使えない
  とすることが効果的だからです。2項に列挙された事由はあ
  くまでも例示であり、たとえば長時間にわたる取調べによっ
  て得られた自白も、その任意性に疑いを生じさせるようなも
  のであれば証拠として使うことはできません。3項は、自白
  を唯一の証拠とする場合にも有罪とできるとすると自白強要
  のおそれや誤判の危険が高まるので、その自白だけでは有罪
  にできないとしました(補強法則)。
                  (2006年11月3日)
        http://www.jicl.jp/itou/chikujyou.html#038
  ―――――――――――――――――――――――――――

田原総一朗氏.jpg
田原 総一朗氏
posted by 平野 浩 at 04:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の政治の現況 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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